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脳ではなくて心に訴える超高性能SUV──新型アルファロメオ・ステルヴィオ・クアドリフォリオ試乗記

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脳ではなくて心に訴える超高性能SUV──新型アルファロメオ・ステルヴィオ・クアドリフォリオ試乗記

アルファロメオのSUV「ステルヴィオ」の高性能ヴァージョンである「クアドリフォリオ」に今尾直樹が試乗した。

乗るひとの気分をニンマリさせる

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某日朝、寒々しい大手町で待っていたら、この日、試乗する真っ赤なステルヴィオが約束の時間ピッタリにあらわれた。ただのステルヴィオではない。510psと600Nmを発揮するモンスターSUV、ステルヴィオの旗艦、クアドリフォリオの最新型である。

路肩に停止した真紅のステルヴィオの、ひと目、タダものではない佇まいにニンマリする。フロントのバンパーとボンネットの冷却用のエア・スクープは高性能の証だ。そこから熱気が出ている。冷却用といえば、梅の花びらを細くかたどっかのようなデザインの20インチのホイールからまるっと見える真っ赤なブレーキ・キャリパーの可憐なこと、いとおかし。

ドアを開けると、“赤い部屋”と、表現したくなる内装があらわれる。少なくとも従来の広報車は「黒い部屋」だったはずだけれど、ダッシュボードの下端からドアの内張のレザー等、ぐるりとインテリアの下半分が赤くなったことにより、上は黒、下は赤で、華やかな雰囲気を醸し出している。エロチック、と言ってもいい。

運転席に座ってみると、シフトレバーがスティッチ入りの革巻きになっている。センターコンソールにはカーボンが貼られている。本革がクラシックさの象徴だとすれば、航空機由来のこの超軽量素材はモダンかつスポーティ、そしてお高い、というオーラを放っている。

ステアリング・ホイールも含めて、革の触感は、たぶん人間の太古の記憶と結びついていて、というと大袈裟ですけれど、気持ちがいいと感じるというのは事実で、ともかくこの最新のステルヴィオ・クアドリフォリオは乗り込んだだけで、スポーティ感とゴージャス感とがない混ぜになって、乗るひとの気分をニンマリさせる。

ステアリングの中央にはミラノをおさめたヴィスコンティ家の家紋をもとにしたという、ひとを呑む大蛇と、赤十字を組み合わせたアルファのマークがドンと据えられていて、ドライバーを見ている。アルフィスタを虜にしてきたマークである。モノクロになっちゃったけど。

ダッシュボードに8.8インチのタッチ・スクリーンが装備され、ナビゲーション・システムが使えるようになった。小改良前もスマホと連動させることができたはずだけれど、やっぱりナビゲーションがないと……、という声が巷にはあったらしい。

「スマホとつながるんだからいいじゃないか」と、筆者なんぞは思うけれど、いまやカーナビは必需品。まして1232万円もするスーパー・プレミアム・ステルヴィオともなれば、あって当然。なので、最新モデルではナビゲーションが標準になっている。

ADAS(先進運転支援システム)も機能の充実が図られていて、高速道路で 60km/h以下の渋滞時に有効な、前走車を認識しての自動的なストップ&ゴーをしてくれる。

実のところ、筆者はADASなんてものには否定的でありまして、そんなものが普及して完全自動運転時代なんてぇものが来たとしたらですよ、こちとら、おまんまの食いあげでぇ、なんて江戸っ子のふりしたりするぐらいです。メーカーによってスイッチがバラバラで使い方がよくわからなかったりするし……いや、グチはよそう。曲がりなりにも、移動の自由がより多くのひとにひろがる技術である。私のことはさておき、応援するのがひとの道というものである。

ものすごく繊細なクルマ

ともかく、2020年に登場したステルヴィオの小改良版と同じ内容の変更がこのクアドリフォリオにも施されている。パノラマサンルーフも標準装備された。アルフィスティのエンスージアズムに応えるのみならず、一般のお客さんへも対象を拡大しようとする地道な努力をコツコツ積み上げているといえるのではあるまいか、ああ見えて。

なお、ダイナミック性能に関してはとくに変更はない。それがわかっていて、あなたはどうして房総方面に走りに行ったりするんですか? と、問われれば、それはやっぱり確かめたいからである。ステルヴィオ・クアドリフォリオの最新モデル、乗ると、どんなであるのかを。

スタートして筆者がすぐに思ったのは、ものすごく繊細なクルマだということだ。アルファのドライブ・モードの「DNA」はノーマルだから、ダンパーがソフトだったこともあるにせよ、減速時、ブレーキをやさしく踏んであげないと、クルマが大仰にノーズ・ダイブする。

2.9リッターのV型6気筒ガソリン・ツイン・ターボと8速オートマチックの組み合わせは、3000rpm以下だと、比較的おとなしい。おとなしいと思って、うかつにスロットルを踏み込むと、にわかにギアダウンし、3000rpm以上から別人のようにウワッと、いかにもターボが効きました! というワープ感のある加速を見せる。その様や、ひとを呑み込まむと飛びかかる大蛇のごとし。

兄弟車のジュリア・クアドリフォリオより車重が200kgほど重くて、なにより4WDである。だから安定している。と、思われるかもしれないけれど、なんせ背が高い。ここに、いわゆる「SUVの罠」がある。いま、名づけました。

ジュリアが全高1435mmなのに対して、クロスオーバーSUVのステルヴィオは1680mmもある。その差245mm。筆者が小学生の頃、ランドセルの端っこに差して蓋の横から潜望鏡のように出していた竹の物差しが30cmであるから、あれよりはそうとう短いとはいえ、天狗もかくやの、ものすごく高い下駄を履いている。それによる重心の高さをいかに抑えるか。それがステルヴィオ・クアドリフォリオの、ダイナミック性能開発時における課題だったのではあるまいか。

