自動運転の最前線情報をお届けする本連載、第22回となる今回は、自動運転によって福祉車両がさらに進化する…という話。そもそも日本車は福祉車両について世界トップレベルの技術力をもっています。そこに自動運転の技術が上乗せされれば、あまねく人に「移動の自由」を楽しんでもらえる…。そんな最前線事情をお届けします。
文/西村直人
写真/MAZDA、AdobeStock(アイキャッチ写真は@maroke)、奥隅圭之
あぁ…ついに…2022年12月にホンダNSX生産終了 最終仕様「Type S」発表へ
シリーズ【自律自動運転の未来】で自動運転技術の「いま」を知る
■自動運転の主役は「技術(機械)」か「人」か
「我々は人中心のHMI開発や、車作りを行なっています……」。
こうしたメッセージを発する自動車メーカーが増えてきました。HMI(Human Machine Interface)は「人と機械の接点」と訳されます。1990年代から注目されてきたHMIは現在、意思の疎通や人の振る舞いに関わることから、Human Machine Interactionとも呼ばれます。
一口に「人中心」といってもさまざまなアプローチがあります。代表的なところでは、技術が中心となり人の運転操作を強制的に補正する手法(ABSやESPなど)や、人の運転操作を活かしながらサポート技術が黒子となる手法(車線中央維持機能など)が挙げられます。いずれも安全な交通環境の実現には不可欠な歩み寄りです。
しかしそれぞれ一長一短あり、二者択一論では語れません。最先端とはいえ先進安全技術をもってしても完全ではないため、“人が技術に頼り切る”ことは現時点、むずかしいからです。
2017年、マツダは将来の自動運転に対する考え方として「Mazda Co-Pilot Concept」を掲げました。
「走る歓び」を重視するマツダは、自動運転技術に対しても独特な、そして強い思いがある
通常はドライバーが運転することで「走る歓び」を提供しながら、その裏でクルマは、ドライバーの状態を常に見護ります。このときシステム自身はあたかもドライバーに代わって運転しているかのような、いわば仮想運転状態で待機しています。
そして状況が変化し、ドライバーには正常な運転操作ができないとシステムが判断した場合には、システム自身が安全な場所まで運転操作を行ない停車させます。
こうしたシステム一連の動きを、マツダは2021年6月の「中期技術・商品方針2021」のなかで「Mazda Co-pilot1.0」と名付け、2022年に発売するラージ商品群から導入を開始すると発表しました。
では実際にMazda Co-pilot1.0にはどんな働きがあるのでしょうか?
■人の機能低下を技術が補う
まず、ドライバーの認知、判断、操作が正しく行なわれているかシステムが検出し、正しく行なわれていれば「ドライバーは正常である」と判断します。
そして万が一、ドライバーの認知、判断、操作が正しく行なわれていない場合には「ドライバーに緊急事態が発生した」とシステムが判断し、これまで実用化された先進安全技術を用いて安全に停止させる、これがシステムの概要です。
こうしたMazda Co-Pilot Conceptのような人を中心とした安全への考え方は、他社からも同じく発信されています。
トヨタでいえば「Toyota Teammate」、日産では「Nissan Intelligent Mobility」、ホンダでは「Safety for Everyone」、スバル「総合安全」などがそれにあたります。
海外の自動車メーカーからも、人と技術のバランス(割合)に差があるとはいえ目指す安全手法は同様です。いずれも人の状況をシステムが検出し、危険な状態に近づいてしまう場合に限り、安全側へ引き戻すという発想です。
そこで改めて「人中心」です。
自動運転技術は「技術(機械)」と「人」との調和が必要。そのなかでも、どこまでが技術で、どこまでが人か、という議論はこれから先、さらなる検討と試行錯誤が必要となりそう(AdobeStock@metamorworks)
日本は超高齢社会となって久しく、この先も65歳以上の高齢者、75歳以上の後期高齢者が運転免許証を保有し続けると予想されています。
人は等しく年を重ねることから、徐々に身体的機能が低下していきます。その低下には個人差があるものの、自然の摂理であり抗うことはできません。
一方、クルマの運転は身体全体で行なうことから、身体的機能の低下は安全な運転環境の継続と密接な関係があり、ここに自動運転技術がサポートする大きな意義が発生します。
