長年に亘り信頼性の高さで多くの根強いファンを持ち、アイサイトなど先進安全装備の拡充で新規顧客を多く獲得してきたスバル。
しかし昨今は無資格者完成検査問題(2017年10月発覚)、排ガス・燃費データ不正問題(2017年12月発覚)、安全性能データ不正問題(2018年9月発覚)など不祥事が続いている。
言わずもがな国内でのブランドイメージが落ちている。スバルは今後いかにして立ち直るべきなのだろうか?
堅調に推移する北米市場と、これからの国内市場の動向に迫ります。
文:桃田健史、井元康一郎/写真:ベストカー編集部
ベストカー2018年12月26日号
■「生産部門の聖地」から生まれてしまった不正
TEXT:桃田健史
フォレスターのカーオブザイヤー辞退にまで発展した、相次ぐスバルの不正行為。不正の種類はさまざまあるが、そのほとんどが生産現場で起こっていた。
スバルにかぎらず、三菱、スズキ、日産などで明らかになったさまざまな不正も、生産現場を基点としている点が共通だ。
メーカー幹部が謝罪会見する時は決まって「何年にも渡りこうした行為が繰り返されてきたことを認識していなかった」と語り、そのうえで「企業理念に立ち返り、再発防止に全力を尽くす」と首(こうべ)を垂れる。
それにしても、なぜ、生産現場での日々の行いが経営陣に伝わってこなかったのか? そこに、自動車産業界に長年に渡り染みついてしまった、ホワイトカラーとブルーカラーとの間の「壁」があるからだと思う。
まるで戦後間もない頃の日本社会をイメージする、こうした「壁」が未だに存在するのだ。各メーカーの生産現場でのさまざまな不正の詳細が浮き彫りになる度に、「壁」の存在が白日の下にさらされた。
一般的に、ホワイトカラーとは営業職や経理職などの文科系を指す。一方、ブルーカラーというと工場で汗水流して働く労働者のイメージが色濃い。
自動車産業の場合、設計や研究開発の部門が、ホワイトカラーとブルーカラーとの間を調整する役目がある。
営業やマーケティングからの要望を図面に落とし、それをなんとか製造してもらうために工場の製造関係者と交渉するのだ。
だが、そうした技術職社員が、生産現場の雰囲気にはどうしてもなじめないと話すことがある。工場は「生産部門の聖地」であり、有形無形の「掟(おきて)」があるようなイメージを持っている自動車業界関係者は多いと思う。
こうした、ホワイトカラーとブルーカラーとの距離感が、自動車メーカーによってかなり差があるのだと思う。
スバルの場合、群馬県太田市を城下町として、愚直で真面目に水平対向エンジンや四輪駆動車を愛する社員たちが日々精進している、というのが本誌読者のイメージだと思う。
そのためホワイトカラーとブルーカラーとの距離は短いどころか、まったく存在しないように錯覚してきたのかもしれない。
ところが、現実は大きく違ったと言わざるを得ない。
■新プラットフォーム採用も国内市場伸び悩みの要因は根深い
TEXT:桃田健史
日本国内での販売伸び悩みについて、インプレッサとXVの新車効果が薄れてきたからとスバル側は説明する。
両モデルはスバルグローバルプラットフォーム(SGP)を採用したことで、先代モデルと比べて乗り心地と操縦安定性が別次元へと進化した印象がある秀作だと思う。
ここに、SGPを採用したフォレスターが加わり、スバル新時代モデルの基盤ができ上がった。
だが、販売が伸びないという現実を考えると、こうした真っ向勝負の戦略では、日本市場を生き抜くことはできないことは明らかだ。
アウトドアなどのライフスタイルに訴える商品訴求だけでは、ライバルとの明確な差別化が難しい。
また、各社とも四輪駆動のラインナップも充実させてきており、四駆=スバルの神通力が通用しなくなってきたともいえる。では、どうすればよいのか?
