McLaren Elva
マクラーレン エルバ
栄光を築いたカラーリングが復活。「マクラーレン エルバ ガルフ テーマ by MSO」を日本初公開!
セナをも凌ぐ最新アルティメット・シリーズ「エルバ」
4月6日、マクラーレンのアルティメット・シリーズ初のオープンモデルである「エルバ(Elva)」が日本で公開された。
アルティメット・シリーズとはマクラーレンの最高峰ラインであり、これまでにP1、P1 GTR、セナ、セナ GTR、スピードテイルのわずか5モデルしかリリースされていない。その最新作であるエルバは、6作目にしてアルティメット・シリーズ初のオープンモデルとなった。いや、エルバは単なるオープンモデルというだけでなく、開閉可能なルーフはおろか、ウインドウスクリーンさえ省いた究極のロードスターである。
しかも、アルティメット・シリーズの一員であるからにはパフォーマンスが超ド級であることは言うまでもなく、4.0リッターV8ツインターボ・エンジンから絞り出す最高出力はセナを15ps上回る815ps。加えて車重はセナの1198kgより軽いことが確約されているため、0-200km/h加速はセナを凌ぐ6.7秒でクリアするという。
それにしてもオープンモデルでありながらセナを凌ぐ動力性能が与えられたエルバの位置づけとは、はたしてどのようなものなのか?
オンロードで楽しむための究極のオープン・スポーツ
今回の発表に際して、マクラーレンは1枚のグラフを用いてエルバのポジショニングを説明した。このグラフは上に行けば行くほど高価で、水平の座標軸は右がサーキット指向、左がオンロード指向を意味する。アルティメット・シリーズはスポーツ・シリーズやスーパー・シリーズよりも高価なので、このグラフでは両シリーズの上側に位置する。この帯状に広がった領域の中でいちばん右側、つまりサーキット指向が強いのがセナ GTRで、そのすぐ左側にはセナが陣取る。これとは対照的に、もっとも左側に位置するのがスピードテイルで、これとセナの中間に位置するのがニューモデルのエルバだという。
公式な説明に私がダメ出しするのも妙な話だが、このグラフだけではエルバのポジショニングを説明し切れていないように思う。個人的には、サーキット指向を片方の極に、そしてオンロード指向を反対側の極に置くならば、エルバとスピードテイルはともにオンロード指向の強いモデルとして近いポジションに位置すべきだろう。そのうえで、コーナリング主体か、それともストレートスピード主体かという新たな軸を設け、ここでコーナリング主体はエルバ、ストレートスピード主体はスピードテイルに位置づけるほうが、それぞれの特徴をより明確に説明できるように思う。
マクラーレンのジェンス・ルードマンCOOはエルバのコンセプトを次のように説明する。
「エルバはセナよりも軽いマクラーレンの最軽量モデルです。現在は認証作業中のため最終的な車重は申し上げられませんが、セナより軽くなることは間違いありません。これほど軽量なのですから、エルバのアジリティが優れているのは当然のこと。なぜなら、アジリティにとってもっとも支配的な要素が重量だからです。正確に作動するステアリングとブレーキングがあって、しかも軽量であれば、そのクルマのアジリティは確実に優れたものとなります。しかもエルバはオープンモデルなので、風に髪をなびかせながらツィスティーなワインディングロードでのドライビングが楽しめます。これは言葉では言い表せないほど爽快な体験ですよ」
つまり、セナ並みのコーナリング性能をオンロードで楽しむためのロードスターがエルバなのである。
フロントウインドウの役目は風が作り出す
ここまでの説明で想像できるとおり、エルバはハードウェアの多くをセナと共有している。その一方で大きく異なっているのがオープン化に関わるもので、中でも注目されるのがフロントウインドウを不要としたアクティブ・エア・マネージメント・システム(AAMS)だろう。
このAAMSをひと言でいうなら「風で作り出したウインドウスクリーン」となる。ボディ前部の低い位置から取り込まれたエアフローの一部は、コクピット直前のボンネット上に設けられたエアアウトレットから上方に向けて排出。このエアフローにより、前方からコクピットに向かってきた気流は上方に跳ね上げられる。さらに、エアアウトレットの前側にはディフレクターが配置されており、AAMSのシステムを作動させるとこのディフレクターが150mm迫り上がることで気流を上に向けて跳ね上げる効果を強調。コクピットにはほとんど風が流れ込まない状況を作れるようだ。
ルードマンCOOはAAMSの効果をこんなふうに説明してくれた。
「AAMSは驚くほどの効果を発揮します。手を高く上に伸ばすと、そこにものすごい勢いの風が流れていることに気づいてびっくりされるはずです。ところが、コクピットに強い風が巻き込んでくることはありません。軽く頬を撫でる程度の風を感じるだけです。しかも、Aピラーが存在しないから、その開放感は従来のコンバーチブルモデルとは別次元です。本当に驚きますよ」
アメリカ仕様はウインドウを装備
それにしても、コクピットに風が流れ込まないだけでハードウェアとしてのウインドウスクリーンがないとなると、前車が巻き上げた小石などがドライバーを直撃しないのか心配になる。この点はどうなのか?
