「旅と荷物」
岡崎宏司の「クルマ備忘録」連載 第181回
価格は31億円!? 「ロールス・ロイス」が製造した究極のフルオーダーモデルとは?
僕の初単独旅行は、小学5年生(1950年)の時だった。行く先は九州の玄関口である門司市。叔父の家で夏休みを過ごすためだ。
この旅は中学2年まで続いた。旅が大好きな僕の原点ともいえるだろう。
東京駅から門司駅までの列車の旅は、特急でも24~5時間くらいかかったはず。3等車の座席は直角で、クッションもほとんどなかった、、、おぼろげながら覚えている。
走行中、扉のない乗降口の手すりに捕まって身を乗り出す、、そんなことをして遊んでいても怒られた記憶はない。速度が遅かったからできたのだろうが、大らかな時代だった。
蒸気機関車の吐き出す煙で、全身すすだらけ。顔も真っ黒になった。いい思い出だ。
そんな「子供ひとり旅」の荷物は?、、まるで記憶にないが、たぶん、着替えをヅダ袋のようなものに入れていただけだろう。
生まれて初めて飛行機に乗ったのは、中学1年(1953年)の時。毎日中学生新聞の「全国中学生綴り方コンクール」で優勝。「飛行機で北海道旅行!」という「すごいご褒美!」をもらったときだ。
札幌と洞爺湖に一泊づつの旅。現地での行事的なものもなかった。なので、荷物は少なかったはず。たぶん、親のボストンバッグでも借りていったのだろう。
次の大きな旅行は1961年。21才で学生結婚しての「新婚旅行」だ。京都へ行った。
このときは、旅行用トランクとボストンバッグだったはず。親からの借り物だが、ともに茶色系の革製だったように思う。
そして、1964年に初の海外旅行。世界一周のチケットだけをもって、西回りの旅に出た。
予定なし、予約なしの旅だったが、むろん貧乏旅行。荷物は下着中心の着替えと洗面道具でほとんど。それを大型ヅダ袋(アメ横で買った米軍放出品)に詰め込んだ。
パスポート、エアチケット、お金、、、といった大切なものを入れる小さなショルダーバッグは持っていたはずだが、覚えていない。
「洗濯はすべて自分でした」貧乏旅行。でも、、そんな旅をしながらRRを訪問。試乗までさせてもらったのだから、面の皮もそうとう厚かったのだろう。
その後は大好きなLAによく行った。僕ひとりで。なぜなら、1966年に息子が生まれて、家内はしばらく身動きが取れなかったからだ。
LAでのベースタウンはサンタモニカ。ここを起点にカリフォルニアのあちこちを旅した。
当然貧乏旅で荷物は少ない。で、またまたヅダ袋の登場になるが、2代目ヅダ袋にはショルダーストラップが加わった。
家族での初めての海外旅行は1971年、、息子が4歳か5歳のとき。アムステルダム、ジュネーブ、ローマ、ベニスを巡る旅だった。このとき初めてスーツケースを買った。たしかサムソナイトを、、。
旅の後半、ローマとベニスは親と一緒。なので、ホテルは今で言う5つ星。レストランもそれなりのところに連れていかれた。
当時のヨーロッパの上級ホテルやレストランでは、基本的に服装のTPOは守らなければならない、、けっこう堅苦しかった。
といったことで、息子も含めてそれなりの服や靴を用意した。なので、スーツケース1個では足りない。だから、標準的サイズのサムソナイトを2個持っていった。
キャリーケースのような、持ち運びしやすいトランクはまだなかったので、空港やホテルでは、チップを払ってポーターに頼んだ。
その後の家族旅行は、気楽なハワイとカリフォルニアに集中したが、1985年、LAーサンディエゴーLAをキャディラックで走った旅は思い出深い。
この頃には僕の収入もそこそこ多くなっていた。だから、泊まりたいホテルに泊まり、行きたいレストランにも行くようになった。
このときも、LAではビバリーヒルズ・ホテル、サンディエゴではデル・コロナードに泊まった。とはいえ、南カリフォルニアなので堅苦しい服装を求められることもない。当然、荷物も少なくなる。
この頃のスーツケースはリモワのトパーズ。ハワイもカリフォルニアも、、家族旅行はこれ1個で足りた。
翌1986年には、再び家族で欧州へ。ミュンヘンでアウディ200クアトロをピックアップして南へ向かった。
あちこち寄りながらベニスでターン。帰路は違うルートを辿った。10日間ほどの旅だったかと思う。