滑らかなエンジン

首都高速湾岸線の羽田空港付近を走っていた頃、ノーマル・モードでは路面のうねりに合わせてボディがフワつくように感じた筆者は、センターコンソールのDNAの丸いダイアルをダイナミックに切り替えてみた。

すると、サスペンションとボディが別々に動いていたのが、ダンパーが硬くなったことによって一体化し、路面のうねりに合わせて一緒に、心持ち跳ねるようになった。

合わせて、8速オートマチックが自動的に1段ギアダウンし、エンジンが回転を500rpmほどあげた。ノーマル・モードだと、100km/h巡航は8速ATのトップで1750rpmぐらい。それが2200rpmに跳ね上がって、V型6気筒ガソリンツイン・ターボが乾いた低い快音を発する。

DNAのダイアルは長押しすることでレース・モードに変わる。さらに乗り心地が硬くなり、エグゾースト・ノートが大きくなって、計器盤にESC、いわゆるスタビリティ・コントロールがオフになるという表示が出る。筆者はくわばら、くわばらと思ったけれど、筆者のようなドライバーを、このクルマは想定していない。

幸い路面はドライだし、山道でもない。ここはしばらくレース・モードを楽しんでみよう。と思い直して、アクセルを踏み込む。レーシィなグオオオオオオオッという咆哮に、シフトアップ時、さもなければアクセルオフ時に一瞬、ヴェロヴェロヴェヴェッという、エグゾーストのフラップが振動してどこかに当たっているみたいな不穏なサウンドが混じる。タダごとでない。これもまた快なり。いっそう硬くなって、怒れる乗り心地を抑えるべく、筆者はDNAのダイアルの真ん中のボタンを押す。すると、ダンパーの硬軟が切り替わり、乗り心地にしやなかさが出てくる。

ずーっとアクセルを開けていたいけれど、反対車線を走る白バイが視界に入ってくる。あの白バイがぎゅうんッとUターンし、中央分離帯をスティーブ・マックイーンみたいにジャンプして追いかけてこないとも限らない。というような妄想が頭のなかに浮かんで現実に戻る。

束の間の夢で、特筆しておきたいのがV型6気筒エンジンの滑らかさで、これを心底味わいたいと思うたならば、長いストレートをもつ富士スピードウェイにまで遠征するほかない。フェラーリの3730ccの90度V型8気筒ガソリン・ツイン・ターボ、86.5×82.0mmのボア×ストロークの、現行「ポルトフィーノ」や最新の「ローマ」も使っているF154エンジンから2気筒スッパリ切り落としたといわれるクアドリフォリオ専用スポーツカー・ユニットは、3000rpmから上ならどこからでもトルクを生み出す一方、もちろんオートマチックということもあるけれど、めちゃくちゃフレキシブルでもある。

セダンのジュリアとは車重が重い分、チューニングも若干異なり、中低速トルクがより分厚くなっていて、ファイナルも低めてある。電子制御の4WDシステムは、ドライ路面ではトルクを100%リアに送り、後輪のグリップ状況に応じて最大50%のトルクをフロントに送る。ということなので、快晴のこの日はほとんど後輪駆動で走っていたのだろう。

乾いた低音のサウンドは、回転の高まりに連れての盛り上がりにいまいち欠けるように走行中は感じたけれど、こうして振り返ってみると、あれはあれで心地よいものだったようにも思える。

冷静な評価を拒絶するブランド

車高が高くなければならないSUVで、低重心でなければならないスポーツカーをつくる。という点では、ポルシェやBMWのほうが経験豊富で、「マカン・ターボ」や「X4 M」により魅力を感じるかたもいらっしゃるかもしれない。

それはしかし、間違いである。アルファ・ロメオというのは他をもって代えがたい、冷静な評価を拒絶するブランドなのだから。

1910年創業、今年は111年を迎えるアルファ・ロメオは、まずもってイタリア民衆のヒーローである。戦前はイタリア国内を1600km 走りまわるミッレ・ミリアで常勝を誇り、イタリアを代表してグランプリを戦って、イタリアここにあり、と、世界に知らしめた。

思い起こせば、1935年5月のドイツGP。って筆者も見たわけではありませんけれど、ドイツのために開かれた、圧倒的アウェイのこのグランプリで、鬼神タツィオ・ヌヴォラーリが驚異的なドライビングを披露し、メルセデス・ベンツW25とアウトウニオンPワーゲンに比して性能的にははるかに劣ると思われていたアルファ・ロメオP3でもって、奇跡的な勝利をおさた。

表彰式では、イタリア国歌のレコードを用意していなかった主催者に、ヌヴォラーリが幸運のお守りとして持っていた自分のレコードを差し出したという故事がアルファ・ロメオの立ち位置をいまも示している、と、筆者は考える。

「アルファ・ロメオは単なる自動車メーカーではない。それは従来つくられた自動車以上のなにかだ。それは苦悩の一種であり、トランスポートのための情熱である。その要素は、論理的なことばでは語ることのできない、人格のようなものだ。それらは、感覚、情熱であり、人間の脳ではなくて心に訴えるものなのである(※)」

戦後、長らくアルファ・ロメオの開発責任者をつとめたオラツィオ・サッタのことばだとされる。ステルヴィオ・クアドリフォリオの最新型もまた、脳ではなくて心に訴えるのだ。

※『The Alfa Romeo Tradition』 Griffith Borgeson著/Automobile Quarterlyより

文・今尾直樹 写真・安井宏充(Weekend.)

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みんなのコメント

2件
  • フロントマスクを大幅にマイナーチェンジして欲しい。
  • デザインだけで言えばマツダのSUVとの差や違いを感じません。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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