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ベストカー創刊45年記念 徳大寺有恒の名車試乗記プレイバック&「あの頃の編集部」

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ベストカー創刊45年記念 徳大寺有恒の名車試乗記プレイバック&「あの頃の編集部」

 本当にいろんなことがあった2022年だが、今年はベストカーにとっても特別な年だった。そう、創刊から45周年という記念すべき年だったのだ。

 そんなベストカー45年の歩みを振り返る時、切っても切れない関係の筆頭に挙げられるのが、やはり自動車評論家、徳大寺有恒さんの存在だろう。

ベストカー創刊45年記念 徳大寺有恒の名車試乗記プレイバック&「あの頃の編集部」

 2014年にお亡くなりになってからもう8年になるが、ベストカーが今あるのも徳さんの活躍があったからこそだ。

 まさに数えきれないほど原稿をベストカーで書き続けてくれた徳さんだが、ここではR32スカイラインGT-Rと初代NSXの初試乗記を再掲載したい。徳さんのクルマ愛が、そのリズミカルな文章から伝わってくる。

 かつて編集部に在籍した自動車評論家 国沢光宏氏、大井貴之氏の回顧録も収録。

※本稿は2022年11月のものです
文/ベストカー編集部、写真/ベストカー編集部 ほか
初出:『ベストカー』2022年12月10日号

■日産 R32スカイラインGT-R

●国産車で初めて“名車”と呼べるクルマ

 GT-Rのようなクルマは日本からは未来永劫できないと思っていた。

 いや、GT-Rのような精緻なメカニズムの4WDやスーパーハイキャスのような進歩的なメカニズムで、黒沢元治(編集部註:「ガンさん」のニックネームで知られた自動車評論家・元レーシングドライバー)が驚くようなクルマは早晩できると思っていた。

 GT-Rのようなハイスピードとハイスピードコーナリングを可能にすることはやるだろうと予想していたが、そのうえに“これこそGT-Rの疾りだ”といえるものを作り出せるとは思わなかった。

 甘いものなら、気持ちの悪くなるほど甘くなる。辛いカレーも死ぬほどのものができる。しかし、甘いうちにうまさがあり、辛いうちに甘味さのようなうまさがある料理は難しい。

 こいつは量産からは生まれ得ないものと、なかばあきらめていた。

 しかし、スカイラインのスタッフはそれに挑戦し、ほとんど完全なるカタチで出してきたのである。

 GT-Rは作り手の強烈なメッセージを感じる。このようなクルマは、かつての日本車にはあり得なかったのだ。

(中略)

 私は自分の記憶によれば、国産車では初めて“名車”なる言葉を使ってもいいと思っている。

 名車、ちょっと照れくさい表現だ。しかし、すべてのスカイラインを含めたうえで、GT-Rは機能だけで語れないものがある。それこそ名車の条件じゃないかと思う。

(中略)

 車両価格445万円は相当高い。フェアレディZより高いのだが、その理由は“乗ってみればわかる”。もっと“自分のものにしてみればさらにわかる”と思う。むしろ、このプライスは安すぎるという意見が出たとしても、私は不思議に思わない。

(中略)

 私は少なくとも3、4年はこれに匹敵するクルマは出現しまいと思う。これほどの機能を実現することも大いに難しいが、その機能に“心”を入れ得ていることにただただ感心しているのだ。(1989年10月10日号)

徳大寺氏はR32GT-Rを発売直後に購入。フェラーリレッドにして楽しんだ

■ホンダ 初代NSX

●NSXはきわめて論理的で理性的だ

(前略)

 私はNSXはスーパーカーではないと思う。スーパーカーという類のクルマは、結局のところイタリア以外ではでき得ないのではないだろうか。

 スーパーカーをもし定義づけるならば、“過剰”だろう。性能もスペックもスタイルも、そのパフォーマンス(この場合社会的な意味も含めて)もすべてが過ぎたるものでなければならない。そこには合理の正義が大手を振ってまかりとおれないものがある。

 5L、V12、こいつはエンジンを選ぶためのエンジンだ。その点NSXははるかに利口だ、合理的だ。しかし、この過剰こそスーパーカーの資質だ。スタイルだってそうだ。過剰のうえにも過剰。テスタロッサの、ディアブロのそれを見ればわかる。348にもそいつは脈打っている。