「いいえ、心配には及びません」
ルードマンCOOは自信たっぷりな様子でそう答えた。
「これまで非常に長い距離のテストドライブを行ないましたが、ホコリのように軽いものが飛んできたことはあっても、小石のように重いものが飛んできたことは一度もありませんでした。とはいえ、ドライバーの目に万一ホコリが入ると危険なので、ゴーグルもしくはサングラスの装着が推奨されます。フルフェイスのヘルメットであればより安全ですが、これらは義務づけではなく、あくまでも推奨の範囲です」
ちなみにエルバにはオーナーにあわせて特別に製作されたベル製ヘルメットが2個ついてくる。また、アメリカの法規はウインドウスクリーンの装着を義務づけているため、アメリカ向けのエルバは全車ウインドウスクリーン付きとなる。ちなみに日本市場ではウインドウスクリーンなしでも登録できるが、オーナーが希望すればウインドウスクリーン付きもオーダー可能である。
快音を奏でるエキゾーストノート
エルバのもうひとつの特徴がエキゾーストノートで、ボディ後方には4本のエキゾーストパイプを装備している。このうち2本がリヤデッキ上に上方に向けて装着されており、残り2本はテールエンドから後方に向けて装着される。ここで上方向けのテールパイプからは高音成分が、後方向けのテールパイプからは中低音成分が発せられ、これらが渾然一体となって得も言われぬほど美しい音色を響かせるという。ちなみにエキゾーストパイプの素材にはインコネルとチタンの両方を用いているが、これはこのセグメントで世界初の試みである。
エルバの生産台数は当初399台と発表されていたが、新型コロナウイルスの影響などもあって249台しか生産されないことになった。価格は137万5000ポンド(約1億8000万円)。
マクラーレンらしいユニークかつ唯一無二のコンセプト
この種のスペシャルモデルはライバルメーカーからも次々とリリースされているが、そうしたモデルの中には「量産モデルとちょっとデザインを変えただけ」というケースが少なくない。けれどもエルバは究極のオープンエアモータリングと究極のオンロード・ハンドリングマシーンを組み合わせたという意味において斬新で、少なくともマクラーレンの中に同様のコンセプトをもつモデルはひとつもない。よく「マクラーレンはモデルが多すぎて、どれがどれだかよく分からない」といった声を耳にするが、実際にはそれぞれのモデルがユニークなコンセプトで造り上げられているのがマクラーレンの特徴なのである。
ちなみにエルバは1950年代から1960年代にかけてロードカーやレーシングカーを手がけたイギリスのスポーツカーメーカーであり、マクラーレンが開発したスポーツプロトタイプのレーシングカーをカスタマーチーム向けに量産したことで知られる。今回、マクラーレンはこのエルバ・ブランドの使用権を取得。この画期的なロードカーのモデル名に用いたのである。
REPORT/大谷達也(Tatsuya OTANI)
PHOTO/小林邦寿(Kunihisa KOBAYASHI)
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