この記事をまとめると
■レーシングドライバーの山本尚貴選手は栃木県の作新学院高等学校出身だ
とうとう「NSX-GT」が涙のラストラン! スーパーGTを駆け抜けたNSXについて「ドライバーと開発者」に直撃した
■「小学部」と「情報科学部自動車整備士養成科」の児童・生徒の前で講演を実施
■レーサーとして必要なことや児童・生徒からの質問に答えて交流した
人生を支えた母校に凱旋
読者の皆さんのなかには、自身の母校に著名となった卒業生が来校したことはないだろうか? どんな人が来るかはその学校やタイミング次第ではあるが、その多くは恩師や関係者が招き、子どもたちのために「将来の夢」や「学生の間にやっておくべきこと」「挫折からの立ち直り方」……などを生徒たちの前で語ることが通例だ。
そんな「著名人の母校への凱旋」に関する案内が、WEB CARTOP編集部にやってきた。この手の話題で真っ先に思い浮かぶのが、「レーシングドライバーが母校にやってくる!」みたいなケース。話を聞くと、レース界で”部長”という愛称でお馴染みの、現役トップレーサーである山本尚貴選手が、母校である栃木県の作新学院を訪れるという内容。
山本尚貴選手といえば、2010年よりフォーミュラ・ニッポン(現スーパーフォーミュラ)、スーパーGTではチーム国光の100号車のステアリングを握り続け、数々の輝かしい結果を残しているベテランドライバーのひとり。ファンも非常に多い人気選手だ。スーパーGTではずっとホンダ車で戦っていることもあり、ホンダファンからもお馴染みのレーサー。
ちなみに筆者は埼玉県出身であるが、高校時代は栃木県のとある私立高校に通っていた。なので、案内にあった作新学院は当時(いまでも)、スポーツの分野では常にライバル校。個人的なことだが、なんだか懐かしい気もちにもなった。
というわけで今回は、7月11日に行われた3回目の開催となる山本尚貴選手の母校訪問について紹介しよう。
まず、訪れたのは作新学院の小学部の全児童300人ほどが集まる体育館。すると、元気いっぱいな児童たちからは大歓声が湧き上がる。小学生らしい元気溢れる声援は、レース後の表彰台に上がる前のような迫力さえ感じ取れる。山本選手も思わず圧倒されていた。
講演を始める前に、最初に昨年のスーパーGT第6戦SUGOで起きてしまった大クラッシュから復活までのドキュメンタリー映像を放映。
この映像のあと、山本選手は、「僕は昨年のクラッシュから現在の復帰に至るまで、お医者さんを含め非常にたくさんの人たちに支えてもらってここまで来ました。児童の皆さんも、学校に来るまでの間や私生活で、ご両親や先生たちに支えてもらって生活できています。皆さん、ぜひ、多くの人たちに感謝しながら、日々『ありがとう』の気もちをもって生活してみてください」と語りかけた。
すごく基本的なことではあるが、こうして日々生活していると、大人ですら忘れてしまうような、人として大切なテーマだ。筆者のようないい加減な人間がいっても説得力がないが、山本選手からだと説得力も高い。というかそのとおりだ。
続けて山本選手は、「自分の体を大切にしてください。体は自分が思ってる以上に弱いです。いつ何があるかわからない以上、日々を安全に過ごしてください」と、レーシングドライバーという命をかけて戦っている選手が直々に命の大切さについても語った。
とても簡単でありながら大切なこのふたつのことは、小学生でもきっとよく理解できたのではないだろうか。
このあとは、代表の児童より質問タイムがあった。まず、「スランプがあったとき、山本選手はどうしますか?」という質問に対しては、「自身でどこがダメなのかを分析する力をつけること。信用できる大人や先生を見つけて、まわりの人に相談するのが近道ですね」とアドバイス。
次の質問は、「長年プロの世界で戦っているわけですが、プロの世界に居続けるために必要なことはなんですか?」という、まるでレース現場にいる記者のような質問が出てきた。
この件に山本選手は、「どのジャーナリストよりもジャーナリストっぽい内容ですね……笑。これに関しては、どんどん出てくる若いレーサーたちの考え方や走り方をつねに取り込んで、真似して、自分に生かしてみるってことですかね。年齢に関係なく、上手い人や尊敬できる人を見つけて、参考にして日々成長することが大切かな」と語ってくれた。
たしかに、いまのスーパーフォーミュラやスーパーGTには、20歳前後の凄腕ドライバーが続々と参戦してきている。身体能力だってひとまわり以上年齢が違う若者と比べたら、不利な点も多いだろう。そんな激戦区であるカテゴリーで、常に優秀な成績を収めているベテランドライバーならではの視点だと、この回答を聞いて納得した。
小学生たちからは、「最後まで諦めないで、体に気をつけて頑張ってください!」と激励のメッセージが届けられた。
また、この日はなんと山本選手36歳の誕生日でもあった。児童たちからはサプライズでハッピーバースデーの合唱に併せて花束を贈呈。会場は大盛り上がり!
児童たちによる花道で見送られながら場所を移し、日本でもかなり珍しい、高等部の「情報科学部自動車整備士養成科」での講演だ。
レーサーになれたのは高校のおかげ!?