 こういうスタイルの前には視界という自動車にとって重大な機能もないがしろにできる。これこそスーパーカーのものなのである。

 これらのスーパーカーに比べればNSXはきわめて論理的で理性的だ。むろんそれは実用性につながろう。

 だから、スーパーカーは普通の人間は乗らないものだ。まっとうな人間はあの種のクルマに乗らないし、乗れないのだ。

(中略)

 てなわけで、初めて路上を経験したNSXについては書きたいことは山とある。そのために私はこのクルマを購入し、そいつを随時報告できると思う。NSXは買いか。もちろんと答える。800万円は大いに高いが、安い。

(中略)

 正直にいって私は、この日本でこんなクルマができると思わなかった。技術的にも、あるいは経営という面から考えても、こういうクルマのゴーサインはきわめて出にくいものだ。

 最後にスポーツカーはまだ可能性を残している。NSXはそれを見事に証明している。“カッコ、もうちょっと何とかならないか”といいたいNSXの最大の美点はそこにある。(1990年10月26日号)

スタイルは好きではなかったようだが、初代NSXも購入して魅力を探求した

■『徳大寺さんとの濃密な時間は今の自分に大きな影響を与えた』国沢光宏

●自動車評論家・レーシングドライバー/在籍期間:1981~1982年

 ベストカーの思い出といえば、やはり徳大寺師匠との日々でございます。

 そもそも私がベストカー編集部員になったのは、当時飛ぶ鳥もバタバタ落ちたという徳大寺師匠の引っ張りによるもの。当然ながら徳大寺担当を仰せつかる。「原稿仕上がったぞ」と連絡来たらホテル・グランドパレスへ行き編集部に飛んで帰り、ギョウカイでは有名な徳大寺文字(おそらく普通の人には解読不能)を読めるようにして入稿。

 はたまた海外出張となればグランドパレスまでお迎えに行き「国沢、時間がない。全開だ!」。帰国となれば成田まで行き東京まで「国沢、次の約束がある。全開だ!」。その間、いろんなクルマの話をしてくれる。海外での話も楽しかった~。ミシェル・ムートンが運転するWRC仕様のアウディ・クワトロの話なんかワクワクしっぱなし。当時、世界の最先端の情報を私は持っていた(笑)。クルマ好き冥利に尽きる!

 新型車の試乗会は編集担当&運転手として一緒に行く。試乗後、自動車メーカーの技術者と乗ったクルマの話をするのだけれど、いいクルマだった時は超上機嫌! デキがよくなかった時は不機嫌になり、言いたいことを言いまくる。このあたり今の私の原点になってます。そして必ずハンドルを握るチャンスを作ってくれ「国沢、全開だ!」。私が独立して試乗を御一緒させていただく時も、この流れは変わりませんでした。

 当時のベストカーは月刊誌。1カ月の3分の1が企画や取材の準備などでヒマ。3分の1が取材などで不規則。残り会社に24時間雪隠になるという日々だったものの、徳大寺師匠のおかげで厳しい修行も耐えられたような気がする。もちろん師匠は何に対しても怒るような機嫌の悪い日もたくさんあったけれど、不思議なことに尊敬する人って辛抱できる。私は師匠のレベルにはとうてい届かないな、と思う日々です。

当時のベストカー編集部の1コマから

■『1980年代前半の編集部は“何でもあり”の勢いがあった』大井貴之

●自動車評論家・レーシングドライバー/在籍期間:1980~1988年

 創刊当時、ベストカーガイドは芸能人がガンガン登場する異色の自動車雑誌だった。巻頭グラビアこそなかったものの、永遠のアイドル「アグネス・ラム」が表紙に登場したこともある! 確かあったと思ったというのも、ベストカーガイドの創刊編集長の高橋氏は後にスコラを創刊する講談社のやり手エディター。編集局長は石坂浩二と浅丘ルリ子の新婚旅行を密着取材したという後々のベストモータリングの生みの親となる正岡氏。芸能界とのパイプは太かったようだ。

