ROLLS-ROYCE WRAITH BLACK BADGE
ロールス・ロイス レイス ブラック・バッジ
軽量化を徹底したロータス エキシージ スポーツ350を、スーパーGTレーサーが鈴鹿で評価する!【Playback GENROQ 2016】
ヤングカスタマーを魅了する「黒い刺激」
伝統や格式があるからこそ高い価値を認められるロールス・ロイス。しかし今や若くして成功したヤングカスタマーの購入も目立つだけに、そうした動きに対応するべく、この“ブラック・バッジ”が用意された。しかも単に見た目の仕様を変更しただけではないようだ・・・。
「若くして成功した者たちへ向けた、ロールス・ロイスらしい回答・・・」
今年3月のジュネーブ・ショーで発表されたレイス、そしてゴーストのブラックバッジは、若いユーザーをターゲットと見据えている。40代、いや30代までを含む若くして事業に成功した者達である。
驚くべきことに開発陣は、彼らが乗るモディファイされたロールス・ロイスにインスパイアされたことを隠さない。夜の街を闊歩する、大径ホイールを履き、時にマットブラックで全身をラッピングされたようなファントムやゴーストを眺めつつ、自分達なら何ができるかを考えたというのだ。グッドウッドの面々に、そんなストリート感覚が備わっていたとは・・・それを聞いて思わず身を乗り出してしまった。
そのうちの1台、レイス ブラック・バッジのテストドライブの舞台はラスベガス。これまた今までのロールス・ロイスでは、きっと無かっただろう選択である。悪くない。
結果としてブラック・バッジは、全身黒尽くめのレイスにはなっていない。専用ボディカラーとして、その名もブラック・バッジ・ブラックも用意はされるが、ロールス・ロイスの基本はビスポーク。内外装ともに自由にコーディネートできる。
ブラック・バッジを象徴するのは、その名の通り配色が反転して、ブラック地にシルバー文字とされたダブルRバッジ。そしてハイグロスブラック仕上げとされたノーズ先端のフライングレディだ。さらにフロントグリルの周辺部分、エアインテークのインサート、そしてトランクリッドのハンドルやエキゾーストパイプなどのクローム部分がダーク調に改められている。特に顔つきは、かなりワルさが強調された。
「もちろん、素材も設えもクオリティには何も言うことはない」
しかしながらサイドウインドウフレームや後ヒンジのドアノブ、テールランプの輪郭などの部分には従来通りのクロームが残されている。これらは、いずれも遠くからでもレイスだと、あるいはロールス・ロイスだと認識させるポイントになっているパートだけに、敢えてそのままとしたのだという。この辺りはメーカーのデザイナーの矜持というところだろう。
市販車初のCFRPとアルミニウムを組み合わせた21インチホイールもブラックとシルバーのコーディネート。近づくとカーボンの織り目が見えて、これが実にソソる。
インテリアの仕立ても同じ流儀で行われている。エアアウトレットはダーク調でまとめられ、ステルス機の機体に使われるというアルミニウム合金製糸を使ったCFRP素材のトリムが広い面積を覆う。シート、そして専用のクロックは無限の可能性を示す“∞”のロゴ入りである。もちろん、素材も設えもクオリティには何も言うことはない。
手が入れられたのは、こうした視覚的な部分だけでなく、走りの味付けにまで及ぶ。可処分所得の大きさはさておき、40代の筆者がノーマルのレイスに抱いていた不満が、あらかた解消されていたから、きっとターゲット層の多くの人がこれを気に入るに違いない。
「ほとんどのシチュエーションで思い通りのレスポンスを得ることができる」
V型12気筒6.6リッターツインターボエンジンは、最高出力を632psに据え置きつつ、最大トルクを70Nm増の870Nmに引き上げている。パワーはすでに十分。求めたのはアクセル操作に即応するレスポンスだというのが開発陣の説明である。それに伴い8速AT、そしてドライブシャフトはリファインされている。
さらにドライバビリティを高めるべく“イントューティヴ スロットル レスポンス”と呼ばれるプログラムも採用された。内容は、スロットル開度が25%以上になると通常より300~500rpm高い回転数でシフトアップが行われ、80%以上の開度では6000rpmまでシフトアップしなくなるというもの。それは70~80%ほどのアクセル開度では変速も素早くなり、ブレーキング時にも即座にダウンシフトが行われるようになるという具合だ。
効果はてきめんで、ほとんどのシチュエーションで思い通りのレスポンスを得ることができるし、敢えてわずかにショックを残した変速感も心地よい。ワインディングロードでは、さすがにもう少しギヤをホールドしておけたら・・・という場面もあったが、実際にそんな状況には誰もほとんど遭遇しないだろう。
パワーステアリング、そしてエアサスペンションもノーマルのレイスより引き締まった設定とされている。開発陣は魔法の絨毯のようと評させる乗り心地を大事にしているのは変わらないと言うが、率直に言って低速域では、時に“コツコツ”という入力を感じることもあった。
「コーナリングの場面でのクルマとの一体感は、確実に強まっている」
代わりに、特にコーナリングの場面でのクルマとの一体感は、確実に強まっている。例えばレイスで感じたステアリングを切り込んだ瞬間の反応の薄さ、絶対的なロール量の大きさが緩和されており、自信をもってターンインできる。車重を意識させられる場面が、だいぶ少なくなったという印象なのだ。
実はこれにはタイヤのリファインも効いているようである。サイズも銘柄も不変ながら構造に手が入り、操舵感を改善したというこのタイヤ、今後はブラック・バッジ以外にもすべて適用になるという。
スタビリティも申し分無し。これだけの大パワー、大トルクを後輪だけで確実に受け止めていて、結構なペースで飛ばしても唐突な挙動変化に見舞われることは、ついぞ無かった。絶対的な制動力よりトルクを重視してローター径を拡大したブレーキも、確実な“足応え”を感じることができた。
「ロールス・ロイスの新しい挑戦、その意味でも筆者としては大歓迎と言いたい」
走り全般を貫くのは、これぞメーカーにしかできない仕事だということである。ロールス・ロイス自身がやると決めた以上、ただのドレスアップには終わらせないのだ。
内外装の仕立てには好き嫌いがあるだろう。また、ロールス・ロイスがこうしたモデルに手を出すこと自体にも賛否が分かれるはずだ。しかし一方で、まさにこれをこそ求める層が少なくないのは紛れもない事実。実際、レイスの2~3割がブラック・バッジになるだろうというのが彼ら自身の見立てである。
この後、問われるのは正統派ロールス・ロイスが何を仕掛けてくるかということかもしれない。光が眩くなるほど、影もまた濃くなるものだから・・・。ロールス・ロイスの新しい挑戦、その意味でも筆者としては大歓迎と言いたいと思う。
REPORT/島下泰久(Yasuhisa SHIMASHITA)
PHOTO/Rolls-Royce Motor Cars
【SPECIFICATIONS】
ロールス・ロイス レイス ブラック・バッジ
ボディサイズ:全長5285 全幅1947 全高1507mm
ホイールベース:3112mm
車両重量:2440kg
エンジン:V型12気筒DOHCツインターボ
総排気量:6592cc
最高出力:465kW(632ps)/5600rpm
最大トルク:870Nm(88.7kgm)/1700-4500rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:RWD
サスペンション形式:前ダブルウイッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前255/40R21 後285/35R21
最高速度:250km/h(リミッター介入)
0-100km/h:4.5秒
環境性能(EU)
CO2排出量:333g/km
燃料消費率:14.6リッター/100km
※GENROQ 2016年 10月号の記事を再構成。記事内容及びデータはすべて発行当時のものです。
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