この記事をまとめると
■IAAでボッシュが実演した自動化ヴァレー・パーキングが衝撃だった
イラッ! 駐車場はガラガラなのになぜか隣にクルマを駐めてくる「トナラー」の真意とは
■車両は中央統合制御システムからWiFi経由でシステムによって自動コントロールされる
■コネクテッドでさえあれば物理的な追加装備は最小限で実現可能だ
無人のクルマが駐車場内で動いている様子は衝撃的
「カーボンニュートラル」に「脱炭素」、「EV化」など、エコ意識高めのキーワードが飛び交った2021年。だが、実際にふり返ってみると、市場でニューモデルの売れ行きを左右しているのは、自動運転への期待を背景とした、運転支援機能システムの充実具合だったりする。
低燃費への需要も相変わらず根強いが、高速道路などではADAS巡航のほうが燃費は悪化するので、むしろ矛盾している。結局のところ「あらまほしき(こうあって欲しい)未来感」が、青田気味・先食い気味に買われているのだろう。というのもレベル2のADASは、いくら制御が賢くスムースになったとはいえ、センシング技術で自車まわりに何とか結界を作ってブツからないよう凌いでいるに過ぎない。バックグラウンドで利かせることは可でも人間の監視と操作が常時必要だし、最終的に機能してくれることをどこまで信じていいか・アテにしていいかでいえば、オカルトとはいわないまでも丁半博打みたいなものだ。
クルマの一台一台が認識と判断の精度を上げてインテリジェント化していく方向は、カメラやAIやデータ処理の出来・不出来以前に、コスト面で容易ではないだろう。だからクルマの外側、ネットワーク環境下でノード化されるという、もう半分の領域が必要になるはずで、今年は2回ほど印象深い技術デモを見た。
ひとつはヴァーチャル空間内に動的データを含めた交通環境地図を共有し、4輪だけでなく2輪や歩行者のスマホまで、交通参加者すべてを通信ネットワーク化する、ホンダの「安全・安心ネットワーク技術」。もうひとつはIAAミュンヘンで屋内駐車場内にて、ボッシュが披露していた「ヴァレー・パーキング」だ。前者は以前に報告したので、今回は後者について記しておく。
メッセ・ミュンヘンの駐車場の一部、柵で仕切られた向こうとはいえ、それは異様な光景だった。ヴァレー・パーキングとは、お店やホテルや一般駐車場などクルマ寄せで降車してキーを預ければ、あとは係員が停めに行ってくれて、用が済んだらその場まで再びクルマを回送してくれるサービスのこと。だが、降車場所から駐車位置まで、徐行程度のゆっくり速度で動いているクルマは、すべて無人運転だったのだ。市販車が無人で動いているのを外から眺める経験は初めてだった。
早速その場にいたボッシュのソリューション・デザイナーであるアレクサンダー・ヴァングラー氏(左)と、コネクティッドモビリティのセールス・マネージャーであるカルステン・タルハイマー氏(右)に、色々と尋ねた。
車両側でeSIMと操作系のバイワイヤ化でどんなクルマにも実装可能
まず仕組みはこうだ。今回の自動化ヴァレー・パーキングに用いる試験車のすべては、会場中央辺りの天井に設置された中央統合制御システム(会話中のふたりの頭上)から、WiFi経由でコントロールされている。
進路上の障害物や異常検知は、車両ではなく天井に一定間隔で配置されたステレオカメラ(真下に二眼を向けたモジュール)で拾っている。そして通信情報と電気信号だけでアクセル&ブレーキ、ステアリングを遠隔操作する。車側のセンシング機器で判断する要素は一切ない。だから技術的にも法的にも、今のところ駐車場の建物内で無人で動かしてもOKなのだという。
「ガリバーのような大きな子供が、実車スケールだけどミニカーを手で動かしては、停めたり回送して遊んでいるようなイメージを思い浮かべてもらえれば」
じつは1年半前、メルセデス・ベンツと組んでシュトゥットガルトの同社博物館の駐車場でボッシュが自動化ヴァレー・パーキングの実験を始めたときは、レーザー光線をガイドに進行と停止、駐車を制御していた。数ミリ間隔で停めることができ、乗員の乗り降りも必要ない分、スペースを有効活用できるとしていた。レーザー光線方式はどうなったのかを問うと、こんな答えが返ってきた。
「外部ステレオカメラを等間隔に並べて中央制御するほうが圧倒的に安いコストで実現できるので、早い段階でこちらの方式を優先しました。車両側カメラやセンサーの位置キャリブレーションを取る必要がなく、CMOSセンサーの精度と画像処理の速度次第ですが、遮る障害物さえなければ、ステレオカメラの配置間隔も拡げられます」
そういっている間に、司会者が進路上にグレーの筒のようなものを置くと、床色とかなり馴染んで肉眼でも認識しづらいにも関わらず、デモ車両のフォーカスワゴンは手前で停止した。今回の実験では建物内ゆえWiFi経由で伝達していたが、当然5Gネットワークに置き換えることは可能で、車両側でeSIMと操作系のバイワイヤ化さえ済んでいれば、どんなクルマでも早々に実装は可能という。制御下で走らせる範囲や道路、速度域といったレベルも、設置環境や法整備次第で無論、上げて行けるという。
自動化ヴァレー・パーキングはある意味、ごく初期段階の自動運転化と思えるだけではない。その興味深くも恐ろしい点は、デモ車両にメルセデスEQEのような高級車もあれば、フォード・フォーカスワゴン、ミニ・クロスオーバーまで、価格帯やクラスを問わずに実装&運用されていたことだ。
要はエアバッグやABSがそうだったように、高級車セグメントから採用されて初期コストをスケールメリットで徐々に薄めながら、アクセプタブルになった頃にようやく経済的な小型車クラスに降りてくる……のではない。車型や車格に関わらず、物理的な追加装備は最小限のままコネクテッドでさえあれば、インフラ側の準備や法整備、そしてハッキング対策といった超えるべき障壁はあっても、技術的にはたいていのニューモデルで一気に実現可能なのだ。
誰もぶつからない交通環境や社会、あるいは自動運転は、クルマ単体まかせではなく、通信環境と中央統合制御に多くを負うことになる。だからこそインフラや法整備の面から、自動車業界単体だけではなく、社会課題として建設的に解決するというスピード感が要る。そんな話になりつつあるのだ。
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