まさに背の高いゴルフR
text:Richard Lane(リチャード・レーン)
photo:Luc Lacey(リュク・レイシー)
室内の広さと同じく否定できないのが、フォルクスワーゲンの速さだ。メルセデスに対して99kg軽いだけでなく、2100rpmという低回転から42.9kg-mもの大トルクを発生することもその要因だ。
このドライブトレインを最大限まで活用するには、走行モードをスポーツかレースにする必要がある。その際にはスピーカーから合成したエンジン音が流れるが、同僚のジェームズ・ディスデイルにいわせれば「排気漏れしたスバル水平対向4気筒のサウンドを、大昔のコンピューターでサンプリングしたみたい」ということになる。
とはいえ、それがティグアンR独自のキャラクターを生み出しているわけではないのは明らかだ。フォルクスワーゲンは、ゴルフRのパーソナリティをそっくりそのまま引き写すことを意図した。
それは容赦ない加速だけでなく、おそらくクロスオーバーに予想する以上の俊敏さやダイレクトさ、標準装備のアダプティブダンパーがみせる薄気味悪いほどのボディコントロールまでもである。
ひたすらニュートラルな旋回性
それをさらに補佐するのが、新開発のRパフォーマンス・トルクベクタリングシステムだ。リアデフを電子制御クラッチで挟み込んだそれは、後輪駆動力の左右比率を調整する。リアへの駆動力配分は最大50%だが、そのすべてを片側のみに分配することも可能だ。
この、外側の後輪への駆動力配分を高める能力と協調するのが、フロントアクスルのXDSだ。これは、ハードなコーナリングの際にESPを利用して内側の前輪にブレーキをかける、擬似デフロックとでもいうべき電子制御デバイスである。
その結果はどうなるか。ゴルフRもそうなのだが、あふれるほどのセンスを感じさせるようなコーナリングをするわけではないのだが、どこまでもニュートラルで、どんな操作をしても、選んだラインを愚直になぞる。
ドライバーがすべきは、その切り立った鼻先を、ただ行きたい方向へ向けるだけ。あとはクルマが勝手にそちらを目指して突き進んでくれる。まるで、歯形だらけになったお気に入りのおもちゃへ突進するブルドッグのように。
クロスオーバーらしいGLBの挙動
峠道を飛ばすと、このティグアンは、GLBの及ばないようなペースをみせる。しかし、その接近戦は攻守交代する場合もまたある。
ロードホールディングの揺るぎないGLB 35だが、グリップは強烈なほどではなく、ロールは大きい。コーナリングは、暑さよりも冷ややかな精確さが前面に出たものだ。ティグアンほど、身のこなしに巧みなところはない。
しかし、少なくともこのクルマのアイデンティティを考えれば、それは間違いではない。よりソフトで角のない走りは、背の高いファミリーカーという役割にはむしろふさわしいものだ。
速さか、肌馴染みのよさか
渋々ながらもティグアンRを選びたいいっぽうで、GLB 35に親しみを感じずにもいられない。
AMGの可変レシオ式ステアリングであるダイレクトステアは、切りはじめこそダイレクトだが、フィードバックはほとんどない。そうであっても、低く感じるドライビングポジションには、ティグアンRより収まりがいいように感じさせるものがある。
どちらのクルマも、ダンパーをもっともリラックスしたモードにすれば、乗り心地は驚くほどなめらかになる。だが、AMGのほうが路面追従性は高い。
強打より巧打の勝利
306psのM260型は、ティグアンRのEA888型に出力でやや劣り、同じようなサウンド演出ギミックがついてくるが、それでもGLB 35は間違いなく速い。しかも、人為的なエンジンサウンドは、こちらのほうが耳馴染みはいい。
GLB 35はシンプルにより人好きのするクルマで、ガッチリした7シーターボディに包まれたキャビンは快適性も一枚上手だ。
そういうわけで、勝者はAMGとしたい。ティグアンRに乗っていると、これほど大きな車体が必要なのか、常に疑問を感じてしまう。そして、ゴルフRなら同じことをもっとうまくやってのけるだろうと考え続けてしまう。
もっとも、フォルクスワーゲンも初球を凡打して一発アウトになったわけではない。粘りながら惜しくも三振、といったところだ。
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