2019年9月27日にトヨタ、スバル両社から「新たな業務資本提携に合意」というニュースがあった。これまで2019年3月31日の時点では、トヨタは、スバルの株式16.82%を持つ筆頭株主で、議決権比率3.17%だった。そして今回の合意により、トヨタは議決権比率20%に達するまでの株式(約2430万株)を取得したことになる。一方でスバルは、トヨタが株式取得に要した金額と同額の800億円を上限にトヨタの株式を取得している。
資本提携の本丸
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こうした対等とも言える株式の持ち合いだが、報道では議決権比率が20%を超えたことによる「スバルのトヨタ化」や「子会社か?」といった憶測が飛び交った。しかし、「関連会社」という関係ではあるものの、こうした提携は14年も前の2005年から行なわれており、都度、両社がウイン、ウインの関係となるために提携関係を結んできている過去がある。決して両社とも連結子会社を目指しているわけではないのだ。
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では、今回の業務資本提携はどのようなウイン、ウインをつくることを目指したのかを考察してみた。両社からの発表では、「トヨタ、スバルを超えるもっといいクルマづくり」と、「変革期に生き残るための協業拡大」という2点が要点になる。その中身を紐解くと。
1:最高に気持ちいいAWDモデルを共同で開発
2:86/BRZの共同開発
3:スバルに搭載するTHSシステムの搭載車種拡大
4:コネクテッド、自動運転分野での技術提携
といったことが公表されている。
この1から3にある項目は中長期目標というより、近視眼的対応として、すぐにでも量産モデルでシナジー効果を発揮できる項目だとわかる。
章男社長はスバル好き?
豊田章男社長は自身のドライビング練習にスバルWRXを使い、「AWDでの走り」をトレーニングしているという情報がある。こうしたことからも、スバルの「曲がるAWD」技術を高く評価していることがわかる。もちろんトヨタには、新型RAV4に搭載する「曲がる最新AWD技術」がある。だが、おそらく章男社長にはスバルのAWDが魅力的に映っているのだろう。一方、スバルはRAV4を見て、トヨタの開発スピードやティア1のJTEKT(ジェイテクト)やデンソーといった企業との協業も魅力的に映ったのではないだろうか。
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また86/BRZでは、第2世代の開発においての協業は当然の成り行きと考えられる。グローバルで成功しているこのスポーツカーの新型を期待する声は世界中にあるからだ。
そしてハイブリッド技術をスバルへ提供することは、わかりやすいウイン、ウイン関係だ。環境規制が各国で厳しくなる中、スバルのHEV開発は遅れている。そのためにも技術や製品の提供により、環境対応がスピーディに、そしてスマートに対応できる。トヨタには売り上げが立ち、ウイン、ウインになるわかりやすい項目もでもある。
筆者は4番目の「コネクテッドと自動運転分野での技術提携」という項目が、今回の資本提携の本丸だと予測している。
確実に必要となる未来技術
不確実性の時代と言われ、この先のモビリティにおける変化の予測は難しく、世界中が「明確な解」を持たない状況だ。そうした中、100年に一度の変革期を生き残るために関係性を強化した、というのが今回の資本提携の本質だろう。
この先、EV化は進み、フォルクスワーゲンやトヨタ規模のカーメーカーであれば、公共の乗り物、例えばロボタクシーやバス、そしてラストワンマイルと言われる大都市での移動、過疎地でのコミュニティバスの代替などの需要がある。そうした確実性のある分野では、開発スピードを上げていかなればならない。
特に中国では、「チャイナスピード」という言葉で表現され、日本、ドイツはその開発スピード、環境変化のスピードに脅威を感じているのは事実だ。
「確実に必要とされる未来の技術」という分野においては、待ったなしの状態であり、スバルの技術、トヨタの規模はお互いが欲している領域とも言える。つまり、EV化、自動運転、コネクテッド(C・A・S・E)という幅広い領域において高い技術が必要であり、開発スピードは速く、そしてユーザービリティに優れていることが要求されてくるわけだ。
消費財から生産財へ
以前、ホンダが発表したHonda e MaaSの説明において、クルマが消費財から生産財に変わるという話を書いた。
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こうした状況の変化は各社が予測をしており、そこに向けて何をすべきか、という段階を通りすぎ、動き出すタイミングになっているということだ。そのために資本提携が進んでいると理解できる。
