3月24日、アメリカ・テキサス州オースティン郊外に位置するサーキット・オブ・ジ・アメリカズ(COTA)で行われたNASCARカップ・シリーズ2024年第6戦『エコーパーク・オートモティブ・グランプリ』にスポット参戦した小林可夢偉。2度の接触もあり29位完走という結果に終わったが、レース後に可夢偉が語ったところによれば、リザルト以上に大きな手応えが得られた一戦となったようだ。
■イエローが出ない不思議
小林可夢偉にNASCARの洗礼再び。背後から2度の接触受け、2回目の挑戦を30位で終える
2023年8月のインディアナポリス戦に続く2度目のNASCAR最高峰カテゴリー参戦は、前回同様の23XIレーシングから。モービル1の50周年特別カラーが施された50号車トヨタ・カムリXSEで出場した可夢偉は、予選ではニュータイヤの使い方に手を焼くも、39台中25番手を獲得した。
迎えた決勝では周囲と遜色のないペースでレースを運んでいたが、1度目のルーティンピット後にリッキー・ステンハウスJr.(JTGダハティ・レーシング/シボレー)に後方から当てられる形となりスピンして後退を余儀なくされる。さらに終盤には、ジョシュ・ベリー(スチュワート・ハース・レーシング/フォード)に左後方を突かれる形で再度スピンを喫し、後方に沈むことになった。30位でチェッカーを受けた可夢偉は、その後、1台の失格車両が出たことで29位へと繰り上がった。
「レースは大変な展開だったのですが、今回はスピードはあったので、そういう意味では『戦えるな』という自信につながったと思います」。可夢偉はレース後、明るい口調でそう語った。
「だから、やっぱり予選で前に行って、良いところからスタートしないといけません。レースのペースで言ったら、たぶんチームのなかでも一番速かったと思います。(チームからは)『レースペース自体は、トップ7くらいにいる』と言われたので。充分戦えるところにいられました」
「ただ、やっぱりまだまだクルマも試行錯誤しながらでしたし、まわりは毎週レースしている人たちなので、そんなに甘くはないということは理解した上でなのですが、1年ぶりくらいに乗ったクルマで、ここまで合わせられたのはすごく自信につながりました。まずはモリゾウさん(豊田章男トヨタ自動車会長)とトヨタの皆さん、そしてモービル1の50周年ということで応援していただいたモービルさんに感謝したいと思います」
昨年のインディアナポリス戦に続き、イエローコーションが出ないレース展開となった今戦。可夢偉は「僕が出ると、イエロー出ない仕組みになってるんですかね(笑)。みんなすごく安全にレースして、1回もイエローが出ないという。そういうところはちょっとNASCARらしくなかったかな」と笑う。ステージ1とステージ2のピリオド後にのみイエローが導入されたが、長時間のレースも体力的には問題なく、「まだまだ全然走れる感じだった」という。
■2度目の接触は「ちょっと論外」
今回はカップ・シリーズの今季初のロードコース戦となったが、可夢偉が困惑したのが、周囲のドライバーの『トラックリミット無視の度合い』。多くのコーナーでイン側の縁石のさらに内側を走り、立ち上がりでは大きくアウトにはらむ様が見受けられた。オンボードカメラを見ていても、とくにレース序盤は可夢偉がもっとも“おとなしく”走っている印象だった。
「トラックリミットの概念? (周囲のドライバーには)ないです(笑)。僕の方は、そもそものメンタルが『トラックリミット・メンタル』になっているので、それをブチ破るのがまず大変なんです」と、普段トラックリミット逸脱に対して非常に厳しいWEC世界耐久選手権を主戦場としている可夢偉は、意外な苦労を口にした。しかし、これについても後に“発見”をすることになる。
「レースが進むにつれて、僕が走っているところはラバーが載らず、『やっぱり他の人が走っているところを走らないとタイムが出ないな』と分かってきて。彼らは毎年ここでレースをしているから、そういうことが分かっているかどうかの違いは大きいですね。ただ、最終的にはそこを調整してペースを上げられて、タイヤもすごくマネジメントができていたので、そういう意味でもまだまだ戦えるなと、個人的には思っています」
ちなみに、背後からの2度の接触に関しては、いろいろと思うところもある様子。1回目の接触相手は、2023年の出場時にも同様の形で当てられたステンハウスJr.ということで、「彼はずっとこういうことをしてきているみたいで……そんなポジションにいた僕が悪いですね」と感情を飲み込む。2回目の接触については、相手が周回遅れだったことに憮然。「開けて譲ってくれたのかと思って抜いたら……よく分からないです。ちょっと論外かな」。
■ドライビングは「大きなステップが踏めた」
予選でのニュータイヤの使い方などまだ経験が不足している面は実感したものの、「クルマを動かすということについては、間違いなくかなり大きなステップが踏めた」と、可夢偉は2度目の参戦を自信とともに総括する。
この先に向けて可夢偉の胸の中にあるのは、“アメリカのメジャースポーツ”への開拓者精神だ。
好ペースを刻んだこともあり、チームからはレース後「また走ってくれないか」と声をかけられたという。具体的な予定が決まっているわけではないものの、「“お客さん”ではなくて、しっかりと結果を残すというところにもっとフォーカスして、今後もチャレンジできたらなと思います」と可夢偉は3度目の参戦にも前向きだ。
「今回は間違いなく速さがあり、トップ争いはできるという感じがしたし、2戦目でここまでうまく速さが引き出せるとは思っていませんでした。次のチャレンジの機会があれば、もっといい結果が出ると思うし、とにかく簡単な世界ではないので、まだまだ経験を積まないといけません。ただ、僕らが育ってきたところとはちょっと畑が違うけれども、(これまでの経験が)通じるのではないか、という可能性は見えました」
レースそれ自体だけでなく、NASCARというイベントへの参加経験もまた、可夢偉のなかで前回から引き続き刺激となっているようで「やっぱり、“アメリカン・スポーツ”だなと感じました」という。
「野球が日本では(世間一般の)話題になるように、モータースポーツもアメリカでは話題になる。NASCARはアメリカでは夢のスポーツですし、それを日本の皆さんにも知ってほしい。こういうところも、いいクルマづくりにつながっているのかなと思います」
今季のカップ・シリーズのカレンダーを眺めると、この先4戦予定されているロード/ストリートコースでのイベントは、すべてWECまたは全日本スーパーフォーミュラ選手権のレース/テスト日程とバッティングしてしまっている。2024年内のさらなる出走は簡単ではなさそうだが、今回得た“手応え”を活かして三度NASCARに参戦する可夢偉の姿が、近い将来に見られることに期待したい。
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