近年バイクメーカーが力を入れている「ネオクラシック」というカテゴリー。かつて人気を得たレジェンドバイクを現代の技術でリバイバルするが、はたしてそこに「旧車の味わい」はあるのか? 本記事ではヤマハのスポーツヘリテージ XSR900を取り上げる。’22年6月30日にフルモデルチェンジを敢行した本機、新設計の3気筒に電子デバイスを投入した走りはレトロなスタイルとのギャップに驚愕だ!
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●文:ヤングマシン編集部(伊藤康司) ●テスター:丸山浩 ●写真:関野温 真弓悟史 ●外部リンク:ヤマハ
ヤマハ XSR900 概要:’80sのGPシーンを投影するスポーツヘリテージ
XSR900はスポーツネイキッドのMT‐09をベースに生まれ、ヤマハでは“スポーツヘリテージ”にカテゴライズされる。’16年の初代XSR900はレトロな外観と先進技術のパフォーマンスを併せ持つモデルとして開発されたが、とくにモチーフとなる車両は明言されていない。しかし’16年、’17年のモーターサイクルショーで、ワイズギアからオーセンティック外装キットとして、’80年の初代RZ250をイメージさせる白および黒の外装キットが発売されている。
そして’22年の6月30日に、排気量を拡大(845→888cc)し、IMUなど電子装備も満載した新型にフルモデルチェンジ。今回は「1980年代レーサーを彷彿させるデザインと最新テクノロジーを融合」とリリース。プロモーションムービーでは’80年代に活躍したクリスチャン・サロンや、ソノート・ヤマハのゴロワーズカラーのYZR500がサーキットを駆け抜けるGP映像を盛り込んでいる。
新型XSR900のカラーはブルーとブラックの2色だが、ブルーの方は明らかにソノートカラーを踏襲し、ヤマハが’80年代に発売したRZ250RやTZR250、他にもYSR50やFZR400でもランナップされたブルーのカラーを強くイメージさせる。
―― 【‘80sの象徴ゴロワーズカラー】’80年はフランスのソノート・ヤマハをタバコブランドのゴロワーズがスポンサード。当時のスポーツ車をレプリカカラーで数多くリリースした。写真左はTZR250。
―― 【’80 RZ250/’81 RZ350】市販レーサーTZ250を彷彿させる水冷2スト2気筒に市販オンロード初のモノクロスサスペンションを装備し、クラスを超えた速さを発揮。特にRZ350は「ナナハンキラー」の愛称で親しまれた。 [写真タップで拡大]
―― 【’86 RZ250R:ソノートカラーのRZ】RZ250直系のネイキッドモデルRZ-RはレーサーレプリカTZR250発売後も併売。’86年のマイナーチェンジでソノートカラーが登場した。 [写真タップで拡大]
ヤマハ XSR900 試乗インプレッション:昔を引きずらない新しいスポーツバイクの概念
まず走り始めて真っ先に感じたのが「しっかり攻めなきゃ」。ダラダラと走らせていると“サスペンションの上っ面”でコーナリングしているようで、しっくりとこないのだ。これはベースとなるMT‐09ともかなりフィーリングが違う。そこをしっかり意識すると、軽量でパワフルなエンジンはもちろん、シフトやブレーキ、サスペンションのフィーリング等が非常に高いレベルでまとまっていることに気付く。
…が、それならスーパースポーツ車に乗れば良いのではないか? という疑問が湧くかもしれない。しかしそれは違う。なぜならXSR900のベースはMT‐09であり、エンジンは3気筒。そもそもが最大効率で高いパフォーマンスを狙った4気筒エンジンのスーパースポーツとは、出自が大きく異なるのだ。
ネオクラシック的視点を探ってマシンを眺めると、じつは昔のイメージはソノートカラーだけ。シングル風のシートもテールカウルではなくレザー張りで、テールランプは点灯しないと存在に気づかないような新しい意匠。何となくクラシック風でもあるが、何かしらのバイクがモチーフになっているわけではない。
この辺り、ヤマハはオーセンティックを主張するが、個人的には違うと感じる。ただしネガティブな意味ではなく、前向きな意味で“昔を引きずっていない”と感じたからだ。
だからXSR900は、見た感じ/跨った感じ/走った感じのすべてにギャップがある。これこそXSR900の最大の「持ち味」。作り込まれた細部のディテールや雰囲気は、旧き良き時代を感じさせるが、走りは新時代のスポーツバイクだ。かつてのRZやTZRを狙っているわけではないし、スーパースポーツを目指してもいない。