簡単に説明すると、消費財とは、クルマは製造されユーザーが購入して消費していく。一方生産財とは、クルマのシェアなどで所有ではなく利用になり、利用料などのサービスにより経済効果を生み出す生産財(材)になるということだ。
一方で、全てが生産財になり、公共の乗り物しかなくなる未来は想像しにくい。やはり、完成車メーカーは意地でも「乗ってみたい」「欲しい」と思えるクルマは造り続けると思う。そうした時に、人はなぜ購入するのか、何を購入するのか?というポイントにおいて、ドイツメーカーの多くは、「プレミアムなモデル」という考えが一般的だ。
役目として量産メーカーは公共のロボタクシー系開発企業になり、サービスを中心とした産業構造をイメージしている。実際、フォルクスワーゲンのボードメンバーステファン・ゾンマー氏は「フォルクスワーゲンOS」を作ると発言している。それは、車両は動くエンターテイメントスペースへと変わり、移動中に何が提供できるか?というサービスが重要になるという意味でゾンマー氏は「タブレットに4つのタイヤをつけた乗り物を作る」とも例えている。
そしてメルセデスやBMW、アウディなどは「欲しい」と思わせる「羨望モデル」を持っている企業として生き残りをかけていると見える。こうしたプレミアムメーカーのメルセデスとBMWですら、自動運転の開発においては協業していくことを発表しているのだ。
トヨタとスバルの役目
トヨタとスバルに置き換えれば、トヨタはVW的にサービスが大切になり、スバルは「欲しい」と思わせる「羨望モデル」造りを強化する役目のように見えないだろうか。
現実にトヨタとソフトバンクの共同出資会社「MONET」では、日野自動車、ホンダ、スズキ、いすず、ダイハツ、マツダ、そしてスバルを巻き込んでMaaS価値向上を目指す取り組みを始めており、サービス提供領域へ拡大している。また、KINTOでサブスクリプションを導入し、豊田章男社長もモビリティサービスが重要であることを明言している。
一方でスバルはAWD技術、ボクサーエンジンというユニーク(専門的)な技術を持ち、ファンは多い。スバルが目指す方向としては、電動化されていく中でも、AWD制御やパワートレーン技術によって、ダイナミック性能には「スバルらしさ」がある、というのが理想像でもあるわけだ。
4ヶ月前(2019年6月)、トヨタとスバルはCセグメントサイズのEVのSUVを共同開発することを発表している。このモデルは多くのコネクテッド技術によりさまざまなサービスを提供し、そして曲がるAWDであり、これまでにないもっといいクルマづくりの象徴として登場するに違いない。
お互いに特徴がある企業どうしだからこそ、厳しい不確実性の時代を乗り越えるために、お互いのユニーク(専門)ポイントを持ち合って、歩を進めていくという狙いが読み取れるわけだ。
資本提携の効果
こうした動きは2005年にまで遡る。最初の資本提携は、トヨタの渡辺社長とスバル竹中社長との間で結ばれ、成果としては、スバルの北米工場スバル・インディアナ・オートモーティブ工場(SIA)でカムリの生産委託を受注し、ウイン、ウインの関係を築いている。
そして2006年に入ると、トヨタBb、ダイハツ・クーのOEMとしてスバルはデックスを販売している。2008年には、トヨタラクティスをスバルはトレジアとして、そして2016年にトヨタのルーミー/タンク、ダイハツトールをスバルはジャスティとしてOEM販売をしている。OEM生産は非常にわかりやすく、トヨタ側は販売で売り上げが立ち、スバル側は開発せずにスバルブランドのモデル投入ができるメリットがあるというウイン、ウインになるわけだ。
その後、スバル森社長の時代になると、スバルはAWD開発、ボクサーエンジンの開発へ集中と選択をするために軽自動車の開発、生産をやめ、手を引く決断をしている。この時も従来の顧客へはダイハツからのOEM提供を受け、ビビオやプレオ、サンバーの顧客に対して軽自動車を提供しつづけることができた経緯がある。
当時の森社長のこの決断は、その後のスバルのユニークさ(専門性)を強調するきっかけになったと言ってもいいだろう。曲がるAWDの開発やボクサーエンジンの熟成など、今のスバルのUSP(他にはない特徴的なポイント)と言える部分が、この時代に広く世界から支持を受けるようになったのだ。
近年では86/BRZの共同開発が始まり、スポーツカーとしてはグローバルで大ヒットを記録している。その後さらに資本提携は進み、今回に至ったわけだ。現在の中村知美社長は2009年から経営企画本部長職におり、こうした関係性を作り、見守ってきた立場だったが、今回は自らが次世代に向けた一歩を踏み出すために、経営手腕を振るったということになる。
こうして紐解きながら細部をみると、お互いの強みを持ち寄ることでのシナジー効果は1+1が3を超え5、6になる未来を見据えた提携関係であることが見えてくるのだ。<文:高橋明/Akira Takahashi>
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