2023年1月31日から日本での発売がスタートしたBYD。そこで、BYDジャパンの劉学亮社長へのインタビューを西村直人氏が敢行し、同社に対して垂直統合と水平分業だけでは語れなくなる自動車メーカーの存続など、興味深いテーマで切り込んでもらった。
文/西村直人、写真/西村直人、平野 学
BYDジャパン劉社長単独インタビュー&ATTO3試乗から見えた「中国製EV」の本気度とは?
■BYD製ブレードバッテリーの優位性は「熱暴走の少なさ」
BYDはもともとがバッテリーメーカーで、自前で用意できるのが強み。安全性能の高さがウリとなっている
西村/BYDが「ブレードバッテリー」と呼ぶLFPバッテリー(正極材にリン酸鉄リチウムを採用)について、改めて優位性はどこにあるのでしょうか?
劉社長/BYDはバッテリーの開発・製造からスタートした会社です。その我々からすればバッテリーは生き物です。よって、我が子ともいえるバッテリーを大切に育んできたことから、現在、我々が提供しているLFPバッテリーはとても高い安全性能を誇るまでに成長しました。ここが優位性です。
西村/LFPバッテリーは体積あたりのエネルギー密度が、ほかの(正極材に三元系やニッケル酸リチウムを採用した)リチウムイオンバッテリーよりも低くなる傾向ですが、熱暴走の可能性が少なく安全で、レアアース17元素を含まないというメリットがあると聞いています。
劉社長/BYDは、10年以上前からLFPバッテリーを電気バスに搭載しています。それは安全性能を重要視したからです。確かに、ほかの正極材よりもエネルギー密度は落ちますが安全性能が高く、圧倒的な信頼性があります。
西村/BEVの製造環境について伺います。BYDは垂直統合と水平分業、この両面をもっているように思えるのですが、実情はどちらかに偏っているのでしょうか?
劉社長/BYDは当初、携帯電話のバッテリー製造を行なっていた際には、垂直統合だけで行なってきました。いわゆるワンストップショップ形態です。こうした製造工程を経験しているからこそ、両側面のいいところ、悪いところが把握できており、自動車製造においては適宜、使い分けることで効率的な生産へと結びつけています。
■商用車での成功体験がATTO3など乗用車開発につながった
横浜市内にあるBYDジャパンのオフィス内で行われた劉社長(左)へのインタビュー。聞き手が西村直人氏(右)
西村/BYDでは、なぜ商用車である電気バスから本格的に力を注ぎ始めたのでしょうか?
劉社長/電気バス導入時(2010年頃)は全世界的にBEVに対する不安がありました。その不安はバッテリー本体に留まらず、充電インフラやアフターサービスなど多岐にまで渡っていました。BYDは、そうした不安の解消に対して電気バスと同時に参入を始めた電気タクシー(乗用BEV)で克服に挑みました。なぜなら、商用車は乗用車と違い、24時間365日、天候を問わず、過酷な状況で走らせないといけない。そうした状況下で安全性能が確立されたら、BEVの潜在的ユーザーに対する不安解消になると考えたからです。
西村/商用車での成功が、今回の「ATTO 3」をはじめとした乗用車での安心・安全につながるということですね。
劉社長/そうです。公共交通での安全性能はなによりも大切です。BYDはこれまで、電気バスを世界60以上もの国と地域で走らせ、いずれも大きなトラブルはありません。
西村/BYDの企業展開について教えてください。
劉社長/BEVは「7プラス4の商品戦略」でコマを進めています。7つの車両カテゴリーに、4の利用シーンの組み合わせです。具体的に4つの利用シーンとは「倉庫」、「港」、「空港」、「鉱山」。です。ここではすでにBEV化が不可欠であり、導入が進んでおり(例/倉庫での電動フォークリフト)、この先も需要が増大すると見込んでいます。よって、BYDとしてもこの分野に注力していきます。
■内燃機関の需要が減ることは次の時代へのステップアップが望める絶好のタイミング
「内燃機関の需要が減っていくことは、次の時代へのステップアップが望める絶好のタイミングであり、新たな発展が期待できるチャンス」と劉社長は語る
西村/既存の内燃機関部品を供給されているサプライヤー企業についてどうお考えですか?
劉社長/これまでの産業発展にヒントがあるように思います。例えば白黒テレビがカラーテレビへ、アナログ回線がデジタル回線となり、5Gとなった。技術革新が進むと、当然ながら世の中はいい方向へと舵を切ります。つまり、既存のサプライヤー企業さんにとっても、多くのチャンスが生まれると考えています。
西村/その具体例はありますか?
劉社長/2019年に全日空さんと共同で羽田空港におけるBYDの電気バスを活用した自動運転の実証実験プロジェクトを組みました。その際、ソフトウェアや運行管理システム、さらにはインフラ設備などすべて日本企業に参入いただいています。BYDはすべてのソリューションを持っていますが、あえて電気バスの提供に留めました。いわば「箱」(電気バス)を提供する側になったのですが、私はその判断でよかったと考えています。内燃機関の需要が減っていくことは、言い換えれば内燃機関の時代から、次の時代へのステップアップが望める絶好のタイミングであり、新たな発展が期待できるチャンスであるからです。
■ATTO3試乗でわかった「マイルドさと衝撃の少なさ」
今回、西村氏が試乗したATTO3は右ハンドル仕様となるオーストラリア向けの量産車だった
今回、日本市場で発売がスタートしたATTO 3に日本の公道で試乗した。右ハンドル仕様だが、試乗車はオーストラリア仕様で各液晶メーターは英文表記でナビ機能が付いていなかった。
なお、日本仕様では日本語表記となり、ゼンリンの地図を活用したカーナビ機能ほか、Apple CarPlayやAndroid Autoも利用できる。
駐車場での微速領域では、電動モーターの駆動制御が光った。アクセルペダルに対する従順さは、日産のアリア、ホンダのHonda eと遜色ない。ブレーキペダルはペダルに足を乗せた瞬間に立ち上がる減速度が強めだが、スイッチ操作で2段階に調整できる回生ブレーキとの連動もスムーズだ。
国道でグッと踏み込んだ。出力150kW、トルク310Nmの電動モーターはエコ/ノーマル/スポーツの切り替え式ドライブモードによらず、マイルドな印象で上質だ。スポーツにすれば若干、躍度(連続する加速度)が早めに体感でき加速度上限も早期に訪れるが、派手な演出はいっさいない。
感心したのは乗り味だ。今回は後席でも試乗できたが、ともかくマイルドで強い衝撃が少ない。厳密には高速道路の継ぎ目では大きめの「ドン」という衝撃音とともに揺れが入り込むものの、最新モデルらしく、前後方向のピッチングはかなり抑えられ、代わりに天地方向の振幅に集約させている。
シートも腰で身体を支える最新理論が採り入れられている。設計に元メルセデスベンツのエンジニアが入り込んでいる事実もうなずける。
半面、電動パワステのフィールではカーブでの切り始めと戻し始めの際、アシストが曖昧になる領域があった。車体のライントレース性は損なわれていないので、電動パワステの制御に起因するものだと推察した。
外気温6度の雨天時に行なった3時間にわたる今回の試乗。得られたトータルでの電費数値は5.9km/kWh。撮影時の電気ロスを考慮した純粋な走行では8.9km/kWhとこちらも優秀だった。
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