ダイハツの新たなベーシック軽乗用車「ミラトコット」は、若い女性をメインターゲットに「誰でもやさしく乗れるエフォートレスなクルマ」として開発・発売された。だが、ベーシックな軽乗用車といえば、ダイハツにはすでに「ミライース」があり、これがミラトコットのベースにもなっている。果たしてミラトコットは本当にミライースより“エフォートレス”な、肩肘張らず自然体で運転できるクルマに仕上がっているのか? 続いて両車のメカニズムと実際の走りを比較してみる。
まずエンジンは、両車とも3気筒NAのKF-VE型のみ設定されるが、両車共通かと思いきや、ミライースに対し50kg増加した車重に対応するため、ミラトコットにはムーヴやキャストと同じシングルインジェクション仕様の「KF-VE4」型を採用。圧縮比は11.3で、最高出力は38kW(52ps)/6800rpm、最大トルクは60Nm(6.1kgm)/5200rpm、JC08モード燃費はFF車で29.8km/Lとなっている(4WD車は27.0km/L)。
ダイハツ・ミラトコットvsミライース 視界比較:傾斜角45度のAピラーとスクエアなフォルムでトコットの圧勝…とも言い切れない
対するミライースは、650~740kgという車重の軽さを活かした、デュアルインジェクター仕様の燃費スペシャル「KF-VE6」型。圧縮比は12.2と、ミラトコットに対し0.9も高いながら、最高出力は36kW(49ps)/6800rpm、最大トルクは57Nm(5.8kgm)/5200rpmと、3ps/3Nm低い。だがアトキンソンサイクルを採用しており、JC08モード燃費は34.2km/Lと、ダイハツ車の中でNo.1だ(廉価グレードのFF車は35.2km/L、4WD車は32.2km/L)。
なお、CVTは両車とも共通だが、ミラトコットではエンジン共々、より街乗りでの発進加速を重視したセッティングに変更されている。
ボディはいずれも、サイドアウターパネルを全面的に厚板ハイテン化し構造断点をなくした「Dモノコック」を採用。ミラトコットはさらに、スクエアなボディ形状や全高の30mmアップに対応するため、Aピラーの端部やサイドシルの前側、Bピラーの下側に補強材を追加。ミライースと同等の側面衝突性能を確保している。
ミライースと同様にミラトコットも、フロントフェンダー、ラジエーターサポート、バックドア、フューエルリッド、燃料タンク(FF車のみ)を樹脂化。このうちバックドアはアウターパネルがPP、インナーパネルがガラス繊維入りのPPで、その他はPP製となっている。NVH対策としては、ミラトコットではミライースよりダッシュパネルの板厚が上げられたという。
シャシーはミラトコットが女性でも扱いやすいよう軽い操作力とソフトな乗り心地、ミライースはしっかりとした操作感とフラットな乗り味を重視したセッティングとなっているが、そのなかでも大きく異なるのはダンパーとブッシュ、パワーステアリングだ。
ミライースの上級グレードには超飽和バルブと専用ベースバルブを組み合わせ、入力速度の遅い領域では素早く減衰力を発生させて低速域の振動や突き上げを抑え、入力速度の速い領域で減衰特性を飽和させて中・高速域でのフラット感を高めたフロントダンパーを採用している。
だがミラトコットは全車とも、入力速度が高いほど減衰力が高くなるリニア特性のバルブを用いた通常のダンパーを採用。ただしフロントストラットには、スタビライザーの代わりにリバウンドスプリングを追加し、ブッシュも上下方向に柔らかく左右方向に固い特性とすることで、旋回時のロールを低減している。
パワーステアリングは両車ともJTEKT製のコラムアシストEPSだが、モーター電流量をミライースの25Aから、ミラトコットは33Aに増量して、据え切り時のアシスト遅れを防止。なおかつ低速域のアシスト量を増やし、交差点を曲がる際や車庫入れ時の操舵力を半分以下に軽減しているが、高速域はミライースと同等のアシスト量として、不意の操作で車両がふらつかないよう配慮した。
では、両車の実際の走りは…?