 そんなベストカーガイド編集部との関わりは1980年の秋。大井くんは写真学校で勉強中の身だったが、若手カメラマンとして誌面を飾ることになった。被写体はエキゾチックなナイスバディであっという間に人気者となった…初代RX-7、レビン/トレノやランサー、スターレットも走る大学自動車部が主催するラリー。どうやら他にカメラマンが見つからなかったようだ。活版ページネタだったので誌面を飾ったというか埋めたというか…というのがスタート。しかし、その時の写真が認められたのか、常に編集部の仕事を優先する姿勢が便利だと思われたのかは不明だが、谷田部テストコースでのゼロヨン・最高速や筑波サーキットのタイムアタック、新車試乗会などベストカーガイド専属カメラマンとなった。しかし、クルマ好きにつけ込まれいつの間にやら編集部の雑用丁稚奉公という毎日。「音羽の不夜城」と呼ばれていた時代。今ならワンクリックで済む話が、すべて手仕事だからね~。それはもう超ハード。と言いながら、寝る間を惜しんで遊び回ってたから万年疲労。

 忘れもしないのが、恐怖の感熱紙事件! 竹平さんからFAXで届いた手書き原稿を一休みしてから赤入れしようと机に突っ伏し仮眠。目を覚ましたらスタンドの下に置いた原稿が真っ黒になっていたという大惨事。皆さん、感熱紙には注意しましょう。

当時のベストカー編集部の1コマ。どういう状況かさっぱりわからないが想像でお楽しみください

【番外コラム】キャリアだけは長い現役編集部員3名がベストカーの歴史を振り返る

 アルバイト時代も含めると30年以上。45年の歴史のうち7割近くの期間ベストカーの制作に携わってきた3人が、その歴史を振り返る。

左からウメキ(編集委員)、イチハラ(副編集長)、イイボシ(編集委員、前編集長)。全員、学生時代にバイト→そのまま編集部に潜り込むという昔っぽい経歴

*   *   *

イイボシ/俺らみんな、バイトする前からベストカーの読者だったわけじゃない? 何が魅力だったんだろ。

ウメキ/数ある自動車雑誌のなかで一番パワーがあったから。ま、一番下らないことを必死でやってたってことだね。

イチハラ/大学では少年ジャンプ、少年マガジンとベストカーをみんなで回し読みしてました。

イイボシ/徳大寺(有恒)さん、ガンさん(黒沢元治氏)、竹平(素信)さんの評論家陣は強力だったよね。ガンさんなんかドライビングの神様だもの。

ウメキ/それと独特の企画ね。今でも覚えている読者時代の企画がたくさんあって、スピードガンで街を走るクルマやパトカーの速度を測ったりしてた。あれ確か国沢さんがやってたんじゃない? それとめずらしく東京に雪が降ったっていうんで、みんなで愛車を持ち寄って一般道でラリーみたいに走ったり。「東京モンテカルロラリー」とかいうタイトルだったと思う。今じゃ絶対できないよねぇ。

イチハラ/レーシングカーやラリー車などのびっくりするクルマの試乗も多かったですよね。

イイボシ/得意だったね~。F1とかF3000とか、なんでも乗ってた。

ウメキ/あと「よくやるな」と思ったのがタクシーの谷田部フルテスト。電話でテストコースにタクシーを呼んで、料金メーター倒してコースに入れて、運転手さんに全開でバンクを走ってもらうという。

イイボシ/とにかくパワフルだった。スタッフがみんな若かったしね。

イチハラ/僕らが入ったあとも、新車が出たら必ず谷田部でゼロヨンをやってましたね。

ウメキ/毎号必ずだから、月2回。スポーツカーがあれば筑波サーキットのタイム計測もセットでやってた。

イイボシ/朝が早くて大変なんだけど、寝ないでそのまま行ってたよな。

ウメキ/バイトの頃は早朝谷田部、筑波に行って、そのまま会社に泊まって一週間後の谷田部、筑波が終わってやっと帰れるなんてこともあった。

イイボシ/毎号、会社に3~4泊してたね。着替えを持って出社してたよ。

イチハラ/本当に不夜城でしたね。それがベストカーの「普通」だったから、今は逆に「え? 会社に泊まってないの?」って外部の人に残念がられる(笑)。

イイボシ/「働き方改革」恐るべしですよ。

●三本和彦さんも前澤義雄さんも

ウメキ/レースの現場に行って、アポなしでレーサーの体力測定もよくやった。あれ、最初に長谷見さんや星野さんなどの大御所ドライバーにやってもらうと、あとの話が早いんだよ。「星野さんはやってくれました」っていうと断るドライバーはいない(笑)。

