クルマのグローバル化とともに推進されているのが高効率化だ。車種整理、パワートレーン、共用部品の増加などはその一環にあるが、OEMというのも重要なものになっている。
OEMというと作れないから供給してもらっている、エンブレムだけを変えたクルマ、というネガティブなイメージも根強く存在するが、自社で作るよりも安く作ることができる、とメーカーは割り切ってOEMを積極導入する傾向にある。
最大航続距離320kmのピュアEVの高級車 DS 3 クロスバック Eテンスが日本上陸!
本企画では、日本メーカーが資本関係がない海外メーカーに供給したOEM車、共同で開発したクルマを集めてみた。
文:ベストカー編集部/写真:ASTON MARTIN、TOYOTA、FCA、MAZDA、PEUGEOT、CITROËN、MITSUBISHI、MERCEDES BENZ、NISSAN、RENAULT、FCA、SUZUKI、ベストカー編集部
【画像ギャラリー】日本車がベースだから信頼性も高くて新たな魅力を得た日本車のOEM&共同開発車を詳しく見る!!
アストンマーティンシグネット
販売期間:2011~2013年(供給車:トヨタiQ)
高級車メーカーのアストンマーチンがiQをシグネットとして販売すると発表した時は世界が騒然とした。ある意味事件に近いニュースだった
ベースとなったiQと見比べると、シグネットがオリジナルデザインを実現するためにかなり手を入れているのがわかる
トヨタのiQは2008年にデビュー。全長2985×全幅1680×全高1500mmという全長が極端に短い特異なプロポーションが特徴のコンパクトカーだ。
日本ではお世辞にも売れたとは言えないが、Gazoo Racingが手掛けたGRMNは希少価値もあり、今でも中古車では高値で取引されている。
そのiQの1.3Lモデルが高級車メーカーのアストンマーティンにOEM供給され、シグネットいう車名で販売された。CAFÉ対策のためにコンパクトカーのラインナップの必要性が出て、アストンマーティンのおめがねにかなったのがiQだったという。
シグネットはiQにアストンマーティンのエンブレムを装着しただけのOEM車ではなく、ブライトフィニッシュグリル、DBSと共通のエアインテークのほか、一部の外販パネルは専用設計とされるなど、非常に手が込んでいる。
リアコンビはクリアタイプに変更されている。これぞヴァンキッシュなどに通じるアストンマーティンのデザインアイデンティティ
さらに高級ブランドとして音振対策も徹底し、エンジンマウントの交換、遮音材の追加などが施されている。
インテリアも素材を厳選するだけでなく、センタークラスターをシグネット専用にデザインし変更が加えられている。
シグネットは完成車として納入されたiQをアストンマーティンの工場で1台1台ばらして、シグネットに仕立てたというから驚く。
インテリアの素材は独自のモノを設定している。それよりも驚かされるのがセンターコンソールが独自デザインのものに変更されていることだ
日本でも2011年に限定50台(香港と合わせて)販売され、販売価格は475万円からとなっていた。これは同時期のiQの価格が160万~173万円だったから3倍近かった。
シグネットは2011~2013年という短命に終わったが、小さいながら存在感は抜群。
アバルト124スパイダー
販売期間:2016年~2020年(予定)(供給車:マツダロードスター)
最初はロードスターをベースとしてアルファロメオスパイダーを製造する、という発表だったが、最終的には124スパイダーとなった
マツダとフィアットの技術協力協定によって生まれたのがフィアット124スパイダーで、日本ではそのチューニングバージョンのアバルト124スパイダーのみが販売されている。
最初はロードスターをベースにアルファスパイダーが作られる、と高揚されていたが、フィアット124スパイダーとして誕生した。
フィアット124スパイダー、アバルト124スパイダーともマツダの宇品工場で生産され、各国に輸出されている。そのため国交省の自動車型式においては国産車扱いとなっている。
ロードスターがベースとなっているが、エクステリアはかつての名車124スパイダーをオマージュしたデザインが与えられ、全長も約140mm長くなっている。
アバルト124スパイダーは、ロードスターが1.5L、NAのSKYACTIV-Gなのに対し、フィアット製の1.4Lターボを搭載。足回りも独自チューン
エンジンはロードスターが1.5L、NAなのに対し、アバルト124スパイダーは1.4Lターボを搭載。ちなみにFIA公認のラリーバージョンは1.8Lターボを搭載している。見た目も走りも全く別物に仕上げられているのが面白いところだ。
そのアバルト124スパイダーは、日本未導入のフィアット124スパイダーとともに2020年内に生産終了することが明らかになっている。
プジョー4007&シトロエンCクロッサー
販売期間:2007~2012年(日本未発売)(供給車:初代三菱アウトランダー)
初代アウトランダーをベースに、当時プジョーのデザイントレンドだった大型縦桟グリル、切れ長のヘッドランプが与えられプジョー顔となった4007
Cクロッサーはダブルシェブロンを組み込んだフロントグリルが特徴で、ひと目でシトロエンのSUVとわかるデザインはすばらしい
初代アウトランダーは2005年にデビュー。スッキリとしたスポーティなエクステリアがウケて、ミドルクラスSUVで一躍人気モデルとなった
三菱は2005年当時の三菱再建計画のなかで、日産への軽自動車のOEM供給(デイズ)とともに柱として挙げていたのがPSAグループへのOEM供給だった。
その記念すべき第1弾として登場したのが、初代アウトランダーをベースに誕生したプジョー4007とシトロエンCクロッサーだ。
