偉大なデザインの力
見慣れたからと言って偉大なデザインの価値が損なわれるわけではないが、広く知られるようになることで変化がもたらされることは間違いない。
【画像】初代アウディTT/現行型アウディTT RS 全55枚
大ヒットしたからこそ、もはや初代アウディTTが街行くひとびとを振り返らせるようなことはなくなったが、それでもデビュー当時、注目度においてこのクルマはほとんどのスーパーカーを凌いでいた。
1999年当時、英国への正式上陸が始まる数カ月前にロンドン中心部を初期型TTクーペでドライブした時には、まるで宇宙船に乗っているか、お金をバラまきながら走っているかのような騒ぎであり、激しく渋滞するなか、反対車線を走っていたロンドンバスのドライバーは、このクルマの正体を知ろうと自らの職務を放棄したうえ、わざわざ車線を横断して近づいてきたほどだった。
キャッシュで払うからクルマを譲ってほしいとも言われたが、もしあの時このオファーを受け入れていたらアウディ広報とはタダでは済まなかっただろう。
4代目ゴルフとプラットフォームを共有していたにしては、決して悪くはないスタートだった。
だが、そんなTTもいまやその生涯を終えようとしているのであり、デビュー後6年目を迎えた3代目TTに直接的な後継モデルを登場させる予定はないとアウディでは話している。
流行に敏感なひとびとの人気はクロスオーバーモデルへと移っており、TTがその役目を終えたことは間違いない。
だが、だからこそTTと、いまや過去のものとなりつつある「毎日乗ることの出来るスタイリッシュなクーペ」というジャンルを振り返るのに相応しいタイミングだと思ったのだ。
純粋なスポーツカーには非ず
既存のパーツで創り上げたモデルだなどと言えば、まるでTTを侮辱しているように聞こえるかも知れないが、決してそんなつもりはない。
逆にそれがTTの強みであり、このクルマは決して妥協なく走りを磨き上げた純粋なスポーツカーではなかったのだ。
事実、つねにTTはそうしたスポーツカーとの比較テストでは彼らに一歩及ばず、アウディは悔しい思いをし続けて来たに違いない。
だが、ポルシェ・ボクスターとケイマンを除けば、TTはもっとスポーティーなライバルを販売台数で凌ぐだけでなく、その多くのモデルよりも長寿を誇ってもいる。
こうした人気の秘密は、使い勝手に優れたテールゲートと4つのシートと言う、ハッチバックのプラットフォームがもたらす実用性の高さにもあった。
TTであれば自転車を積み込むことが出来るとともに、小柄なパッセンジャーならドライバー以外にふたり以上の人間を運ぶことも可能だった。
TTの成功には多くのひとびとが貢献しているが、このクルマには数多くのデザイナーも関与している。
なかでも大きな影響を及ぼしたのが、1995年にオリジナルスケッチを描いたフリーマン・トーマスと、それを量産モデルへと反映させることに成功したペーター・シュライヤーのふたりだ。
そして、革新的なキャビンデザインを担当したロムルス・ロストも忘れる訳にはいかないだろう。
いまも新鮮
登場から20年以上が経過し、いまや初代TTはもっとも影響を与えた自動車デザインのひとつとして多くの場で取り上げられている。
シュライヤーは2006年にキアのデザイン責任者に就任したというのに、いまも初代TTを所有し続けるだけでなく、定期的にそのステアリングを握っているという。
1998年に欧州販売が始まったTTだったが、ドイツ国内で複数発生した高速走行中の事故により空力安定性の不足が懸念されたことで、リアスポイラーとスタビリティーコントロール(ESC)が標準装備として追加されるまでの間、生産が中断されるという事態に見舞われている。
このESCは初期モデルにも後付けされることとなったが、スポイラーはそうではなく、今回登場したスポイラーレスの車両は、非常に希少な右ハンドル仕様のそうした1台だ。
だからこそ、アウディUKはこの車両を自らのヘリテージコレクションに加えるために最近買い戻したのだが、今回彼らはボディ修復に着手する前の車両を貸し出すことに同意してくれている。
ボディには21年間と20万6000kmという走行距離を物語るかのようなキズや錆が残されたままだが、それでも登場から20年以上の月日を経ても、このクルマの基本的なデザインは驚くほど新鮮な印象を与えてくれる。
別格の存在
改めて見てみるとTTのボディフォルムには依然として思わずハッとさせられ、その面と線に余分なものなど一切ない。
初代の横では、3代目となる最新のTTには力強さとともにより現代的な印象を感じるが、それでも依然として決して過剰なデザインとはなっていない。
初代TTのインテリアはいまも印象的だが、22年前の量産モデルとしてはまさに別格の存在だっただろう。
エアベントの周囲に配された金属製ロータリー式コントローラーの素晴らしい感触に変わりはなく(アウディでは新型A3まで繰り返しこのデザインを採用している)、マットなメタルとダークトリムの組み合わせはまるで2020年に創り出されたモデルのようだ。
記憶している以上にコンパクトなモデルだと感じる。フロントシートはピッタリと寄り添うようにレイアウトされており、リアシートはなんとかプラス2と呼べる程度でしかない。
一方、ターボらしい1.8Lエンジンのパワーデリバリーは記憶のとおりだ。
当初181psと225psのふたつのエンジンラインナップで登場した初代TTだが、のちに150psモデルも追加されている。
アウディUKがヘリテージコレクションに加えることにしたのは225psのモデルだが、このエンジンは洗練性よりも活気を感じさせる。
時がもたらす変化
フロント優位のシャシーセッティングも記憶のとおりだが、決して悪くはない。
初期のTTではすべてのモデルでハルデックス式パートタイム四輪駆動システムが採用されており、リアへと駆動力が分配されるのはフロントがグリップを失った時だけだった。
お陰でアンダーステアに至るギリギリまで思い切ってアクセルを踏み込むことが出来る一方、アクセルオフで容易に膨らんだラインを修正することも可能だ。
このクルマであればそのポテンシャルのほとんどを容易に使い切ることが出来るだろう。
そして、時間の経過はさらなる変化ももたらしている。
1999年当時、TTのステアリングフィールは決して特筆するほどのレベルではなかったが、電動式パワーステアリング主流のいま、このクルマの太いステアリングリムから伝わって来るフィールは見事な部類に入ると言って良いだろう。
さらに、シフトフィールも記憶以上の正確さと滑らかさを感じさせる。この初代TTは必要が無くとも思わずシフト操作を繰り返したくなるモデルの1台だと言えるだろう。
そして、パフォーマンスに関しても初代TTは現行モデルに引けをとらない。
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