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【ニュルブルクリンク24時間レース2023】常識を覆すWRX S4 最高位18位以上をつかむための独自車両開発

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【ニュルブルクリンク24時間レース2023】常識を覆すWRX S4 最高位18位以上をつかむための独自車両開発

2023年のニュルブルクリンク24時間レースに挑戦するSUBARU WRX S4は、基本のスポーツ性能をさらに伸ばす工夫が山盛りだ。その中心となるのがシャシー設計の独自性であることがわかった。

2023年5月18日(木)の予選から始まり21日(日)の夕方4時のゴールまでで競われるニュル24hレースで、総監督を務める辰己英治さんに、ポイントを聞いてみた。すると、クルマづくりの教科書にはない設計思想が盛り込まれており、非常に興味深いものとなった。

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ドライバーラインアップ。左からカルロ・ヴァンダム、ティム・シュリック、山内英輝、井口卓人レースで速く走るにはドライバーが安心してアクセルを踏める環境が必要となるが、その安心感をどうやって作っていくのか。プロドライバーたちは、マシンの設定がどうであれ、ある程度はポテンシャルを引き出せる力はあるものの、そこに安心感があればさらに高いレベルになることは容易に想像がつく。

その設計思想は前後サスペンション、シャシーのジオメトリーにキーポイントがあったのだ。WRX S4はいわずもがなAWDである。そこもひとつのキーでFF、FR、AWDという駆動方式の違いによる異なったジオメトリーになるからで、フロントタイヤの駆動がひとつポイントだ。

そしてSAT(セルフアライニング・トルク)も鍵になるが、これは単に操舵したハンドルが戻ることを指すのではなく、車両自体が直進状態に戻ろうとする復元力と考えることがポイントだ。

まずフロントのジオメトリーは仮想キングピン軸とスクラブ半径、キャスタートレールの関係だ。SATはキャスタートレールが影響するが、スクラブ半径も重要だという。仮想キングピン軸に対してスクラブ半径が大きいとアンダーステア傾向になり、反力も強く内輪には駆動力、外輪には制動力が発生する。LSDを搭載しているので、多少緩和されるもの制動力はない方がいいのは当たり前だ。

だからスクラブ半径を小さくする。すると安定性に欠けてくるが、そのさじ加減で適値を見出しているのがWRX S4だ。仮想キングピン軸に対し30mmを超えると安定性は増すものの制動力が強くなる。FR車であれば大きく取る傾向で問題ないというが、AWD、FFではダメだという。

だからフロントが駆動するかどうかでジオメトリーは変わり、仮想キングピン軸を前に出し、スクラブ半径をできるだけ小さくするというジオメトリーになっている。

そしてリヤのジオメトリーは教科書にない難しさがあるという。教科書ではリヤの仮想キングピン軸を後ろに置き、トーインにするのがセオリーだ。だが、実際のリヤの仮想キングピン軸は測りようがない。つまり仮想キングピン軸は固定されているものから測っていくが、動くものに関してはどこに仮想キングピン軸があるのか想像の領域になるからだ。

辰己英治総監督は独自の考え方で車体の安定性を追求しているそのためマルチリンクにはブッシュを使わずピロボール型式にし、サブフレームで仮想キングピン軸を前に出そうとしている。サブフレームのフロントはピロボールを使いリジットのようにし、リヤをブッシュにして積極的に動かしている。

さらにトーアウトなジオメトリーも採用しているのだ。ここはセオリーと真逆と言っていい部分になるが、リヤブッシュのコンプライアンスで、ほんの僅かにトーアウトになるという。常識ではトーインの同位相で安定性を求めるが、全速度域で逆位相になっているのだ。そのために仮想キングピン軸を前に出しているため、リヤタイヤからの復元力が出てくるという考え方になる。

この考え方に行き着いた過程で、辰己さんはBMWのシャシーを研究したという。そしてリヤサブフレームに使われるブッシュの剛性を調べ、サブフレームの前後ブッシュの剛性の違いを確認したという。その結果、辰己理論を証明するかのように、データは一致したというのだ。

ポイントはリヤ・サブフレームの動かし方とジオメトリーの作り方もちろんBMWはそうしたデータは公表していないが、ブッシュ製造会社のデータから推測できたわけだ。その結果、リヤ・サブフレームのフロント側の剛性を高くし、リヤを積極的に動かす。そして仮想キングピン軸を前に出し、リヤタイヤから直進性の復元力を作り出しているのがWRX S4のニュル仕様というわけだ。

気になるアッカーマン・ジャントージオメトリーではフロントはノーマル値との近似値ということで、市販車とのタイヤサイズの違いを踏まえて修正値というレベルだという。そしてリヤは二輪モデルをイメージ、あるいは四輪操舵に近いイメージを持ってこのジオメトリーとしているのだ。

じつはこの性能に関し、ドライバーの井口卓人は「究極の限界性能という点で考えるとVAB型WRXのほうが現行のVBH型よりレベルが高いかもしれませんが、その限界値に到達するまでの扱いやすさははるかに現行車のほうがレベルが高いです」と話しているのだ。つまり安心感が段違いにあるということを証明するコメントと言えるだろう。

タイヤサイズもVAB型WRX STIよりサイズアップされ、エンジンもEJ20型からFA24型へと変更。タービンもギャレット製に変わり、新型WRX S4はニュルに挑戦しているというわけだ。

そしてこの原稿はレースウイークの金曜日の早朝に書いている。実は木曜日に行なわれた2回の予選で、トラブルを出していた。それは冷却系のトラブルで、じつはニュル24hの前に参戦したNLSのレースでも同様のトラブルを出している。

ちょっと気になるトラブルだが、対策はできている様子原因は、今回のレース仕様には水冷のオイルクーラーを採用している。これは暖気促進もできることで採用しているが、ラジエターホースのどこかで高回転時に潰れている可能性があり、一方で冷却ポンプは循環させようとしている。そのため、どこかでラジエター内圧があがり、リザーブタンクへと溢れ出てしまっているということのようだ。

溢れた水にはオイルなどは含まれず、きれいな水のままだということから、内圧の変化が原因と考えている。対策としてはエンジン回転を少し下げ5800rpm付近でシフトアップしていると問題が出ないという。そのため、やや点火時期も遅らせ、パワーはダウンするもののトルクは変わらないので、トップスピードも落ちることなく、またラップタイムにも影響はないという。

しかしながら本番のレースで課題を抱えてのレースは考えにくいため、木曜日の23時30分に終了する予選2が終わった時点でエンジンの換装ということになった。しかし、このエンジン換装はもともと予定していた戦略で、そのタイミングがやや早まったという理解で問題ないという。

2回目の予選が終わって総合50位。果たしてどこまで上位に入れるかといいうわけで、3回目の予選からの本番レースに期待したい。過去総合順位18位が2回あるが、その順位を上回りたいという狙いはあるものの、WRX S4のSP4Tクラスより確実に速いクラスのマシンは60台ほどいる。そのため総合18位はかなり高い目標となるが、予選2回を終えた時点での順位は50位。

すでに上位クラス10台を飲み込んでいるのだ。ポルシェのカップ3カー(ケイマン)は全てオーバーラップし、カップ2(911 GT3)のマシンをどこまで飲み込めるか、またGT-3勢を何台飲み込むのか、期待を持って決勝レースを見てみたい。

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みんなのコメント

6件
  • 難しいレースだけに日本から参戦してるメーカーは少ないからな。
    日本人なら勝ってほしいと思うところです
  • そもそも日本車がリアを使わないのよ、弱アンダーでセティングするから。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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