大きなおもちゃのようなバギーは玩具・模型の世界でも大人気
クルマのボディ形態の分類は、馬車に範をとった名称が多い。セダンやワゴン、クーペ、カブリオレなど、いずれも馬車由来だ。そしてバギーといえば、もともとは一頭立ての小さな馬車をそう呼んだのだが、いまや乳母車やゴルフ場のホール間の移動に使う小さな乗り物もまとめて「バギー」である。そして今回のお題は、1970年前後に北米を中心に爆発的に流行した「デューン・バギー」のお話だ。
懐かしの「デューン・バギー」がEVで完全復活! 「ニュービートル」「アウディTT」のデザイナーがスタイルを一新
VWビートルのシャシーにFRPボディを架装した軽量バギー
1960年代初頭にカリフォルニアでボートの製造に携わっていたブルース・F・メイヤーズ。彼がそのFRP造形の技術を活かして作ったのが「メイヤーズ・マンクス」だ。この種の乗り物を総称して「デューン・バギー」、あるいは「サンド・バギー」などと呼ばれることからも分かる通り、このメイヤーズ・マンクスも、もともとは砂丘や砂漠などで行われるレースのために作られたものである。
トラクションに優れるRRのフォルクスワーゲン・ビートルのシャシーをベースにショートホイールベース化、そこにオリジナルのFRP製軽量ボディを架装し、オフロード用の低圧タイヤを履かせたというのが、メイヤーズ・マンクスの成り立ちだ。今回の主役として登場願った2台のメイヤーズ・マンクスのミニカーは、フランスはソリドの1/18モデル。
砂漠レース向けに生まれレジャービークルとして若者にヒット
メイヤーズ・マンクスの最初のプロトタイプが完成したのは1964年のこと。メイヤーの会社「BF Meyers & Co.」は1965年からマンクス・バギーのキットの販売を開始した。やがてマンクス・バギーは1967年にはNORRAメキシカン1000ラリー(バハ1000の前身)で優勝するなど、その狙い通りに各地のオフロード・レースで好成績を収め、その認知度を高めていった。
また、オフロード・レースの世界にとどまらず、既存の自動車メーカーからは決して生まれないユニークな「レジャービークル」としても若者を中心に大きな支持を得て、1971年までの間に約6000台が生産された。大衆実用車のコンポーネンツを巧みに活用してスポーティな趣味の乗り物を生み出すという手法は、あのロータスやアルピーヌにも通じるものがある。
バギー・ムーブメントは日本にまで飛び火
メイヤーズ・マンクスの名声と人気は、数多くのフォロワーを産んだ。その多くはマンクス同様、パーツの供給やチューニングが容易なVWビートルがベースで、そのユーモラスなデザインも類似していた。メイヤーズ・マンクスが火をつけたバギー・ムーブメントは、アメリカはもちろん日本にも飛び火。ダイハツの「フェローバギィ」や「バモスホンダ」、雑誌の企画で制作された「パンチバギー」などもそのブームの中で生まれたものだ。
またバギーではないが、ロータス・セブンの「突然変異種」として認識される「ロータス・セブン・シリーズ4」もまた、当時の流行があったからこそ生まれた「バギー的な乗り物」といえるだろう。デューン・バギーやサンド・バギーなどと呼ばれたこれら一連のレジャーカーたちは、一説によれば世界中で25万台が作られたという。
「原寸大のおもちゃ」とも言えるバギーは当時の玩具・模型業界でも大流行し、リアルなプラモデルからチープな玩具まで、さまざまなモデルが生み出された。また、現在でも時折ミニカーの新作(ソリドの1/18もそれ)がリリースされたり、当時のプラモデルが再販されたりしている。
半世紀以上も活躍した「デューン・バギーの父」
1960年代後半、熱病のように流行ったバギー・ムーブメント。それは当時、長引くベトナム戦争に対する厭戦気分や、既存の権力に抗う若者たちの心情ともシンクロした、クルマの世界での「フラワームーブメント」だったのかもしれない。
そんなメイヤーズ・マンクスを生み出したBF Meyers & Co.は1971年、ブームの沈静化とともにいったんは業務を終了するが、ブルース・メイヤーズは2000年にふたたび自らの会社を設立。かつてを知るファンと、そうでない人々に向けて、バギーの製造を始めた。
世界中にデューン・バギーを広めたブルース・メイヤーズはさる2021年2月、ゆかりの地・カリフォルニアで逝去。享年94歳。彼のDNAを受け継いだ「Meyers Manx, LLC」は今なお盛業である。
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