高齢者の運転操作サポートに関して、国内外の自動車メーカーは急務と捉え技術開発に取り組んでいます。そのひとつであるホンダでは、高齢者の運転操作をサポートするためにどんな技術が必要なのか、行動心理学の上からも研究を行なっています。
「条件付自動運転車」と呼ばれる、世界初の自動化レベル3技術を含んだ「Honda SENSING Elite」の開発・実装を経たことで、この先は人の振る舞いに寄り添うレベル2技術の実現に期待が寄せられます。
「事故ゼロ社会の実現に向けた自動化技術の開発経験は、この先の先進安全技術を生み出す上でとても大きな財産になりました」と語るのは、Honda SENSING Eliteの開発責任者である杉本洋一氏。本連載では、第12回や第13回で詳細をレポートしています。
■「不要な急アクセル」を感知
トヨタでは、高齢ドライバーに多いとされるアクセルとブレーキの踏み間違いが元で発生した事故を抑制するため、2018年12月に「踏み間違い加速抑制システム」を発売しました。
まずは販売済みの(オーナーの手に渡っている)「プリウス」と「アクア」に後付け装着を可能とし、その後、水平展開しながら、現在はトヨタ以外の車種にも設定されるなど装着可能車が拡がっています。メーカー間の垣根を飛び越え有用な技術を採用するこうした考え方は、自動運転開発の協調領域と重なります。
さらにトヨタでは、2020年2月に「急アクセル時加速抑制機能」を発表、同年8月以降の新型車から順次導入しました。
新たな先進安全技術である急アクセル時加速抑制機能は、従来の踏み間違い加速抑制システムの弱点であった対象物が直近にない場合であっても働くため、事故の抑制可能なシーンが増えています。
具体的には、過去の走行データをもとに踏み間違い推定アルゴリズムに基づいた不要な急アクセルを検知して急加速を抑制し、暴走事故を防ぎます。
この「不要な急アクセル」を検出するアルゴリズムは、まさしく自動運転における要素技術です。その意味では、すでに自動運転技術が高齢者の安全運転をサポートしているともいえるでしょう。
■さまざまに広がってゆく自動運転技術
またこうした取り組み以外にも、各社では衝突被害軽減ブレーキが機能するシナリオを増やし実安全の追求を継続しています。
開発がスタートした1980年代、衝突被害軽減ブレーキのセンサーが検出できる対象は昼間の四輪車だけでした。そこから二輪車や自転車が増え、そして歩行者が加わりました。
さらに夜間でも働くようになり、車道を歩く歩行者をステアリング操作で避けながらブレーキをかけたり、横断歩道を渡る歩行者を検出してブレーキ制御を行なったりするまでに機能は拡充されました。
乗用車だけではありません。センサーの高精度化と解析技術の向上によって、たとえば三菱ふそうの大型トラック「スーパーグレート」では、「アクティブ・サイドガード・アシスト1.0」として、左折時の巻き込み事故抑制を目的としたブレーキ制御が可能です。
三菱ふそう「スーパーグレート」の「アクティブ・サイドガード・アシスト1.0」テスト
筆者はテストコースでアクティブ・サイドガード・アシスト1.0搭載車に試乗し、ダミーの歩行者や自転車を使って左折巻き込み事故シーンを体験しました。巻き込み可能性が高まると段階的に、警報ランプ→警報ブザー→そして最終的にブレーキ制御と大型トラックを運転するプロドライバーに向けた専用のHMI開発が光っていました。
このように衝突被害軽減ブレーキの作動範囲が拡がり、そして対応シナリオが増えた背景にも、やはり自動運転技術が深く関係しています。
なぜなら、自動運転技術では他車や歩行者を正しく認識することで高度な運転支援や条件付自動運転を行ないますが、そこで不可欠な行動予測(顔向きや、踝の位置などから推論)こそ、衝突被害軽減ブレーキの適応範囲を劇的に向上させたからです。
世界には先天的や後天的に身体的な障がいを負われ運転操作が難しい方もおられます。その一例が「高次脳機能障がい」を患われている方々です。
ホンダによると、高次脳機能障がいを負われた方は日本国内で推定50万人程度とのことですが、そのうち70%の方が運転再開に意欲をお持ちです。こうした要望に対しホンダでは「Honda運転復帰プログラム」を実施し、リハビリテーション後の運転復帰を支援しています。
ホンダは公道走行可能な「レベル3」技術を世界で初めて市販した。これによりさまざまな可能性が生まれ、知見が得られることになる
本来であれば、こうした運転復帰を希望される方向けに自動運転技術のアレンジができれば理想的なのですが……。