立ち位置がいまひとつ分かりにくいかもしれないが、もしかするとMT‐07に対するYZF‐R7のような立ち位置で、カウル付き(もちろんレトロな雰囲気の)で登場していれば、もっとキャラクターを理解しやすかったかも…と、個人的には感じる部分も。
ともあれ、もっとも新しい演出のネオクラであることは間違いないだろう。
―― 【YAMAHA XSR900】■全長2155 全幅790 全高1155 軸距1495 シート高810(各mm) 車重193kg(装備) ■水冷4ストローク並列3気筒DOHC4バルブ 888cc 120ps/10000rpm 9.5kg-m/7000rpm 変速機6段 燃料タンク容量14L ■タイヤサイズF=120/70ZR17R=180/55ZR17
ヤマハ XSR900 ネオクラポイント:レースイメージのパッセンジャーシート
―― 丸くて上面がフラットな燃料タンクは、昔の2ストGPマシンの大きな燃料タンクを彷彿させる。テールカウルを持たないが、パッセンジャーシート自体がTZレーサーのテールカウルを思わせる形状。 [写真タップで拡大]
―― メーターステー部に車名を刻印したヘアラインのプレートは、つねに視界に入るだけに嬉しいディテール。メッシュを貼ったサイドカバーのダクトやシートのステッチなど、細部の仕上げは非常にクオリティが高い。 [写真タップで拡大]
―― トップキャップのアジャスターもレース用をイメージさせる仕上げだ。 [写真タップで拡大]
ヤマハ XSR900 車両紹介
―― シート高810mm。前モデルより25mmも低くなったため足着き性はかなり良好。ステップ位置はかなり高めで、攻めのフットポジション。前傾はキツくないがハンドルが低めなため切れ角が少ない。[身長168cm/体重61kg]
―― 【4車中唯一の3気筒】エンジンはMT-09と同一仕様の並列3気筒で、前モデルからピストンやカムクランクな主要パーツを刷新し、排気量も拡大。変速比を最適化しアシスト&スリッパークラッチも装備。 [写真タップで拡大]
―― フロントフォークはプリロード+伸び/圧縮側減衰、リヤはプリロード+伸び側減衰のアジャストが可能。鋳造ホイールながら鍛造に匹敵する独自の「スピンフォージドホイール」を採用。 [写真タップで拡大]
―― 【ブレンボのラジアルマスター採用】フロントブレーキのマスターシリンダーはブレンボ製で、多くのOEM装備がセミラジアルタイプなのに対し、リニアでコントロール性に優れる純ラジアルを装備する。 [写真タップで拡大]
―― 【クイックシフターにクルーズコントロールまである】クイックシフターはアップ/ダウンの双方向タイプに進化。クルーズコントロールは設定速度の昇降も容易。緊急時にコーナーでも機能するBC(ブレーキコントロール)も装備。 [写真タップで拡大]
―― 【走行4、トラクションコントロール4モードを用意】IMUを装備することでトラクションコントロールはバンク角も反映し、スライドやリフトも緻密に制御。Dモード(走行モード)は出力特性やレスポンスを4種から選択できる。 [写真タップで拡大]
―― 【バーエンドミラーに雰囲気アリ】ミラーはバーエンドで、旧車風というより欧州系のスポーツネイキッドにも多い現代的なタイプ。低く構えるバーハンドルだが、視界は比較的良好。全幅も広すぎないイメージだ。 [写真タップで拡大]
―― 【ステップ位置は2段階調整可能】ステップはフレーム側に取り付け穴が上下に開けられ、高さを2段階に調整可能。試乗時は低い位置にセットされていたが、それでもかなり高めの“攻めのフットポジション”だ。 [写真タップで拡大]
―― シート下は比較的スペースがあるがETC車載器を装着したら満杯だろう。車載工具と書類はシート裏に収納。 [写真タップで拡大]
―― 荷かけフック類は一切装備しないので、荷物の積載は少々困難かも。 [写真タップで拡大]
―― 【細部にこだわる】サイドカバーにレーサー風のクイックファスナーを装備したり(盗難防止のため他に留め具あり)、燃料タンク後端にラバークッションを配するなど細部まで作り込んでいる。 [写真タップで拡大]
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みんなのコメント
慣れの問題だろうか。