屋根(ルーフ)が開放できるクルマでのドライブは、それだけで非日常的な開放感や特別感が味わえるものだ。カフェのテラス席やキャンプなど、アウトドアで楽しむことが一般的になっているいまだからこそ見直したい、クルマのルーフの種類やその価値を振り返ってみたい。
文/藤井順一、写真/スズキ、トヨタ、日産、ホンダ、マツダ
Zにもシルビアにもあったなぁ……今や絶滅危機のオープンカー!! なんで開かない屋根が主流になった!?
■屋根のあるクルマとないクルマのメリット、デメリット
1978年にリリースされた2代目「日産・フェアレディZ(S130)」の追加仕様として国産初のTバールーフが採用され、後のZ31、Z32型に継承された
そもそもなぜクルマにはルーフが必要なのか。
ベースとなる車両からルーフを取り去ったオープンカーは、欧州(ドイツやフランス)ではカブリオレ、イギリスやアメリカなどの英語圏ではコンバーチブルと呼ばれ、一般にオープンカーとして専用設計されたクルマの呼称であるロードスターやスパイダーなどとは区別されるが、いずれも屋根がないオープンエアでのドライビングを付加価値としている。
屋根が取り払われた開放的な移動空間は、自転車やバイクとも異なる、オープンカーだけでしか味わえない楽しさにあふれている。
その一方、クローズドのボディと比較して強度や安全性の面で劣る。この難点をクリアすべく、オープンカーはさまざまな進化を遂げてきた。なかでもTバールーフは印象的だ。
Tバールーフは、主に2シーターのスポーツカーにおいて、ルーフパネルからルーフ後方に向け、中央部分のみを残し、左右のルーフが取り外せる構造のこと。
中央の構造が骨組みとして残るため、オープンカーの泣き所である強度不足を補うことができるため、日産「フェアレディZ」やトヨタ「MR2」などに採用されたことで知られる。
オープンカーの安全性や強度不足に対応したものにはこの他、ポルシェ「911」がルーツで、フロントとリアのウィンドウを残して屋根だけが取り外せるタルガトップも有名。
国産では1992年発表のホンダ「CR-X デルソル」や「NSXタイプT」、スズキ「カプチーノ」にも設定された。
電動可動式の硬いルーフを持つCR-X デルソルは、前作までの硬派なコンパクトスポーツとしての路線から大きく舵を切ったもの。
コアなホンダ党にはそっぽを向かれてしまったが、それ以降、オープンカーのルーフの素材は幌から金属性の硬いルーフが主流となった。そういったことを考えると、CR-X デルソルは、時代を先取りしすぎたのかもしれない……。
■オープンルーフを取り入れる国産車が続々登場
「2人乗り小型オープンスポーツカー生産累計世界一」を誇る「マツダ・ロードスター」
の登場でオープンカーは身近な存在に。写真は初代モデル「ユーノス・ロードスター」
日産「シルビアヴァリエッタ」や「マイクラC+C」、レクサスの「SC430(4代目ソアラ)」「IS350/250C」など国産勢も大いにオープンカーブームに乗った。
あのマツダ・ロードスターさえ、3代目からは「RHT(リトラクタブルハードトップ)」モデルを市場に投入。これは主に海外などで幌製よりも防犯性が高い金属製トップのオープンカーのニーズが高まったことや対候性や気密性、静寂性、強度面で優れるため。
ロードスターは現行ND型にもリトラクタブルハードトップ仕様の「RF」を継続し設定している。
欧州メーカーを中心に一世を風靡したメタルトップのオープンカーだったが、その後電動のルーフ開閉機構がもたらす重量増や、ルーフ格納時に制限されてしまうトランク容量、デザインの制約などもあってか、欧米メーカーのオープンカーでは幌の採用へと回帰している。
馬車に始まったオープンカーは、いまだ幌が理想のルーフ素材なのである。
■開放感は欲しいけど…オープン未満の屋根を持ったクルマたち
日本で初めて手動式のサンルーフを採用したホンダ・「N360サンルーフ」。蛇腹式の折り畳みサンルーフは後席の真上まで目いっぱい開く開放感だった
昭和から平成にかけては、オープンカー未満のさまざまな開放的なルーフを持つクルマもリリースされた。代表的なものはサンルーフ搭載車だろう。