季節は3月中旬。まだ少し寒かったが、僕と家内はトレンチコート、息子はブルゾンで温度調整。スーツケースは大型のTUMI1個。僕と息子が大きめの、家内は小さめのボストンバッグを持った。
いいホテルには泊まったが、あまり格式にこだわらない、、ディナーでもジャケットを着けるだけで済むようなホテルを選んだ。
ベニスではホテル・ダニエリ、サンモリッツではパレス・ホテルに泊まった。共に格式あるホテルだが、観光地なのでルールは緩い。
息子が社会人になってからは家内と二人の旅に。年1~2回のペースで今に至る(コロナ禍で一昨年の暮れからは出ていない)が、荷物はどんどん少なくなっていった。
90年代半ばを過ぎた頃からは大型スーツケースをやめた。機内持ち込みできるキャリーケースに換えた。それも僕が持つ1個だけ。
機内持ち込みのキャリーケース第1号は、タケオ キクチ。次いでゼロハリバートンに。後者のデザインは今でも気に入っている。だが、最近は5kg近い重量を重いと感じるようになり、ほとんど使わなくなった。
現在のお気に入りはイタリア製のロンカート。デザインもいいし、100%ポリカーボネイト樹脂製で2.0kgと超軽量。「世界最軽量クラス」と謳っているがうなずける。
重いケースを座席上の収納棚に出し入れするのは、歳を重ねるにつれてきつくなる。ゼロハリとロンカート、、3kgの差は歴然だ。
最近の旅には必ずデイパックがお供する。TUMI、フルラ、ゼロハリ、カルバンクライン、マンハッタンパッセージ、、等々が、バッグ置き場に積み重なっている。
ボストンバッグもあれこれあるが、ダントツのお気に入りはルイヴィトン・エピ(キーポル55)。発売と同時(1980年代半ば頃?)に手に入れたが、以来ずっと使い続けている。
欧州の格式あるホテルに泊まるときなど、軽装であっても、エピを持つことでカジュアル感が適度に抑えられるのもありがたい。
最近の目的地はハワイとウィーンがほとんど。ハワイは白の布製デイパックと軽いボストンバッグを僕が持ち、家内は化粧品等の入ったミニボストンバッグだけ。
欧州に行くときは、僕がロンカートのキャリーケースとルイビトン・エピを持つ。家内は小型のボストンバッグだけだ。
ただし、ミラノの歌劇場とかウィーンの楽友協会ホール、、といった場所でのオペラやコンサートを予約している時は、それなりの用意をしていく。
ここで、ガーメントケースが登場する。最初はサムソナイトだったが、次はブラックレザーのTUMIにアップグレード。
本革のTUMIはカッコよかった。でも、重さと、広げて腕に抱えるときのゴワゴワ感が気に入らず、数回の使用でお蔵入り。ちなみに、僕はガーメントケースを折りたたんで持つのが好きではない。
で、次に何にしたかというと、僕がスーツをオーダーしているテーラーのガーメントケース。仕上がったスーツを入れるシンプルなものだが、チャックはついている。
これはむろん軽いし、広げて腕に抱える感触も優しい。飛行機に乗ったら、広げたままで乗務員に手渡せば、そのままハンガーに掛けてくれる。家内の服にも、僕のスーツにもシワひとつつかない。
とにかく、「旅の荷物は最小限に。必要なものがあれば現地で買えばいい」というのが、90年代半ば頃に確立したわが家のルール。
そんなことなのでパッケージにしても簡単。出発前夜の10~15分くらいで済んでしまう。
実は、この4月、ハワイに行くことになっていた。飛行機もホテルも昨年8月に予約。4月ならコロナは収まると確信していたが、予想は外れた。
次の目標は、今年のクリスマスシーズンにウィーンに行くことだが、どうなるか。悲観的な予想をしているが、外れてほしいものだ。
● 岡崎宏司 / 自動車ジャーナリスト
1940年生まれ。本名は「ひろし」だが、ペンネームは「こうじ」と読む。青山学院大学を経て、日本大学芸術学部放送学科卒業。放送作家を志すも好きな自動車から離れられず自動車ジャーナリストに。メーカーの車両開発やデザイン等のアドバイザー、省庁の各種委員を歴任。自動車ジャーナリストの岡崎五朗氏は長男。
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