もくじ
前編
ー 日曜の勝者=月曜の売れ筋
ー 20年後の今 オーナーは次の世代に
ー 155 今では引く手あまたの問題パーツ
ー 155 オーバルコース試乗
ー ボルボ850が上位 誰が予想した?
世界に2店 ボルボ スタジオ 青山 コーヒブレイクからオーダーメイドまで
後編
ー 空力に有利? ワゴンボディ
ー 試乗 ポルシェ設計の5気筒
ー Zアクスルサスに病み付き E36型
ー 魅力はハンドリング 318iS
ー BTCC黄金期 皆さまも1台いかが?
日曜の勝者=月曜の売れ筋
レディース・アンド・ジェントルマン! 1994年のBTCCへようこそ! イノベーション、ユニークな参戦車両、論争、コリーのぬいぐるみ、政治的工作、そしてレースガソリン。FISAの規定する、ホモロゲーションが4クラスに分かれた複雑なグループAから、後に “スーパーツーリング” となる新2ℓ規定に移行して4年目となるシーズンだ。マシンはエンジンの最高回転数が8500rpm、最低重量が950kgに制限され、ベース車両の最少生産台数が2500台。英国のサーキットはこのうえない大盛況となった。
量販セダンをベースにすることは、主にスポーツ性の面で不安視されたが、その選択はBTCCの妙技だったとすぐに証明された。毎戦とも3から4万人の観客動員を記録したのである。また、参戦メーカーも多数に上った。アルファ・ロメオ、BMW、ルノー、プジョー、フォード、ヴォクゾール、トヨタ、日産、マツダ、そしてボルボ。
観戦の影響は軽視できるものではなく、売れ筋モデルはさらに多くが出荷されるようになった。それを手に入れたのは、当時のBTCCドライバーのドライビングを模倣したい人々。まさに、各メーカーがターゲットとした “レースに傾倒する家族持ちの男性” である。
20年後の今 オーナーは次の世代に
あれから20年以上が過ぎた。気になるのは、次の世代が、これらをどうして欲しがるのかという点だ。その答えは、ここロッキンガムに集まったオーナーたちが教えてくれた。彼らは揃えたように「ツーリングカー」という単語を口にしたのである。それは1994年当時の影響力がいまだに残っていることを暗示するものだ。
まずは、イタリアからのエントリーである。他のクルマのオーナーたちからは嘲笑かブーイングを受けるかもしれないが、それも無理はない。1994年、雨のエイプリルフール。スラクストンサーキットで発表された155TSは、横紙破りとでも言うべきものだったからだ。それは、このシリーズのホモロゲーション取得のためだけに生産されたモデルであり、それを行ったのはアルファ・ロメオだけだったのである。
英国では “シルバーストン”、欧州本土では “フォーミュラ” と銘打たれたそれは、2500台がなかなかの価格で販売された。外装は、33から流用したリアスポイラーの高さを150mm増すスペーサーや、リベット留めのフロントスプリッターを設定。公道ではたいしたメリットがなくとも、サーキットでは話が違う。ガブリエル・タルキーニはこれを装着したマシンで、開幕5連勝を飾った。
155 今では引く手あまたの問題パーツ
この成功にはフロントのアクティブディフも貢献したが、ライバルは空力パッケージに抗議し、スネッタートンの第4戦とシルバーストンの第5戦でアルファが獲得したポイントの剥奪を要求。裁定はおとがめなしだったが、問題は過熱する。ルールには抵触しておらず、アルファ・コルセはフロントスプリッターの使用を継続したが、第7戦で155は車検をパスできなかった。政治的な謀略があったことは明らかで、妥協の結果は次戦に出走した155に見て取れた。フロントはそのまま、リアはスポイラーの高さが下げられていたのだ。
7月にはルールが改定され、フロントスプリッターとリアウイングが装着可能であることを明文化。各チームとも似通ったそれらを導入した。アルファ・ロメオはフライングした形になったが、獲得ポイントはそのままだった。
その問題のパーツ、今回の155には装着されていない。トランクを覗いても、スペーサーやリベットは見つからなかった。オーナーのジェロ・シシリアはこう話す。「付いているのを見たことはないですよ。結構な額で売ってくれと言われたこともあるのですが」レースでの名声ゆえ、それらを探しているユーザーも少なくないようだ。
155 オーバルコース試乗
写真で見るより実物のほうがハンサムで、フロントエンドにレースカーのイメージはない。リアへ駆け上がるウェッジシェイプは控えめなエアロパーツと相まって、スポーティなオーラを放つ。
ボンネットを開けると、神々しいツインスパークユニットが姿を現す。シルバーストンのそれは1.8ℓの8バルブ仕様で、少なくとも20年は先んじた設計だった。プラットフォームは、ティーポなどに用いられたフィアット・タイプ3である。
キャビンの操作系は、往年のスタイリッシュなアルファより多少さえないが、配置は上々。ステアリングホイールは太く、シフトノブはずんぐりしているが、質感は嬉しくなるものがある。
スロットルを開けば、レブカウンターは鋭く回りたがり、ツインスパークユニットの甘美なサウンドがドライバーを駆り立てる。3500rpm以上をキープし続ければ、至福の時を過ごせるはずだ。
ロッキンガムのオーバルコースでは、131psではやや力不足に感じるが、舞台をロードコースに移せば、155は鋭いコーナリングを披露する。ターンインはシャープで、初期はエンジンパワーによるアンダーステアが発生するが、スロットルペダルに込めた力を弱めれば、きれいなタックインが決まり、パワーオンは早めにできる。その操作をし損じれば、派手なオーバーステアに翻弄される羽目に陥るが、それこそタルキーニスタイルだ。真のアルフィスティなら、前輪駆動特有のそうした挙動も許せるものだろう。
ボルボ850が上位 誰が予想した?
次はボルボだ。レース界では、古くはPV444/544、アマゾンや240ターボが成功を収めているが、1994年当時は目立たない存在だった。それを覆したのが850で、市販車のスノッブさをサーキットに持ち込んだばかりか、それを高めさえしたのだ。そして、もし “あの噂” が本当なら驚きだ。
ボルボがレースカーを公開したのは、3月も終わりに近付いてからで、ちょっとした騒ぎを巻き起こした。ドライバーだったリカルド・リデルはこう振り返る。「ライバルたちは、スポーティなイメージを強めるのが大きな目的でしたからね、ワゴンの参戦を快く思わなかったわけです」
とあるジョークがパドックで飛び交い、それはやがてメディアでも囁かれるようになった。“ボルボはBTCCのバトルを勘違いしてるのじゃないか? あのクルマの室内には、リアに犬用のガードが付いてるらしいぞ” というものだ。
そんな調子でからかわれたボルボ850レーシングチームだが、その返しは気が利いていた。荷室部分にコリー犬のぬいぐるみを積み込んで、パレードラップを走ったのである。ワゴンボディというマシンのユニークさと、犬を絡めた遊び心は話題となり、マーケティング部門は思わぬボーナスと喜んだ。しかし、テスト期間の短さゆえに、これが上位を走ると予想した者はいなかった。レース解説者のマレー・ウォーカーでさえ、その例に漏れない。ブランズハッチにおいてヤン・ラマースが駆る大柄なスウェーデン製ワゴンが、上位グループに食い込んだ時には驚きの声を上げている。
「ボルボがワゴンで参戦すると聞いた時は誰もが笑い者にしましたが、もはや誰も、これがおかしなものだなんて思いはしませんよ」
後編では、いよいよポルシェ設計の5気筒に火を入れる。
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