サンルーフとは、主に採光や換気のためにクルマの屋根に取り付けたいわゆる「天窓」だ。
スライド式やチルト式で室内の換気に役立つのはもちろん、素材をガラスや樹脂とすることで、閉じた状態のままで日中は太陽の光を室内に取り込み、夜には星空を見上げることができるものもあった。
国産初のサンルーフ搭載車は1968年に発売されたホンダの「N360」。
これは手動式のスライドタイプだったが、10年後の1978年に発売した「プレリュード」では電動スライド式のサンルーフを採用。“デートカー”の先駆けといわれるプレリュード。夜のドライブでクルマを駐車し、おもむろに電動サンルーフを開け放つ、といった“活用例”が目に浮かぶようだ。
サンルーフは高級車やファミリーカー、スポーティなクルマなど幅広く採用されたのに対し、サンルーフ以上に開放感が高いキャンバストップは、軽自動車や小型車に主に採用され、より身近な存在だった。
キャンバストップとは、ルーフに折り畳み式のキャンバス(帆布やビニール)素材の屋根を組み込んだクルマだ。
1986年にマツダがフォードブランドで展開した小型車「フェスティバ」が国内初の電動キャンバストップを搭載。手軽に開放的なドライブができるクルマとして、フェスティバがヒット。
それに続くように、日産の初代「マーチ」やトヨタ「スターレット」などの大衆車がキャンバストップを相次いで採用していたが、2000年前後にリリースされた「トヨタ・WiLL Vi」、「スズキ・アルトラパン(初代)」、「マツダ・デミオ(2代目)」あたりを最後に国産勢は消滅してしまった。
■プラスαの楽しさを持った屋根を持ったクルマたち
ルーフが開閉する意味を再定義したマツダ「ボンゴフレンディ」のオートフリートップは、車体と屋根の間に蚊帳のようなテントを広げて大人2人が横になることができるスペースを確保
このようにクルマの屋根は、対候性や快適性を除けば、開閉による心地良さといった付加価値的な要素を目的としたものがほとんどなわけだが、そのいずれにも当てはまらないルーフもある意味では屋根のあり方の多様性を示すものだった。
ルーフが持ち上がり、セミダブルベッド程度の空間を確保できるオートフリートップを採用したマツダ「ボンゴフレンディ」や、ホンダ「オデッセイ」のフィールドデッキをなどがそれ。
同種の発想自体はアメリカのカスタムカーに以前からあったものだが、これを量産車で実現するのだからすごい。屋根の上に折り畳み式で居住空間を作る、これも限られた空間を有効活用する日本的な美意識といったら大げさだろうか。
■開かない屋根に落ち着いた事情
2020年に販売を終了したホンダ「シビック・ハッチバック」にメーカーオプションとして設定されていたトップロードサンルーフは外へスライドするタイプだった
ひと昔前まで、サンルーフやキャンバストップを採用した国産車は街中でいくらでも走っていたものだが、現在では目にする機会は激減。
これには、エアコンやベンチレーションシステムの普及で換気や採光という機能性を補完できたことや、クルマに求められる安全性に対するコスト増、雨漏りなどのトラブルへの不安など、さまざまな要因があるだろう。
かつてサンルーフがミニバンの人気オプションだった頃「サンルーフから顔や手を出さないようにね」なんて、家族の会話が普通だったが、いまや日産「セレナ」、トヨタ「ノア」、ホンダ「ステップワゴン」にすらサンルーフの設定はなくなってしまった。
果たしてオープンカーやサンルーフなどのクルマにおける開放感は、人々にとって必要なくなったのだろうか。結局、ユーザーもメーカーもそうした装備まで購入や開発の予算に手が回らないのが実情なのかもしれない。
窓や屋根を開けてドライブする楽しみのひとつは、その季節ならではの香りや景色を見られることだ。そんな楽しみを倍増させるためにも、ぜひオープンカーもしくは、それに近い感覚が味わえる装備は残していってほしいものだ。
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みんなのコメント
そういう車作りをメーカーもしなくなった
若い奴が乗らないんだからそうなるよな
マツダはロードスターを造り続けて欲しい