アウディのモータースポーツ部門を担当するアウディスポーツ社(前クワトロ社)が、その経験を生かして開発と生産を担当する各シリーズのトップパフォーマンスモデル、それが“RS”だ。今回は最新のコンパクトRSモデルを試してみる。(Motor Magazine2018年7月号より)
パッケージングの優秀さはRSモデルならではの美点
独立したモデルのR8を別として、ベースとなるモデルとは異なる広げられたフェンダーフレアなど、特別に仕立てられたボディに高度なチューニングを施したパワーユニットを搭載するのがRSシリーズの特徴。
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現在、日本に導入されているRSモデルは、R8シリーズと従来型ボディで継続販売されているRS 7 スポーツバック パフォーマンスを含めると、RS 3 スポーツバッック(762万円)、RS 3 セダン (780万円)、TT RS クーペ(989万円)、TT RS ロードスター(1005万円)、RS Q3 パフォーマンス(818万円)、RS 4 アバント(1196万円)RS 5クーペ(1263万円)、 RS 7 Sportback パフォーマンス(1786万円)、R8 クーペ V10 5.2 FSI quattro (2465万円)、R8 クーペ V10 plus 5.2 FSI quattro (2915万円)、R8 Spyder (2623万円)の 11車種に及ぶ。
これらをエンジンを基軸に考えると、RSの名が付くモデルは大きく3種類に分類できる。まずひとつは、605ps/700Nmという出力の4L V8ツインターボエンジンを搭載するアッパーレンジだ。RS7スポーツバック パフォーマンスがこれに該当する。
次にミドルレンジに相当するモデルには、これまで長きにわたって450ps/430Nmという実力の自然吸気型4.2L V8エンジンが採用されていたが、現在は450psを維持しながら最大トルクを600Nmに増強した2.9L V6ツインターボエンジンに順次切り替え中である。そのトップバッターがRS5 クーペで、RS4 アバントがこれに続いている。
一方、コンパクトレンジに相当するRSシリーズは、現在モデル展開がもっとも豊富で、RS 3 スポーツバック、RS 3 セダン、TT RSクーペ、TT RSロードスター、そしてRS Q3パフォーマンスの5モデルが揃っている。
このコンパクトレンジのモデルは横置きエンジンプラットフォームを採用している。そして、これに4気筒エンジンをベースにしてパワーアップしていく手法は、すでにS3やTTSで実践済み。プレミアムブランドのトップレンジモデルとなるRS用としてさらに特別なテイストを加えるべく、2009年に専用の直列5気筒ターボエンジンが先代TT RSに搭載されて初登場した。
アウディの直列5気筒エンジンの歴史は古く、1976年に登場したフラッグシップモデル、2代目アウディ100で4気筒の経済性と6気筒並みのパフォーマンスを併せ持つパワーユニットとして初めて搭載された。
それ以降、アウディ100がA6と名前を変える1990年代末まで直列5気筒エンジンを縦置き搭載したモデルは常にラインナップされ、1980年代には4WDシステムを搭載したモデル「クワトロ」で世界ラリー選手権のタイトルを獲得している。
つまり実用ユニットから高性能なハイチューンユニットまで、直列5気筒エンジンに関しては非常に豊富な経験値を持っている。だから直列5気筒エンジンを横置きプラットフォーム用のハイパワーユニットとして復活させたのは、ある意味で自然な成り行きである。
柔軟でありダイナミック、個性に満ちたフィーリング
さっそく最新のコンパクトRSモデルを試してみよう。まずは、待望の新型RS 3 セダンだ。
このクルマ、まずサイズ感が良い。Cセグメントモデルはどうしてもハッチバックボディが主流で、今やセダンボディはかなりの少数派。そんな中、全長4480mm/全幅1800mmと手頃な大きさで、しかもトランクを有する落ち着いた佇まいのハイパフォーマンスセダンは、それだけで魅力だ。
リップスポイラー付きフロントバンパー、開口部を大きく取ったフロントグリル、リアディフューザーなど、エクステリアはRS流にカスタマイズされているが、たとえばフロントフェンダーフレアのワイド化などは抑制的で、高性能モデルであることを主張し過ぎていないところも良い。
キャビンスペースは、リアシートのヒール段差がしっかり取れているので、足下スペースの奥行きはそこそこながら、後席に大人2人乗車でも十分にリラックスした姿勢がとれる。前席はパッケージオプションのRSスポーツシートが抜群のホールド性と座り心地を実現していた。
ただこのシートは、ヘッドレスト一体型のハイバックタイプなので、リアシートに座ると前方視界が限られてやや圧迫感も受ける。またスライドやリクライニングといった調整機構がすべて手動式となるので、標準のフロント電動調整式スポーツシートという選択肢も、もちろんありだ。