実際に両車を乗り比べると、車庫から出るため舵を当てたその瞬間、ステアリングの重さがまるで違うことに気付く。ミラトコットは確かに軽いのだが、それ以上にミライースが、アシスト遅れが発生していなくともスポーティカーのように重い。「これでは女性が運転するのは確かに辛いだろうな」と、妙に納得させられてしまった。
なお、ミラトコットの操舵フィールは確かに軽く穏やかなのだが、ドライビングシミュレーターのように手応えがないということはなく、タイヤのグリップや抵抗の変化を確かに感じ取れるため、速度域を問わず安心して操舵できる。
サスペンションは、乗り心地重視と言えば盛大かつ急激なロールとのトレードオフを想像するが、ミラトコットの場合はロール量こそ大きいもののその速度は遅く穏やかなため、速めの旋回速度でも車両・乗員とも姿勢を崩し不安を覚えるということはない。
一方でミライースも、振動や突き上げが大きいということは決してなく、むしろフラットかつリニアで、レスポンスの良い走りが好感触。スポーツカーを日常の足とする筆者はミライースの方が好ましく感じたが、これはどちらが良い・悪いという問題ではなく、純粋にドライバーが好みで選んでも問題ないだろう。
なお、ミラトコットの方がより街乗りでの加速を重視してセッティングされたというエンジンおよびCVTは、あくまで50kgの車重差を補う程度の違いであり、ドライバーが体感する加速感はほぼ変わらなかった。
ただし、ミラトコットの開発陣誰もが認識していた弱点がある。それはタイヤノイズ、特にパターンノイズの大きさだ。
タイヤ銘柄・サイズが同じ(155/65R14 75Sのダンロップ・エナセーブEC300+)で、NVH対策はダッシュパネルの板厚アップ以外に違いはないというが、それが俄には信じられないほど、ミライースより多くのパターンノイズを、路面のコンディションを問わず室内に伝えてくる。
特にミラトコットの場合、パワートレインからのノイズは非常に少ないため、タイヤノイズの大きさが余計に耳に付くのが口惜しい。
スクエアなボディ形状による居住性の良さと車両感覚の掴みやすさ、軽くソフトなシャシーセッティングがもたらす“エフォートレス”な走りは、確かにミラトコットから感じられる。そのおかげで、運転が苦手な女性だけではなく、運転が得意な男性も、気を遣わず運転できる。こうした資質は、ミラトコットに限らずあらゆるクルマ、特に実用車は本来備えているべきものだ。
ただし、タイヤノイズがもたらす疲労感は、短時間の運転でも決して小さくない。このタイヤノイズが気にならないようであればミラトコットを、前方視界・居住空間の狭さとステアリングの重さが気にならなければミライースを選ぶのが、“エフォートレス”な運転とカーライフの第一歩である。
【Specifications】
<ダイハツ・ミラトコットG“SA3”(FF・CVT)>
全長×全幅×全高:3395×1475×1530mm ホイールベース:2455mm 車両重量:720kg エンジン形式:直列3気筒DOHC 排気量:658cc ボア×ストローク:63.0×70.4mm 圧縮比:11.3 最高出力:38kW(52ps)/6800rpm 最大トルク:60Nm(6.1kgm)/5200rpm JC08モード燃費:29.8km/L 車両価格:129万6000円
<ダイハツ・ミライースG“SA3”(FF・CVT)>
全長×全幅×全高:3395×1475×1500mm ホイールベース:2455mm 車両重量:670kg エンジン形式:直列3気筒DOHC 排気量:658cc ボア×ストローク:63.0×70.4mm 圧縮比:12.2 最高出力:36kW(49ps)/6800rpm 最大トルク:57Nm(5.8kgm)/5200rpm JC08モード燃費:34.2km/L 車両価格:120万9600円
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