■コロナ禍での「ペブルビーチ」2度目の挑戦
クラシックカーによるコンクール・デレガンスの世界最高峰に君臨する「ペブルビーチ・コンクール・デレガンス」では、アメリカ国内をはじめとする全世界のコレクターたちが愛車を持ち込み、そのコンディションや来歴の正統さを毎年競っている。
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PGA全米オープンの会場としても世界にその名を轟かせる名門ゴルフ場「ペブルビーチ・ゴルフリンクス」18番ホール周辺を舞台におこなわれるこのコンクール・デレガンスは、規模・格式ともにきわめて高く、エントリーは完全招待制。出展総数は約200台という制約があるのに対して、世界各国から毎回1200台から1500台のエントリー希望が寄せられるという「狭き門」をくぐりぬけて会場に愛車を並べるのは、自動車エンスージアストとして最高の栄誉のひとつとされている。
そんなペブルビーチ・コンクールに、近年積極的にチャレンジしているのが、日本を代表するクラシックカー・コレクターのひとりとして知られる涌井清春氏。氏は2021年は8月15日に開催された第70回のペブルビーチ・コンクールに、1930年型ロールス・ロイスをエントリーさせた。
●新型コロナ禍のため、2年越しとなったエントリー
ことの起こりは、おととし2019年であった。この年、ロールス・ロイス/ベントレーを専門に所蔵する私設博物館「ワクイミュージアム」の創業者である涌井清春氏は、長年所有してきた1921年型「ベントレー3リッター」ゲイルン製ツアラーとともに、ペブルビーチ・コンクール・デレガンスに初参加を果たしていた。
1950年から始まったペブルビーチ・コンクールが第69回を迎えたこの年は、ベントレーにとっても創業100周年という節目であったことから、メインフィーチャーブランドとして車種別の「ベントレー」クラスが設定されたことから、最初期に市販されたベントレー3リッターのひとつで、新車時のオリジナルボディが残されている一品製作のゲイルン製ツアラーとともに、世界の晴れ舞台に挑むことにした。
そして、この会場で確たる感触をつかんだ涌井氏は、第70回となる2020年のペブルビーチ・コンクールに「第二次大戦前のロールス・ロイス」クラスが設定されることを聞かされ、同氏が所有するロールス・ロイスのなかでもとびきりの1台、1930年型「40/50HpファントムIIコンチネンタル」カールトン製ドロップヘッドクーペをエントリーさせようと決意する。
かくして昨2020年1月にエントリーフォームを送付し、同年4月には正式に招待されることがコンクール事務局から伝えられたものの、新型コロナウイルス禍によってこの年のコンクールは、丸一年の順延となってしまう。それでも涌井氏のロールス・ロイスは昨年の段階で正式な招待を受けており、そのエントリー権が今年ようやく発効したことになる。
2年前、1921年型ベントレー3リッターでエントリーした第69回ペブルビーチ・コンクールでは、初めての参加ということで賞典を狙うコンペティション審査を受けない選択をした。しかしこの夏の第70回では、日本のレストア技術を本場のスペシャリストや識者の方々に見てもらうためにも、正式な審判を受けることとしていた。
そして、第二次大戦直前まで活動していたコーチビルダー「カールトン(Carlton)」が一品製作した2座席(+ランブルシート)のロールス・ロイスは、1930年代初頭のデザイン様式をみごとに体現したスタイリッシュなワンオフ・ボディで、きっとペブルビーチでも素晴らしい存在感を発揮してくれると期待していたのである。
■「ペブルビーチ」では実際にどのような審査がなされているのか?
ワクイミュージアムの涌井清春館長、そして同ミュージアム創立メンバーである筆者にとっても2年越しの期待が込められていた「第70回ペブルビーチ・コンクール・デレガンス」。ところが8月15日のコンクール会場に歩みを進めることができたのは、6月中旬にアメリカに向けて船積みしたロールス・ロイスだけとなってしまった。
●ロールス・ロイスの識者から高い評価を受けるも……
コンクール当日、愛車に乗るはずの涌井夫妻、あるいは2019年と同じく今回も随行を予定していた筆者もCOVID-19ワクチンを早めに接種し、いわゆる「ワクチンパスポート」を取得するなどの準備をギリギリまで進めてはいたものの、やはり現地における新型コロナ禍に対する情勢(陰性証明の取得や自主隔離の有無など)に不確定要素が多かったことから、今回の渡米は断念せざるを得なくなってしまった。
しかし、ペブルビーチ・コンクールのオーガナイザーであるマーティン・バトン氏は、遠く日本からエントリーした涌井氏に最高の配慮を図ってくれた。
バトン氏は、ロールス・ロイス/ベントレーの識者として国際的に知られるとともに、ペブルビーチ・コンクールで「ロールス・ロイス」クラスないしは「ベントレー」クラスが成立した際には必ず「ジャッジ(Judge=審査員)」の一員に選ばれる女性、ダイアン・ブランドン氏を指名。涌井氏のファントムIIコンチネンタルをコンクール会場に設置するまでのハンドリングや、日曜日の審査におけるジャッジ陣との応対を担当していただくよう手配したというのだ。
また、もしも「クラスH:戦前のロールス・ロイス」部門の上位3台に入賞することができて、コンクール当日午後の表彰セレモニーにてメインステージに登壇することがあれば、彼女が運転してプレゼンテーションを代行する約束も、バトン氏は取りつけてくれていた。
この約束どおり、大会前日にエントリー車両を受け取ったダイアン氏は、会場での進捗状況を涌井氏に知らせるメールにて「このクルマは完璧で内外装、機関の好調さまで含めて“正しいファントムII”であり、大きな関心を呼ぶでしょう」と述べている。
ところが、世界屈指のコンクール・デレガンスであるペブルビーチにおいては、たとえ欧米の著名コレクターたちであっても何度も何度も挑戦して、ようやくメインステージに愛車を進めることができる……、というのがセオリー。残念ながら、まだ2度目のチャレンジである涌井氏のファントムIIコンチネンタルが、10台以上が参加したクラスHで入賞するという夢は果たすことなく終わってしまった。
とはいえ、今回ダイアン・ブランドン氏とのコンタクトを得たことによって、これまで徒手空拳だったペブルビーチ・コンクールにおける心構え、たとえばエントリー車両の仕立て方や、会場における立ち振る舞いの方法なども知ることができたのは、大きな収穫。なによりペブルビーチ・コンクールにかかわる人々の親切な真心に触れられたことは、涌井氏にとって最高の僥倖だったようだ。
来る2022年の「第71回ペブルビーチ・コンクール・デレガンス」に、ロールス・ロイスないしはベントレーのクラスが設定されるかどうかは、現時点では不明である。また、ペブルビーチ出品にはかなりのエネルギーを要することから、涌井氏も今後のエントリーについてはまだ決定には至っていない。
でも、今年は現場に行くことができなかった捲土重来を期して、加えてまだ直接お会いしたことのないブランドン氏に、今回お世話になったお礼をするためにも、なんとか来年以降もチャレンジを継続していただきたいと願っているのである。
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