今、スバルに問われているのは、「モノづくりからコトづくり」へ明確なるビジネスモデル変革ではないだろうか。
トヨタが11月1日、事実上の販売系列廃止ともいえる大胆な流通事業変革に踏み切ることを明らかにした。こうしたなかで、流通事業におけるスバルとトヨタとの関係でも大きな変化が必要なのかもしれない。
今日のスバルは国内市場での伸び悩みをアメリカ市場が下支えしている。過去10年間のスバル大躍進の図式は変わりない。
今のところ、アメリカでのスバルは日本での各種不正行為の影響はほとんどない。トランプ政権による好景気、またコンパクトSUVシフトといったスバルに追い風が続いている間に、日本を含めた新たなる企業戦略の立案と実施を急ぐべきだと思う。
不正に対して襟を正すことを次の成長へのきっかけと捉えてほしい。
■ミニマムモデルがインプレッサという利点
TEXT:井元康一郎
負の連鎖をなかなか止めることができないスバル。「これで問題は収束」というたびに新たな問題が起こり、そのたびにバッシングを浴びる。
そのいっぽうで稼ぎ頭の米国はトランプ大統領による関税引き上げの行方が不透明で、もし関税が25%になればこれまた大打撃を食う恐れがある。
利益、販売台数を大幅に減らし、株価も暴落したスバルはこの先、復活を果たすことができるのだろうか。
結論から言えば、出血をここで止めることができれば、ふたたび成長軌道に乗ることは充分に可能だ。が、そのためにはビジネスをもう一度しっかり見直す必要がある。
スバルは一連の問題が起こるまでは、世界の自動車メーカーのなかでも屈指の高収益企業になっていた。
メルセデスベンツを擁するダイムラーやBMWなど、利益率が高いとされるプレミアムブランドのメーカーよりも利益率が高かったのである。
なぜ利益率が高かったのか。それは単に安物を作り、高い値段で売っていたからではない。スバルには2点の"特殊要因"があった。
ひとつは一番小さな自社製のモデルがインプレッサであること。それ以下の軽やサブコンパクトと呼ばれる利益の小さなモデルを手がけておらず、プレミアムブランドと同じく利益を出しやすいビジネススタイルを確立していた。
もう一点は、日本から米国に大量輸出を行っていたこと。2018年11月13日現在、日本円と米ドルの為替レートは114円前後であるが、デフレが長年続いた影響で、日本円の本当の価値はそのレートよりずっと高い。
日本からの輸出が多かったスバルは、実質円安を追い風にいくらでも儲けを拡大できたのだ。それに味をしめたスバルは、いつの間にか米国市場べったりの商売に傾倒してしまっていた。
それがトランプ大統領の輸入車に高関税をかけるという方針を打ち出したことで、一気に冷や水をぶっかけられた格好となった。
このふたつのうち、利幅の小さいサブコンパクトカーや軽自動車を自前でやらないという点は変える必要はない。変えなければいけないのはモノづくりの姿勢。
品質や性能を大事にする体制を着実に構築し、ユーザーにもう一度信用してもらうことだ。一連の問題がいちばん影響したのは足もとの日本市場であり、今のところ世界販売には大きな影響は出ていない。
が、日本でモノづくりの姿勢がこれ以上問題視されると、情報が世界に伝わり、悪影響が出る恐れは充分にある。
■クルマのよさは健在 慢心を捨て信頼を取り戻す努力を
TEXT:井元康一郎
幸いにして、スバル車はクルマとしては非常にいいものを持っている。例えば今年フルモデルチェンジされたSUV、フォレスターは、スタイルこそ地味だが、ドライブしてみるとまるで高級車のような素晴らしい乗り心地と静粛性を持っている。
また、これはスバル車全般に言えることだが、悪天候や雪道での安定性もきわめて高い評価を得ている。そういうよさが伝統的にあったからこそ、スバルにはスバリストと呼ばれる固定客がついていたし、それがなければいくら販売を頑張っても米国でここまで販売台数を伸ばすことはできなかったであろう。
だが、その基盤はまだまだ脆弱だ。このところスバルの販売を急伸させた原動力は伝統的なファンではなく、スバルの評判を好感して買った新参ユーザーだからだ。
それほど強固な支持層でない彼らは、何か問題があれば離れてしまいやすい。
そうなるとスバルのビジネススケールは、コアなファンが主体だった時代に逆戻りしかねない。スバルは"クルマ自体はいいのだからユーザーはついてくるはず"という慢心を捨て、品質への真剣味を世間にしっかり伝えるべき。
もう一点の米国の関税問題は、スバルにとってはもっと厄介だ。
これまで米国市場があまりにうまく行っていたため、クルマのボディサイズ、排気量からキャラクターまで、ほとんど米国を向いたものになっていた。
経営データを見ると、米国の現地生産は輸出に比べて利益がきわめて薄く、関税がかけられたら米国で作れば解決するというものではない。
といって今のラインナップでは米国以外の国でのビジネスを拡大させて補うのも難しい。スバルが本当に復活するには、米国一本足打法をやめて、本当の意味で世界のスバルと言われるようなバランスのいいモデルラインナップを整備しなおす必要がある。
が、これには長い時間と強い意志が必要だ。それを成し遂げられるかどうか、スバルのこれからの"再チャレンジ"に注目したい。
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