さて。第一線で活躍する現役レーサーの山本選手だが、「なぜ作新学院なのか?」という点について少し触れよう。
山本選手は、ご存じの方も多いかもしれないが、栃木県宇都宮市出身だ。幼少期に鈴鹿サーキットでF1の日本GPを見たことにより、「レーサーになりたい!」と思うようになり、6歳からレーシングカートに乗り始め、その後はホンダが主催する鈴鹿のフォーミュラスクールにて成績優秀者としてスカラシップを受け、その後もレースで活躍し、現在に至る。
※画像はイメージ
「6歳からカート」に乗って活動してきたので、歳を重ねるごとに学校生活との弊害が出てくることがある。山本選手の場合、中学から高校の時期は、海外シリーズにも足を踏み入れていたこともあり、「高校に通いつつ、レース活動もできる学校はないか」となった。
しかし、「レースに出るので学校休みます!」は、いまでもそうだが、まぁなかなか通用しない。野球やサッカーはよしでも、同じスポーツのカートに対する理解のある学校は、いま以上に少なく、皆無ともいえる状況だった。
※画像はイメージ
と、ここで奇跡が起こる。当時、作新学院で教員を務めていた川上先生(のちに山本選手の恩師で現教頭)は、趣味でカートに乗る根っからのクルマ好き。そんな先生は、「栃木に凄い奴がいる」と目をつけていたそうだ。そんなこともあり、「レースに参戦するお前の学校生活の面倒を見てやる」となり、作新学院に通うようになったそうだ。
なので、作新学院高等学校はまさに山本選手の人生の恩人的な存在なのだ。そんな特別な学校ということもあり、今回で3回目となるこの母校訪問は、学校側からの要請ではなく、山本選手側から、「児童生徒に自身の体験を話して、夢や希望を与えたいです」という提案で実現したそう。
今回は、30人ほどの生徒が通う、「情報科学部自動車整備士養成科」にて、山本選手が走る64号車のNAKAJIMA RACINGでメカニックを務める浅見さんが登壇。
「僕は速いクルマの整備に関わりたいという夢をもって、専門の学校を卒業してこの世界に飛び込みました。ちなみに300km/hで走るクルマなのにもかかわらず、僕は整備士免許はもっていません。極論、なくてもなれます。必要なのは『情熱』、『勝ちたい』という信念が必要です。これは、どの世界でも必要かなと。レースの場合、朝早くて夜遅いですが、好きなことなので楽しいです!」と、山本選手も交えながら浅見さんは、レースメカニックの醍醐味を熱く語ってくれた。
質疑応答では、高校生から「集中力が途切れることが多いのですが、レース中、山本選手はどうしてますか?」と、実戦的な質問。
山本選手は、「まずは基礎体力をつけることですね。あとは、ちゃんとオフの時間を作ること。人間、2時間も3時間も集中できませんから。そのオフの時間を上手に過ごして、私生活にメリハリをつけるといいと思いますよ」とアドバイス。
これは、誰にでも活かせる話ではないだろうか。
浅見さんに向けては、「普段メカニックはどんな練習をしてますか?」という質問が出た。これに対して浅見さんは、「これも集中力が必要ですが、普段できることは限られているので、重作業などに備えて基礎体力作りや筋トレが必要」という、リアルな返答を得た。
このほかに、「レーサーになるにはどうすればいいですか?」という質問に対して、山本選手は「クルマのパーツや役割などをもっと勉強しておけばよかったなと。そうでないと、メカニックに自分の伝えたいことが伝えられないこともあるので、勝つためのセッティングを知る上で必要ですね。あとは、メカニックの大変さも理解してあげられるようにしておいてください」と語った。
山本選手は最後に、「ここでクルマの勉強をして、将来僕のクルマのメンテナンスをしてくれる人とか出てきたら、とても嬉しいと思います」と締め括り、ここでも誕生日サプライズを受け、2部に渡る講演会が幕を閉じた。
講演を聞いて、生徒からは、「山本選手は1番リスペクトしている選手のひとりです。レースの世界で戦う人からの声を聞いて、もっとしっかりした人間になれるよう頑張ろうと思います」との声が。さらに、「レースメカニックを目指しているので、今回の浅見さんの話を聞いて、基礎体力作りなどをしていき、将来に役立てたいなと思ってます」と話した生徒もいた。
講演の後、児童や学生とは山本選手や浅見さんと語り合ったり、握手をするなど、触れ合う光景もありとても和気藹々とした雰囲気だったのも印象的だった。
山本選手はわれわれメディアに対しては、「このなかでひとりでも多くの人が自動車業界に残ってくれると嬉しいですね。また、レース現場にいるわれわれは、どのようにレースに興味をもってくれるか、若手育成を含めて入口を広げる活動が大切かなと考えています。意外と下(若い人)がいないなと感じてますので……。そうなると、ドライバーが走れないし、レースが成り立たないんですよね。とりあえずいまは、レースを走って、楽しさを広げられたらと思ってます」と語った。
ちなみにせっかくの機会なので、山本選手に筆者も質問してみた。それが、「作新学院の3年間、何が楽しかったですか? 思い出がありましたか?」という個人的にちょっと気になった内容。
これに対し、「学生生活……思い出あんまりないですね(笑)。学校行事もいろいろ被ってたので、学校帰りに買い食いとかカラオケとか行けなかったですね……。学校が終わったら自転車で1時間かけてジムに通ってるか、レースを走るかでした。ちなみに部活は一応陸上部の所属で、中長距離が少し得意でした」と、いままでに聞いたことがない意外な話が。
なお、学生時代よりいまのほうが高校時代の友達と遊ぶことが多いそうだ。
「文字どおり、文武両道なのが作新学院なので、進学に悩んでる人はぜひ作新へ(笑)」とのメッセージもあった。
そんな山本選手は、8月24日(土)~25日(日)に、地元栃木県のモビリティリゾートもてぎにて行われる、スーパーフォーミュラ第5戦に同校の小学生児童約400人と情報科学部自動車整備士養成科の学生約30人を招待している。
8月のもてぎは、山本選手と作新学院の児童・生徒たちの熱い走りと応援が見逃せない!
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