ホンダが次期GT500車両として発表した、シビック・タイプR-GT。5ドアのベース車両でGT500で初めて参戦するシビック・タイプR-GTには、そのシルエットの独特さに期待と不安が入り混じるが、実車が初披露された岡山国際サーキットの現地にて、開発を担当したHRCのスーパーGTプロジェクト責任者の佐伯昌浩エンジニア、そして車両開発担当責任者の往西友弘エンジニアが取材に答えた。まだまだ話せる内容が限られている状況ではあるが、シビック・タイプR-GTの開発ポイントや特徴などが垣間見えた。
「我々開発側にとっては今回のベース変更、事前シミュレーションにおいてもキャラクターが大きく異なるという予測結果も出ていまして、非常に大きなチャレンジになると受け止めております」と、まずは取材会で第一声を発した佐伯エンジニア。
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車両担当の往西エンジニアも「現在のスーパーGTの車体技術規則は共通サスペンション部品や共通空力形状で性能を上げるための開発可能な自由エリアが非常に狭い状況となっています。このようなレギュレーション下では、ベース車両の変更点は非常に大きな変化を生むことになります。シビック・タイプRは今までGT 500 車両に採用された例のないようなボディ形状をしていますので、我々の大きなチャレンジになります」と、『大きなチャレンジ』を強調した。
実際、真横から見たシビック・タイプR-GTはこれまでのNSX-GTに比べると、やはりリヤ周りの大きさが気になる。スーパースポーツのNSXに対して、5ドアのシビックを比べるとそう見えるのは当然とうえば当然だが、この5ドアベースのシビック・タイプR-GTでライバルとどのように戦うのか。
そのヒントのひとつが、前面投影面積の小ささだ。
「NSX-GTに比べて、シビック・タイプR-GTの方が前面投影の面積は小さいです。真正面から見た時のクルマの輪郭の面積ですね。これはベース車両によるものでして、ベース車両をスケーリングした面積がNSXより小さいということです。全体的にシビックは細身ですよね」と往西エンジニア。
つまり、ドラッグに関してはNSXよりもシビックの方が優秀で、単純に考えればストレート速度はNSXより速くなることが考えられる。しかし、もちろんそう簡単な話ではない。ドラッグが小さくなるということは、ダウンフォースを稼ぐことはむしろNSXよりも難しくなるかもしれない。いわゆる、L/D(エル・バイ・ディー/リフト・バイ・ドラッグ)の空力効率をどのように高められるかが勝負になる。
もう一点は、キャビンが大きくなることの利点として、構造物の配置がこれまでよりも自由度が高まる点だ。もともとのベース車両がミッドシップだったNSX、GT500ではFRでフロントにエンジンを搭載することでフロントタイヤからマシン先端までのエリア、ボンネット内部のスペースが小さく、エンジン周りの補器類、クーリング面で苦労があった。
「その点は確かに楽になる部分はありますね。NSXとはだいぶ形も違います」と往西エンジニア。
勝手な想像では、エンジンのクーリングに余裕が出て、さらに出力アップが狙えるのでは……と考えるが、佐伯エンジニアは「そこはノーコメントで」と、はぐらかされた。
そのシビック・タイプR-GTのエンジンについては、基本的にはNSXの正常進化版になる模様だ。「オープンにできない部分は多いですが、基本的に今季からあまり変えるつもりはありません。ボディ形状が変わるので、エンジンを変えると違いが分からなくなることもありますので、今の特性を維持する方向で考えています」と佐伯エンジニア。
まだまだ、サーキットでのシェイクダウンもしていない段階とのことで、「空力に関してはまだ幅広く確認しているという段階で」(往西エンジニア)、シビック・タイプR-GTの現在の評価もホンダ内で把握しきれていない部分が多いようだが、果たして、そのポテンシャルはどの程度なのか。
まずは翌日からの岡山国際サーキットでのシェイクダウン走行を見守りたい。
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