当然のことだが、クルマには定員分のシートが着いている。
シートは普段特に気にすることなく使っているものだが、クルマに乗ったら常に体と接しているだけに疲労への影響や衝突時の安全性などを高次元かつ低コストでバランスさせなければならず、非常に高い技術力が要求されるパーツでもある。
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当記事ではたまに気になるシートにまつわる最新事情を考察してみた。
文:永田恵一/写真:TOYOTA、NISSAN、HONDA、ベストカー編集部
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なぜ前席ベンチシートは絶滅危惧種になっている?
シートはクルマにあって当たり前の装備だが、走りの快適性、居住性などに影響する重要なファクターで、時代に合わせて大きく変化している
かつてはハイエースやキャラバンといった乗用1BOXカー、タクシーもたくさん走っていたクラウンやセドリック&グロリアなどで前席に3人座れるベンチシートはよく見かけた。
多くがコラムシフトとセットになっていたベンチシートは乗車定員が増やせるだけでなく、中央席に荷物が置ける点など実に実用的だった。
しかし今や前席ベンチシートは絶滅危惧種で、現在新車で買えるのはハイエースやキャラバン、2トン積みくらいのトラックといった商用車くらいだ。
日本車の前席3人掛けのベンチシートは一部のモデルに採用され一定数の愛好者が存在した。採用した経緯はアメ車の影響が大きいと思われる
前席ベンチシートが絶滅危惧種となってしまった理由は衝突安全性に対する法規の強化が大きい。具体的には中央席にも3点式シートベルトやヘッドレストが必要になり、法規対応のためのコストと販売台数などを考えると、乗用車の前席ベンチシートが絶滅してしまったのもうなずける。
だからこそ乗用車に比べれば法規が緩い商用車ではまだ設定されているのだろう。
現在商用バンでも独立タイプのシートを採用するケースが増えていて、3人掛けのベンチシートは減ってきている(写真は日産キャラバン)
ただ、ベンチシートタイプのクルマは軽自動車、コンパクトカーでは採用するクルマはあるが、座れるのは2人のみだ。
2人掛けのベンチシートは室内が広く見える、ゆったり座れる、横移動が楽というメリットはあるが、しっかりとホールドできないのでお尻が安定せず、カーブの続く道やロングドライブで疲れやすくなるというデメリットもある。
なお前席ベンチシートではないが、近年で乗用車の前席3人掛けというと2004年登場のホンダエディックスという例があった。
軽自動車、コンパクトカーで左右の座面がつながった形状のベンチシートタイプを採用するクルマはあるが、前席に座れるのは2人のみ
エディックスは衝突安全対応のため3人分の前席は独立させ、中央席のヘッドレストや3点式シートベルトはもちろん、中央席のスライドもするという念の入れようだった。
しかし3人×2列で合計6人乗れるのはいいのだが、そのぶん全幅が広がってしまうというデメリットやホンダ社内でモビリオやフリード、トヨタシエンタといったコンパクトミニバンが台頭したこともあり、エディックスを選ぶ理由というのも薄くなり、残念ながら2009年に絶版となってしまった。
エディックスの失敗なども考えると、残念ながら今後前席ベンチシートや前席3人掛けのクルマが復活する可能性は非常に低いと言わざるを得ない。
独立タイプの3×3というチャレンジングなシート配列で登場したホンダエディックスは安全面も考慮されていた。話題になって注目を集めたが販売面で苦戦
シートアレンジはなぜ減少傾向にある?
2000年代初めまでミニバンのシートアレンジというと先代ハイエースワゴンなどの2列目と3列目が対座でき、テーブルがあれば停止時の車内をラウンジのように使える機能や景色がよく見える横方向への回転機能も珍しくなかった。
ミニバン創世期には各メーカーともシートアレンジを大々的にアピールしその数を競った。2列目をテーブルにし、フロントシートを回転させてリビングルームのような使い方もできたが、現在はそのニーズがなく消滅している
また2代目ステップワゴンのような1列目から3列目までフラットにして停車時に快適に眠れるフルフラット機能などもあり、ややもするとシートアレンジの豊富さを争っている雰囲気すらあった。
しかし現在のミニバンのシートアレンジで珍しいものというと2列目を大きくスライドでき、広大な足元空間が現れるスーパースライド機能が目立つくらいで、シートレンジのバリエーションは大幅に減少している。
現代のミニバンのシートに求められているのはシートアレンジの豊富さではなく、ロングスライドをはじめとする快適性にシフトしている
その理由としては「こういったはじめ目を引く機能というのはクルマに限らず家電などでも初めは珍しがって使うけど、時間が経つにつれ冷静になってくるとユーザーは必要性が低いことに気づき、需要が激減したため」というのが大きいように思う。
また現在のミニバンの売れ筋傾向を見ると2列目が独立しているので快適性が高く、左右シートの間を3列目にアクセスするための通路にも使える点も便利なキャプテンシートが人気となっている。
そのためシートアレンジ自体が盛り込みにくい、シートは可動部が多いほど「快適に座る、移動する」という本来の使命が果たしにくく、メーカーもユーザーも本来の使命の方を優先するようになったという理由もあるだろう。
ミニバンを購入した人は誰もがいろいろなシートアレンジにトライしたが、結局は面倒でほとんどやらなくなる人が多かった
電動収納シートはなぜ普及しない?