トランクルーム容量は315Lとやや小ぶりだが、リアシートバックはセンタースルー付きの上に、左右分割式で全面前倒しも可能だから、使い勝手はかなり良い。
続いてTT RSクーペのパッケージングを見ていこう。小ぶりながらもリアシートを備えた2+2クーペボディは、全長4190mmとRS 3セダンより290mmも短く、一方で全幅は1830mmと30 mmワイドだ。
車重は1480kgで、今回試したRS 3セダンの1600kgよりもさらに110kgも軽い。リアシート部分は、手荷物置き場と考えればかなりの広さだ。またハッチゲートを備えており、標準状態でのラゲッジスペースは305L。クーペとしては十分に広い上に、リアシートバックを前倒しすればハッチバックモデル的な使い方もできてしまう。スポーティなアピアランスの一方で、そこそこ以上の高い実用性を備えているのもTT RSクーペの魅力だ。
RS 3セダンはシフトレバー左側のコンソール上にあるボタンを、TT RSクーペはハンドルの右スポーク部分の赤いボタンを押してエンジンを始動させる。
快音とともに目覚めた2480ccの直列5気筒ターボエンジンは、初代のものをさらに進化させたユニットで、オイルパンなどブロック構成をオールアルミ化した上に、クランクシャフトからオイルポンプといった補機類までトータルで軽量化することで、単体重量で26kgのシェイプアップを実現している。
さらに、直噴機構に加えてポート噴射機構も併用するデュアルインジェクションの採用や新型タービンの採用などにより、以前は340psだった出力は400psに、トルクは30Nmアップの480Nmへと向上している。
両車ともエンジンは同スペックゆえ110kgの重量差があってもパワーフィールはほぼ共通といえる。最高出力400psのハイチューンながら、昨今のターボエンジンらしく最大トルクの発生ポイントは1700rpmと低いため、気難しさは皆無で、どこから踏んでも柔軟に加速していってくれる。
一方でエンジンレスポンスがよりシャープになり、排気音も大きくなるダイナミックモードを選んでアクセルペダルを深く踏み込んだ時の加速感には魔力すらある。クワトロシステムがパワーを4輪に分散し、少しの無駄もなく路面に伝えている感覚で、姿勢の乱れなど一切なく、ひたすら力強く前に出て行く。加えて4000rpm手前あたりから独特のクォーンという刺激的なサウンドが聞かれるのも、この2.5TFSIユニットの大きな魅力。アウディスポーツが専用エンジンを仕立てた意義は確かに実感できる。
ちなみに0→100km/h加速タイムはRS 3セダンが4.1秒で、TT RSSクーペが3.7秒。ともに十分な俊足ぶりだが、やはりひと際軽いTT RSクーペの速さが際立っている。右足の軽い踏み込みに対する反応や所作の軽やかさは、RS 3セダンを上回る。
しかしトータルで見て、僕が大いに気に入ったのは最新のRS 3セダンだ。TT RSクーペはスポーティなのだが、短いホイールベースのせいかピッチング方向の動きに落ち着き感がやや薄く、乗り心地に少しせわしなさがある。
その点、RS 3セダンはオプションのマグネティックライドを装備(TT RSクーペは標準装備)していたこともあるが、もっとも硬いダイナミックモードでも乗り心地は十分にしなやかで、荒れた路面でパワーをかけても所作が落ち着いている。ハンドリングもシャープではあるものの、姿勢変化が穏やかで、大人っぽい乗り味のスポーツセダンだと感じた。
もちろんクーペとセダンなのだから、このくらいドライブフィールが作り分けられているのは、むしろ歓迎すべきことだ。そうした豊かな個性が揃えられているのも、このコンパクトRSモデルたちの大きな魅力と言えよう。(文:石川芳雄)
アウディRS 3 セダン 主要諸元
●全長×全幅×全高=4480×1800×1380mm
●ホイールベース=2630mm
●車両重量= 1600kg
●エンジン=直5DOHCターボ
●排気量=2480cc
●最高出力=400ps/5850-7000rpm
●最大トルク=480Nm/1700-5850rpm
●トランスミッション=7速DCT
●駆動方式=4WD
●車両価格=780万円
アウディTT RS クーぺ 主要諸元
●全長×全幅×全高=4190×1830×1370mm
●ホイールベース=2505mm
●車両重量=1490kg
●エンジン=直5DOHCターボ
●排気量=2480cc
●最高出力=400ps/5850-7000rpm
●最大トルク=480Nm/1700-5850rpm
●トランスミッション=7速DCT
●駆動方式=4WD
●車両価格=989万円
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