今でこそプジョーは3008/5008というオリジナルSUVを持っているが、当時はSUVをラインナップしておらず、SUVニーズの高まりを前にラインナップに加えた。
プジョー4007、シトロエンCクロッサーともにフロントマスクをそれぞれのオリジナルのものに変更した程度だが、アウトランダーとは大きくイメージが違っていて、いい仕事をしている。
この第1弾の4007/Cクロッサーに次ぐ第2弾として登場したのが、三菱の軽EVのi-MiEVをOEM供給することで誕生したプジョーイオン(iOn)とシトロエンC-ZEROだ。
■プジョーiOn/シトロエンC-ZERO
販売期間:2009~2012年(供給車:i-MiEV)
電動化を推進したいが当時オリジナルEVを持っていなかったプジョーは、i-MiEVのOEM供給を受け、プジョーのエンブレムを装着して販売
シトロエンブランドはC-ZROという車名でi-MiEVを販売。iOn同様にホイールデザインのほかはシトロエンのエンブレムが装着された程度の変更
2010年4月から一般販売を開始したi-MiEV。軽自動車EVとして誕生したが、2018年4月以降は全長が85mm伸ばされたため小型車EVとなった
この2台のEVのデザインはi-MiEVと同じで、スリーダイヤとi-MiEVのエンブレム、ロゴがそれぞれのものに変更されただけ。
イオン/C-ZEROともに2009~2012年までの短期販売だったが、欧州マーケットで人気を得た。PSAグループは2011年に欧州EV販売でトップとなったが、i-MiEVの2台のOEMが大きく貢献したのだ。
そして第3弾がプジョー4008/シトロエンC4エアクロスだ。ベースとなっているのはRVRで、三菱からのOEM車として最も手が加えられている。
エクステリアでは、前後のドアが共通部品という程度であとはオリジナルのものが与えられ、結果的にRVRの面影はほとんど残されていない。
エンジンもオリジナルのディーゼルエンジンもラインナップしていた。
ここで紹介した6台のモデルは日本では販売されていない。
OEM供給で関係強化した三菱とPSAは一時合併の噂も出たが、三菱は日産の傘下に入りルノーとともにアライアンスを形成。
いっぽうのPSAはフィアットクライスラーオートと合併し、2021年からステランディスに社名変更することがアナウンスされている。
■プジョー4008/シトロエンC4エアクロス
販売期間:2012~2018年(供給車:RVR)
アウトランダーベースの4007の後継モデルが4008で、4007以上にベースに手が加えられプジョー的な雰囲気を出している。中国でかなりの人気を誇った
C4エアクロスはCクロッサーの後継モデルで、シトロエン風のデザインを取り込んだ進化モデル。現在日本でも販売しているC4エアクロスは別グルマ
RVRは2010年にデビュー。2度のビッグマイチェンを経て現在はダイナミックシールドを採用し大きくリフレッシュ。カワセミブルーのボディカラーが懐かしい
メルセデスベンツXクラス
販売期間:2018~2020年(供給車:日産ナバラ)
メルセデスベンツ史上初のピックアップトラックとして誕生したXクラス。外板はほぼオリジナルとするなど、ナバラとは一線を画している
日産の人気ピックアップトラックのNP300ナバラ。日本では販売されたことはないが、導入を望む声も根強く存在している
NP300ナバラのルノー版がアラスカンで2016年にデビュー。フロントマスクなどルノーオリジナルのモノが与えられたスキンチェンジ版だ
メルセデスベンツ史上初のピックアップトラックがXクラスだ。ルノー日産アライアンスと共同開発したモデルで、日産の人気ピックアップトラックのNP300ナバラとフレーム、主要コンポーネントを共用する。
日産版がNP300ナバラ、ルノー版がアラスカン、メルセデス版がXクラスとなるのだが、ナバラとアラスカンが顔違い程度なのに対してXクラスはキャブ幅の拡幅をはじめ、外板の共用パーツは少ない。
ひと目でメルセデスベンツのクルマとわかる威厳のあるフロントマスクはユーザーからも好評だったという。日本での販売の要望も高かったが、結局導入されず。
販売は2018年からで好評だったものの、2020年5月で生産中止とわずか2年弱の短命モデルとなってしまった。
メルセデスのピックアップとして人気となったXクラスだが、2020年5月で生産中止となった。わずか2年弱という短命モデル
フィアットセディチ
2005~2014年(日本未発売)(供給車:スズキSX4)
スズキとの共同開発によって生まれたセディチだが、プラットフォーム、設計、生産はスズキが担当するというスズキ色はかなり強い
ジウジアーロ率いるイタルデザインが手掛けたということで話題になったSX4。スズキのWRCマシンに大抜擢された
スズキのコンパクトクロスオーバーのSX4のOEM車がフィアットセディチだ。セディチの車名の由来はイタリア語の16を意味していて、これは4×4=16にちなんでいる。
このセディチはスズキとフィアットが共同で開発したモデルで、正確にはOEMというよりもメーカー違いの兄弟車となるが、プラットフォームはスズキスイフトと同じもので、スズキの工場で生産されたスズキ色が強い。
スズキはWRCにワークス参戦するにあたり、SX4 WRCを登場させたのに対し、セディチはモータースポーツには使われなかったが、イタリアのベストセラーSUVとして販売面で大きく貢献した。
エクステリアデザインはイタルデザインが担当したことも話題になった。
SX4はSX4 Sクロスとなり、セディチは500Xが後継モデルとなっている。
セディチの実質後継モデルである500Xは2015年から日本で販売開始。ジープレネゲードと多くのコンポーネントを共用している
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