この記事をまとめると
■ドイツのチューニングメーカーのローテックが手がけたスーパーカー「シリウス」
下着メーカー大手のワコールが仕掛けた国産スーパーカー計画! 多くの人が夢を見た「ジオット・キャスピタ」の残念すぎる結末
■元々はメルセデス・ベンツの元に「特別なクルマが欲しい」と依頼されたのが始まり
■1980年代において1000馬力、時速400km/hという数値が強烈なインパクトを残した
裕福なカーマニアからの要請で作られたワンオフスーパーカー
1980年代中盤にポルシェ959やフェラーリF40といった新たなスーパーカーが華々しくデビューすると、世界のカーマニアの目は、再びそれらに向けられるようになった。
より美しく、そしてより速いスーパーカーを求めたところまでは、1970年代のスーパーカーブームと変わらなかったが、すでに十分に目の肥えたマニアは、高価であってもより生産台数の少ない、ワンオフモデルを究極と考え、さまざまなメーカーにその製作をリクエスト。
その誕生からすでに30年以上の時を経た、このローテック・シリウスも、またそのような経緯で誕生したわずか1台のみが存在するスーパーカーだった。
ローテック社を設立したクルト・ロッターシュミット氏は、そもそもレーシングドライバーとしてさまざまなカテゴリーで活躍した人物だった。キャリアの始まりは1966年のヒルクライム。スモールGT-1600クラスにポルシェ912で参戦した彼は、ロータス・エランにこそかなわなかったものの、常に2位の座を獲得。それはポルシェのなかでは最速の成績だった。
その後、フォーミュラーV1300や国際ヒルクライムレースに参戦しつつ、自らのマシンをBMWのエンジンを用いて自作。1980年からはスポーツプロトタイプやドイツ・レーシング選手権グループCジュニアなどのレースに参戦を続けた。
ちなみに1983年のグループCジュニアにおいては、参戦した全サーキットのラップタイムレコードを更新。レーシングドライバーとして、そしてエンジニアとしての優秀さは、サーキットで見事に証明されたのである。
1000馬力・時速400km/hというスペックに驚愕
そのロッターシュミットのもとに、ある連絡が入ったのは1990年代初頭のことだった。その相手は何とメルセデス・ベンツ。聞けば石油の取引で莫大な富を得たカスタマーが、ほかに誰も手に入れることができない、つまりワンオフのスーパーカーを所有したいと望み、メルセデス・ベンツにその製作を依頼してきたというのだ。
当然、当時のメルセデス・ベンツにはそのようなリクエストに対応する部門はなく、そこで抜擢されたのがロッターシュミット率いるローテックだったというわけだ。代わりにメルセデス・ベンツからは、その製作費のほかに6リッターの60度V型12気筒エンジンなど、必要なメカニカル・コンポーネンツが提供されるという条件である。
ローテックでは、まず当時の自動車や航空機に使用されるもっとも軽量で最新の素材、クロームモリブデン鋼管とカーボンファイバーの複合材を用いたフレームが設計された。
ボディデザインはこのフレームと同様にロッターシュミット自らが描いたもので、左右のドアはシザース式、全体的に滑らかな曲線を基調とする、いかにもエアロダイナミクスに優れた造形を持つボディが完成された。
ヘッドライトは、当初は3連式だったが、これは後に2連式へと改められている。エンジンフードは透明で、外部からもメルセデス・ベンツのV型12気筒エンジンの姿を見ることができるのは素晴らしい演出だった。
搭載された6リッターエンジンには、2基のKKK製ターボチャージャーが組み合わされ、その過給圧は0.85バールと1.20バールの2タイプを設定。最高出力は各々1000馬力、1200馬力が6300rpmで発揮された。同様に最大トルクは1100Nmと1320Nmが3400rpmで出力。組み合わせられるミッションはCima製のオイルクーラー付き6速MTで、デファレンシャルにもLSDが与えられた。
カーボン製のボディパネルを採用するなど、徹底的な軽量化によって1280kgの車重を得たシリウスの運動性能はやはり特筆したもので、0-100km/h加速は3.8秒、0-200km/h加速も7.8秒で走り抜けた。最高速は400km/h以上と発表されたが(430km/hと記載された資料もある)、残念ながらこれらは実測値ではない。
いまからおよそ30年も前に誕生したローテックのスーパーカー。1000馬力、400km/hという数字が与えたインパクトは、現在とは比較にならないほどに大きかったのである。
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