ドライバーが休んでいる間にBEVに充電という仕事をさせる
BYDが2024年に販売開始したフラッグシップモデルが4ドアEVセダンの新型「シール」です。RWD車は満充電時の走行可能距離が640kmと大阪まで充電なしで行けるロングレンジモデルながら、車両本体価格は528万円(消費税込)とかなりリーズナブル。そこで今回は東京~大阪を往復して、RWD(後輪駆動)車の電費テストを行いました。最新のBEVの実力と、快適にドライブするコツを教えます。
BYD新型「シール」の日本での勝算は? 辛口モータージャーナリストが中華EVセダンをRWDとAWDとで乗り比べ…意外な結果をお届けします
自宅で充電できないとBEVのメリットは薄い
2010年12月に登場した電気自動車(以下BEV)の日産初代「リーフ」は、24kWhのバッテリーを搭載し、航続走行可能距離はJC08モード燃費で200kmというスペックだった。しかし、エアコンを使用すると、走行距離は減少し東京を出発し西へ向かうと急速充電器のある足柄SAまでヒヤヒヤしながらドライブしたものだった。こういった体験が「BEVは走行距離が短い」というトラウマとなったのかもしれない。
しかしBEVの市販車が登場してから10年以上が経ち、満充電時の走行可能距離はメルセデス・ベンツ「EQS450+」ではWLTCモードで700kmを達成している。つまり東京から大阪まで充電することなく到達できるスペックとなった。また充電インフラも充実し高速道路では大きなSAだけでなく、PAにも急速充電器が設置され、充電待ちとなることも少なくなっている。
筆者はこれまで、BEVでロングドライブを何度か行ったことがあるが、バッテリーが満充電近くで出発できる往路は快適なのだが、充電量が減った状態でスタートする復路は何度も急速充電を行う必要があり、タイムロスとなりストレスとなった。
この時に感じたのは、BEVは駐車場に停車している際に普通充電でチャージを行い、出発時はつねに100%の状態で出発できるようにすること。このことがBEVのメリットであり、これがストレスなくドライブできるコツだということだ。
しかし自宅は集合住宅のため、各自動車メーカーから借りてきた撮影用のBEVは自宅を出発する際には、すでに満充電ではない状態からスタートとなるため、性能がアップしたBEVの旨みを充分に味わうことができなかった。これは都市部では集合住宅の多い日本で、なかなかBEVが普及しない理由が住環境にあるということを表しているのではないだろうか。
100%の充電量でいざ出発
偶然とはいえ、筆者の自宅の周りの時間貸駐車場に実証実験として200V 6kWhの普通充電器が5器も設置された。自宅の駐車場は幅と高さに制限があるので、多くのBEVは入らない。したがって時間貸駐車場に駐車するのだが、実証実験中の普通充電器は駐車場代を払えば、現在のところ無料で使用できる。これのおかげで自宅に普通充電器があることと同じような条件となり、100%の充電量で出発できるようになった。
この停めている間にエネルギーが100%になるというのは、嬉しいというよりも優越感すら感じる。まさにこれがBEVをもつ最大のメリットなのだと噛みしめている。このチャンスを活かして、BEVの最新モデルであるBYD「シール」で大阪へ2泊3日の電費テストを行った。
今回のBYD シール RWDの電費テストは、大阪でのユーザー取材を兼ねて行い、東京と大阪の往復は高速道路を利用。宿泊地は滋賀にある普通充電器のあるホテルに決めた。駐車中に普通充電することで出発時の充電量を100%とする作戦だ。
急速充電に頼らず、普通充電での長時間充電がポイント
今回のテスト車は、車両本体価格528万円(消費税込)のBYD「シール」のRWD(後輪駆動)車。ボディサイズは全長4800mm×全幅1875mm×全高1460mm、車両重量2100kg、モーターは最高出力312ps、最大トルク360Nmを発生。駆動用バッテリー容量は82.56kWh。満充電時の走行可能距離は640kmとなっている。スペック上では東京から大阪までは無充電で走破できることになっている。
前日の夜から普通充電器で充電し、オドメーター7005km。走行可能距離640kmでスタートした。東名、新東名ともに目立った渋滞はなく、新東名に入ってからはアダプティブクルーズコントロールを使用し走行していると、藤枝付近から雨が降り始めた。
そして、最初の休憩地である長篠設楽原PAに到着。オドメーター7261km。バッテリー残量54%、走行可能距離344kmとなった。この時点での走行距離と走行可能距離を足すと600km。エアコンも付けていて、ワイパーも作動させていることを考えると、なかなかの数値となっている。
新東名は渋滞なく通過したものの、本来のルートである東名が大渋滞。しかたなく遠回りにはなるが、伊勢湾岸道から新名神ルートを選択。こちらも豊田東ICから豊明ICまで40分の渋滞だったが、東名に比べれば短い。宿泊地の近江八幡に20時到着。到着時のオドメーターは7456km。バッテリー残量は17%、走行可能距離は107km。初日の走行距離は451km。走行可能距離は107kmだったので、合計すると558km。カタログスペックの87%という好成績だった。
宿泊するホテルに200V 6kWhの充電器が2器あり、誰も使用していなかった。充電を開始すると、満充電まで残り13時間23分の表示。翌日は10時出発なので、ちょうど満充電になる計算だ。
前日の雨が嘘のように天気は晴。普通充電器のおかげで、2日目も充電100%、走行可能距離640kmでスタート。この日は大阪への短い移動なので、充電はせずに終了。
大阪から東京へ向かう道中に浜松SAで急速充電
そして3日目は、大阪から東京へ向かう。途中京都の友人がシールを見たいというので立ち寄り。この時点でオドメーターは7595km。バッテリー残量76%。走行可能距離は491km。一般道中心ということもあり、合計で630kmという好電費を記録した。
名神高速の京都南ICから東京を目指す。当初は充電しなくても到達できそうだったが、季節外れの暑さの影響と高速走行で走行可能距離の減りが進む。そこで、急速充電の性能チェックを兼ねて、新東名高速の浜松SAで急速充電を行った。
浜松SA到着時のオドメーターは7815km。バッテリー残量は32%。走行可能距離は204km。走行距離は359kmなので、合計で563km。カタログスペックの87.9%と相変わらず高い。30分の充電で、バッテリー残量は67%まで回復。走行可能距離は429kmとなった。ナビゲーションによると東京まで236kmなので余裕だ。
新東名・東名と順調だったのだが、日曜日の夕方だけに、厚木から横浜町田まで渋滞。自宅に到着した際のオドメーターは8045km。バッテリー残量は19%。走行可能距離は118kmだった。数値では193km残るはずだったのだが、渋滞などの影響で悪化したようだ。それでも今回のロングドライブで、シールは巧みなエネルギーマネジメントを行っていることが、航続走行距離のカタログ数値の達成率からもわかり、この点が国産BEVより一歩リードしていると言える。
これまでのBEVによるロングドライブだとバッテリー残量が50%を割り込むとドキドキしはじめたが、シールは50%でも約300kmも走行可能と表示するので、これまでのような不安は払拭される。しかもこれだけの走行距離を走行可能なBEVが実質500万円以下ということに驚いた。
やはりBEVのロングドライブは、急速充電器に頼らず夜間駐車する際に普通充電で100%にすることが快適にドライブするためのキーポイントとなることを実感した。そして同時にBEVの航続走行距離が短いというのは過去の話というのも再認識できた。
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