イチハラ/夏の水着GAL特集も定番でしたね。あれも地元の有力者に先に話しておくとスムーズに取材できるんです。

イイボシ/イチハラはネタの宝庫だよね。会社で寝ていてズボンを脱いでないのに履いてたパンツがなくなったとか、文章を広島弁に変えるアプリを使って遊んでたら、そのまま入稿しちゃって原稿が全部広島弁になってたとか。

ウメキ/勝股さん(当時の編集長)に「お前、呉出身やったもんな」って言われてた(笑)。

イイボシ/寝ぼけてレース結果の表を作ってたら、ドライバー名が「豪州アラビア」になってたこともあった。なんなん? あれ。

イチハラ/寝ながら仕事できちゃうのがよくない。

ウメキ/実寸大スクープも名物企画だったね。

イイボシ/今は亡きマッド杉山さんに頼み込んで、安い中古車を改造してもらう。イヤだイヤだ言いながら、結局は作ってくれる杉山さんは凄くいい人だった。

ウメキ/模型でスクープもしたね。佐原輝夫さんにR33スカイラインとS14シルビアを作ってもらった。完全にワンオフなんだから贅沢な話だよ。

イチハラ/海外の大物ドライバーにも出てもらいましたね。モトGPのロッシとF1のフレンツェンに「クルマの達人になる」と書いた紙を持ってもらって撮影したり。

イイボシ/マキネン(WRC)に神社の神主さんになってもらったこともあったね。

ウメキ/連載もいろいろあったよねぇ。

イイボシ/徳さんの「俺と疾れ!!」をずっと担当させてもらったな。あと、前澤義雄さんと清水草一さんの「デザイン水掛け論」も面白かった。

イチハラ/一番長い連載はテリー伊藤さんですよね。確か1994年からだから28年です。

イイボシ/あんなに忙しい人が1回も休まずだから凄いよね。テリーさんもうちの仕事を凄く楽しんでくれてるみたい。

ウメキ/2005年前後から三本和彦さんにも登場してもらえるようになったね。

イイボシ/三本さんに出てもらえるようになったのはありがたかったね。庶民の味方であり、業界のご意見番でもある。話が本当に面白かった。

イチハラ/三本さんも編集部の若造たちと仕事ができることを喜んでくれてましたよ。

イイボシ/最近でいえば水野和敏さん。クルマのことなんでもわかっちゃう。水野さんみたいなクルマの評論、今までなかったよね。

ウメキ/実際にクルマを開発して、レースでも戦ってきた人だからね。

●音羽の不夜城は変わったけれど

イチハラ/2000年代に入るとゼロヨンより燃費のテストが増えていきましたよね。

ウメキ/読者のニーズがそっちに移ったからね。

イイボシ/よく覚えているのはレクサスGSのハイブリッドが出た時に、編集部員全員が順番に山中湖まで往復して燃費を計測したこと。あんなに走らなくても正確な燃費は測れたと思うけど、まぁ燃費テストもエンタメにしちゃうってことだな。

イチハラ/ギャランGDIが出た時は無給油で鹿児島までいけるかってやりましたよね。

ウメキ/行ったね~。小倉のあたりでさすがに給油したけど。行ったら当然帰ってこなきゃならない。俺、運転好きだから楽しかったよ。

イチハラ/2010年代に入ってからはイベントをよくやるようになりました。

ウメキ/東京オートサロンにブースを出したりね。

イイボシ/凄い数の読者の皆さんに来てもらって、盛り上がったよねぇ。

イチハラ/ラリージャパンにも参戦しましたしね。

イイボシ/(ボソッと)でもイベントって儲からないね。

ウメキ/いやいや、それでもベストカーを盛り上げるためにやっていかないと!

イチハラ/ですね。それにしても「音羽の不夜城」も最近は変わりましたよね。徹夜したり会社で寝泊まりすることなんてなくなりましたから。

イイボシ/あの頃に戻れと言われたら、さすがに断る(笑)。でも、あの狂気みたいな雰囲気が雑誌にパワーを与えていた気もするよな。今の時代に合ったやり方でパワフルな本を作っていかないとね。

イチハラ/次は50周年です。

イイボシ/「面白くて役に立つ」がベストカーの根幹だからね。読者に喜んでもらえる本をこれからも頑張って作っていきましょう。

ウメキ/俺ら3人、50代後半になったけど、編集部のみんなとまだまだ頑張るよ!

全員/読者の皆さま、これからもベストカーをよろしくお願いします!

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