「福祉車両の領域にも自動運転技術を導入してほしいという声を頂いています。ただ、障がいをもたれている方々の状況は一人一人違っていることから、システムで完全にサポートするには技術的な課題が残ります。よって、今すぐの実用化は難しいとしても、将来に向け前向きに取り組みます」と前出の杉本氏は語ってくれました。
ホンダの障がい者復帰プログラムによる運転支援装置の訓練。移動の自由を手にするための試み
■自動運転技術の普及を切に願う人たち
2018年、筆者は鳥取県立鳥取盲学校に出向き、自動運転技術と先進安全技術にまつわる授業を行ないました。通われる生徒さんたちは視力に障がいをお持ちです。
事前に先生から、「生徒の多くはニュースで聴いた最先端の自動運転技術によって、自らの移動に自由がもたらされると期待をふくらませています」と伺っていました。
「現実を知ったら、がっかりするかもしれない……」と不安を抱きながら、私の声と用意したPowerPointに組み込んだ動画の音声を使い、正直に、ありのままをお伝えしました。
鳥取県立鳥取盲学校での授業
授業後、心許ない状況でいると、ある生徒さんから声をかけられます。
「すでに自動運転車両がたくさん走っているような報道がありましたが、現実は少し違うんですね。ちょっと残念でしたが、でも、例えば呼んだら来てくれる自動運転車両が将来開発されたらいいなと思いました!」と笑顔で感想を述べてくれました。
生徒さんたちは手に職をつけるため学んでいるわけですが、実際に働く現場までは第三者の方が運転するクルマで移動しなければならず、そこに少なからず心の負担を感じているとのこと。
よって生徒の皆さんは、ドライバーを必要としない自動運転車両の実用化を切に願っているのでした。
■増える高齢者の事故
2021年1月4日、警視庁は令和2年中(2020年1月~12月)の交通事故死者数が2,839人であると発表します。これは警察庁が1948年(昭和23年)に統計を開始して以降、最小の交通事故死者数です。2019年より376人減少し、初めて3,000人を下回りました。
一方で、高齢者の交通事故形態ではペダル踏み間違い事故の割合が高く、75歳以上の後期高齢者が運転する場合、駐車場内などでの運転中に起きやすい傾向があることがわかっています。
さらに、交通事故総合分析センターによると、「75歳以上の高齢運転者では他の年齢層の2~5倍、ペダル踏み間違い事故が多い」ことが報告されています。
要因は、高齢者の運転免許保有者が多いことです。平成29(2017)年交通安全白書によると「75歳以上の免許保有者数は約513万人(75歳以上の人口の約3人に1人)で、平成27年(2015)末に比べ約35万人(7.3%)増加しており、今後も増加することが見込まれる」とあります。
日本はこれからますます高齢化が進む。とはいえ自動車がライフラインとなっている地域も多い。そうしたなかで「高齢者はすみやかに免許を返納すべし」という話は(一理はあれども)乱暴でもある(AdobeStock@fusho1d)
とはいえ、運転操作に自信のある方や若年ドライバーであっても過信は禁物です。慌ててペダル踏み間違えて事故を起こす可能性は十分にあるわけですから、「すべての高齢ドライバーが危険」と判断するのは早計です。
幼い命が奪われる悲しい交通事故は後を絶ちません。しかし交通事故の第一当事者は高齢者だけとも限りません。よって高齢を理由に交通社会から遠ざけるのではなく、高齢者自らが運転操作を反芻し、正しい運転操作ができていないと自身で腹落ちできる社会の基盤や環境作りが重要です。
そして、自らの意思で運転操作を卒業する見極めに、自動運転技術を用いたMaaSに代表される代替移動手段が役立つとすれば、それは素晴らしい転生だと思います。
また、障がいをもたれる方にとっても、この先の自動運転技術が移動をサポートしてくれるようになれば、QOL(Quolity Of Life)と呼ばれる生活の質が向上し、健康寿命を長く保っていけるのではないでしょうか。
日本は世界トップの超高齢社会です。そこでは自動運転技術やその要素技術によって事故を抑制していく、そんな展開が期待されています。人は等しく年を重ねるわけですから。
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みんなのコメント
すすんで運転すべきじゃないでしょう。
外出を促すなら助手席などか公共機関の乗り物にすべき。
貰い事故等でも身動き取れないとか救助に参加できないとか、足手まといにしかならない。
例の上級国民のように自らも怪我を負ったからと
被害者ヅラして救助を待ち、事故後も車のせいにするとか横行しても困る。
私なら運転してもらうか公共の交通機関を利用するよ。
高齢者割引きくし一日中バス乗り換えて旅するのも
面白そう😆