かつてミニバンの3列目シートを収納する作業というのは左右側面に跳ね上げるものが多かったこともあり、結構な力がいる作業だった。
それだけに2003年の3代目オデッセイや2006年登場の3代目エスティマにボタン1つで床下に3列目シートを収納できる機能を採用した時には画期的に感じたものだった。
2003年にデビューした3代目オデッセイには3列目シートを電動で床下に収納できる便利機能が用意されていた。手動に比べて楽だったので大好評
しかしそれから15年ほどたっても3列目シートの床下電動収納機能はそれほど普及していない。その理由を考えると以下のものが考えられる。
(1)3列目シートの床下電動収納機能が採用される対象となるミニバンはそれほど全高が高くないものがほとんどとなるのだが、そのジャンル自体が全高の高いミニバン人気により現行車ではホンダオデッセイくらいしかなくなってしまった。
(2)全高の高いミニバンでもホンダステップワゴンの3列目シートは床下収納式だが、価格帯が低いクルマだと(ステップワゴンはハイブリッドだと300万円を大きく超える、決してお安いクルマではないが)電動収納シートはコストがかかるものだけに採用しにくい。
2006年にデビューした3代目エスティマにも電動収納3列目シートが用意されていた。アルファードとは違い床下収納タイプだから実現できた
なお跳ね上げ式となるミニバンの3列目の収納はトヨタのミニバンなどではバネ仕掛けなどを使う機械的なサポートにより以前に比べればかなり楽になっている。
またステーションワゴンの後席収納もレバーを引くだけで後席バックレストが倒れるという機能が当たり前となっており、シートの進歩は快適性、使い勝手ともに日々進歩している。
ミニバンの3列目シートは左右跳ね上げタイプが主流。ヘルパースプリングの採用などによりかなり楽になっている。この操作性は今後さらに進化するはず
フルバケットシートって普段使いに支障はないの?
スポーツ系のクルマに乗っている人でノーマルシートに不満がある場合、シートの交換を考えたこともあるだろう。
バケットシートは昔からクルマ好きが一度は憧れるクルマ用品で、程度の差はあれ今も昔も変わらない。
モータースポーツで使われていることからもサイドサポート性のよさが証明されているフルバケットシート。意外なほど実用面で不便は少ない
その際の選択肢はリクライニングするバケットシートと角度が固定されるフルバケットシート(以下フルバケ)に大きく分かれ、特にフルバケは主にモータースポーツやサーキットに代表されるスポーツ走行用のものだけに、敷居が高いというか着けるのは勇気が要るというのもよくわかる。
さらにフルバケはバックレストに代表される調整機能がないのもあり「疲れそう」という心配もあるだろう。
サイドサポートに優れたバケットシートだが、最強モデルはリクライニング機能が付いているタイプ。ただ価格が高めになってしまうのがタマにキズ
確かに乗り降りなどノーマルシートより疲れるところもあるが、その反面定評ある商品であれば正しい姿勢がキープされることやノーマルシートだとシックリしないポジションが改善されることがあるというのも事実だ。
総合すると「思ったより楽」と感じることも多々ある。さらにスポーティな雰囲気も得難いメリットだ。
といったことを考えるとフルバケは万人向けのものではないが、特にもともと仮眠ができないくらい室内の前後方向が狭い2シーターのクルマであれば、可動部が少ないためリクライニングするバケットシートよりも価格が安いのもあり、装着を考える価値はある。
2シータースポーツカーならフルバケットシートに交換してみるのも一興。スポーツドライビングが一層楽しくなること請け合いだ
なおシートは冒頭に書いたように重要なパーツだけに車検でのチェックも厳しい。そのため交換する際にはキチンとしたシート自体とシートの土台となり前後調整も持つシートレールを選んで、交換作業も信頼できるところに任せたほうが無難だ。
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