アストンマーティンのふたり乗りクーペ「ヴァンテージ」が、今、注目されている。はたして、多くのライバルのなかからヴァンテージを選ぶべき理由とは? 最新のクーペやロードスターを試乗した今尾直樹が考えた。
注目のV12モデル
美しさと実用さを兼ね備えた1台──新型メルセデス・ベンツCLS220dスポーツ試乗記
アストン・マーティンV12ヴァンテージの発表予告が、いま、同社のホームページに載っている。Vantage→V12Vantageとクリックしていくと、ユニオン・ジャックに包まれたボディの画像があらわれる。まだ隠してあるわけですね。
で、右下の「近日登場」というところをクリックすると、暗闇のなか、ヴァンテージの特徴的なLEDのテール・ライトが赤く輝き、ビリビリ震えながら、野獣の咆哮にも似たV12のサウンドが轟く。
う~む。シビレル。
画面の下のほうを見ていくと、「華々しくラストを飾る」と、意味深なことばが出てくる。もうちょっと下には、「最後の後継モデル」ともあって、歴代V12として、1999年発表のDB7ヴァンテージ、2009年発表のV12ヴァンテージ(先代V8ヴァンテージにV12を押し込んだモデル)、さらに2013年発表のV12ヴァンテージS(その高性能版)の画像を見ることができる。
近日登場の新型V12ヴァンテージは、2017年に発表された現行ヴァンテージの最後のピースを埋める派生モデルだ。ともとれるし、これでV12ヴァンテージの系譜はおしまいですよ、ともとれる。おそらく、どっちも正解なのだろう。アストン・マーティンのような小規模の自動車メーカーですら電動化に向けてボーッとしてはいられない時代に私たちはいる。CO2を排出しない液体燃料の量産化に成功しなければ、内燃機関の自動車は電動化に向かうのだから。
さてそこで、現行アストン・マーティン・ヴァンテージの魅力とは、V8なりV12なりの内燃機関をフロントに搭載して、荒ぶる魂をおさえることなく解放し、肉食獣よろしくガオオオオオオオッと叫び、ハンティング・ワールドの主役として、路上に君臨する気分を味わうことにある、と、申し上げてよいのではあるまいか。ガルルルルッ。
サラブレッド・スポーツカー
いや、そんなことをいったら、高性能スーパーカーはどれもそうではないですか? という疑問が出てきそうだけれど、なるほど、おっしゃる通り。つまりその、路上に君臨する気分のあり方に、アストン・マーティン・ヴァンテージ独特の、ヴァンテージだけの魅力というものがある。
アストン・マーティンはジェームズ・ボンドの愛車であり、イギリスの文化と密接につながっている。それはもうDBSもDB11もヴァンテージ、あるいはSUVのDBXだって、ハイパーカーのヴァルキリーだっておなじだろう。ドライバーは、相手がスペクターであれば話は別だけれど、ジェントルマンでなければならない。合法的に暴れまわることができるのは、サーキットに限られている。ルールに則り、紳士はみずからの能力を証明すべく戦うのである。
現代のアストン・マーティンはそうした欲望を抱く紳士・淑女のために、ヴァンテージでレースに参戦し、ポルシェやフェラーリ、シボレー・コルベットたちと戦いながら、そのポテンシャルを証明すると同時に、高めてもきている。DBSやDB11ではない。ここのところがたいへん重要なのである。
その最新の成果は、2022年1月末に開かれた「ロレックス24時間耐久レース at デイトナ」、いわゆるデイトナ24時間レースで、新設されたGTDクラスの2位に入ったことだ。
ライバルは、ポルシェ911、フェラーリ488GTB、レクサスRC F、メルセデスAMG GT、マクラーレン720S、コルヴェットC8.R、BMW M4、そしてランボルギーニ・ウラカンなどのGT3、もしくはそれに準じる、量産スーパー・スポーツをベースとするレーシング・カーである。
ここでライバルたちの名前を挙げてハタと気付くのは、新興のマクラーレンは別にすると、アストン・マーティンは年産、せいぜい6000台程度の、メルセデスAMGと若干の関係があるとはいえ、独立した、きわめて小さな自動車メーカーであることだ。よらば大樹の陰、というような時代にあって、このことは自分自身の身の上に当てはめて考えてみると、いかに偉大なことであるか。
しかも、アストン・マーティンの量産GTカーは、価格でいえば、上からDBS、DB11、そしてヴァンテージという序列になっていて、ようするにいちばん下だ。お兄さんのDB11以上が2+2のラグジュアリーGTであるのに対して、末っ子のヴァンテージはピュア2シーターのスポーツカーという性格が与えられている。レースをするために生まれてきたサラブレッド・スポーツカー。それがヴァンテージなのだ。
ちなみに、サーキットでの高い戦闘能力を得るべく、DB11とは基本的には同じV8を搭載しつつも、100mmほど短いホイールベースと200kg以上の軽量化を実現している。
戦う貴公子
まとめると、アストン・マーティン・ヴァンテージの魅力とは、荒ぶる魂であり、野獣であり、生粋のサラブレッド・スポーツカーである、ということなのである。先述したライバルたちと較べても、「戦う貴公子」というような表現がいちばん似合うのは、ヴァンテージといってよいのではあるまいか。
それと、ここが肝心なところだけれど、貴公子というのは安定した地位ではない。その証拠に、王室を残している国は、わが国を含めても数えるほどしかない。サラブレッドといえども、つねに勝てるとは限らないし、魂を荒ぶるままにし、野獣のままでい続けることはむずかしい。やっぱり疲れますからね。世のなか、勝ち続けるチャンピオンは存在しない。
アストン・マーティンもまたしかり。1913年創業の、およそ110年にもおよぶ栄光と伝統に彩られた名門高級車ブランドとはいえ、その歴史は7度ともいわれる経営破綻を乗り越えてのもので、いいときもあれば、悪いときもあった。波乱万丈、山あり谷あり。薄氷を踏み、奇跡のような綱渡りを繰り返しながら、アストン・マーティンは、21世紀のいま、ここにある。
V8エンジンがメルセデスAMGだから……ということをおっしゃるむきもいらっしゃるようである。アストン・マーティンが自前のエンジンを持ったことがあったのか? といえば、戦後、1947年から1972年までアストン・マーティンを率いたイギリス人実業家、デヴィッド・ブラウンの時代だって、W.O.ベントレーが設計したエンジンを手に入れるためにラゴンダを買収している。その直列6気筒を自分たち流、アストン・マーティン流に仕上げてみせる。そういう才能がイギリス人にはある。と筆者は思う。
ヴァンテージは、デヴィッド・ブラウン時代、フォード傘下時代に続く、戦後のアストン・マーティンの第3期黄金時代の果実として、後世に名を残す。このことは、現行ヴァンテージが生産終了になったときにわかっていただけるだろう。
あ。その前に、近日登場のV12ヴァンテージを楽しみに待つことにしよう。
文・今尾直樹 写真・安井宏充(Weekend.)
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みんなのコメント
今時こんな車にMT、しかも7速MTっていうのを設定しちゃうアストンマーティンに、敬意を表さずにはいられない。