もくじ
ー 並外れた動力性能を試す
ー ケイマン1台分の差額
ー 内側が魅力のパナメーラ
ー 攻撃的な走りのCLS
ー 駆動方式による違い
ー CLSの方が楽しめる
ー 快適性で優るパナメーラ
ー ポルシェの方がメルセデス的
ー 価格差踏まえCLSの勝利
比較試乗 高級4ドアクーペ対決 メルセデス・ベンツCLS vs ポルシェ・パナメーラ
並外れた動力性能を試す
(AUTOCAR JAPAN誌102号の再録)
開けた道と不順な天候──ポルシェ・パナメーラ・ターボSに乗っている最中、そのたったふたつの条件が揃っただけで、船底から逃げ出すネズミの気持ちが理解できる。前者はバカンスシーズンの英国ではなかなかお目にかかれないが、後者はそれが日常だから、実質的にはほぼ唯一の条件と言ってもいい。
誓ってもいいが、そんな環境下にあるパナメーラのコクピットでそれなりの時間を過ごしたら、まず間違いなく値段に対する不満、あるいは後部にふと視線を向けるたびに頭をよぎる「どこかスタイリングに少しはマシなところはないのか?」といった疑問がふつふつと湧き上がってくるのを、きっとわたしは抑えきれないはずだ。
これだけのサイズと質量を持ったクルマでは、いかに道が開けていようとも、雨に見舞われてしまったらなすすべはない。4カ所のゴムでこの惑星とつながっている乗り物ならできてしかるべき身のこなしもままならないのが現実だ。それはパナメーラのなかでも最高位に立つ、並外れた性能を誇るターボSでも例外ではないのである。
われらが編集部のスタッフは、クルマに乗るのが大好きだ。4人が快適に乗れて、しかも右足のつま先をちょいと動かすだけで、少なくともそのうちの3人にたっぷりと恐怖を味わわせることのできるクルマが見つかったなら、一同大喜びだろう。ただしそれは、われわれがまだ自分たちの物言いに「激辛」の称号をいただいていなかった頃の話である。いまならどうか? 「それだけで満足なのか?」のひと言だ。
ケイマン1台分の差額
このクルマは、数値的に見れば、常識を越えた資質を備えている。550psと81.6kg-mの数字はそれを示す代表的なふたつだ。だが、それ以上に堂々たる数字がほかにある。1台2481万円というプライスである。大排気量V8ツインターボの出力は非凡ではあるが、これに比べたら唯一無二というわけではない。
英国南部のここウィルトシャー州に広がる美しい農村地帯でパナメーラを待つのは、メルセデス・ベンツの新型CLS63 AMGである。AMGパフォーマンスパッケージをオプション装備したこの個体の場合、5.5ℓエンジンの出力はほぼ同様の構成であるパナメーラの4.8ℓをわずかに上回り、トルクはまったく同一ながら発生する回転数はやや低く、そのぶん実用性が高い。
加えて車両重量は100kg以上も軽く、そして何より価格が1755万円と700万円も安い。冷静に考えればケイマン1台分以上の差があるのだ。この差額と、買ったらまず間違いなく家族からの非難の声を一身に浴びることになるという、ほかに例のない才能を持つそのシェイプのネガを跳ね返すに足る特別な何かを、果たしてパナメーラは持っているのだろうか?
まず見た目からいくと、今回のCLSは「スーパーヒーロー」になれるAMGのスタイルキットをまとっているが、そうでなくとも、魅力的スタイリングには反論の余地なしという結論が出ている。CLSのルックスの見事さを認識するにはわざわざパナメーラの隣に駐車する必要はなく、またその唖然とするような速さを知るためには公道でちょっと加速してみれば十分だ。そして、そのときのサウンドの素晴らしさにも、間違いなく共感を覚えることだろう。
内側が魅力のパナメーラ
一方のパナメーラは、CLSに比べると少々弱い。強烈な動力性能は申し分ないがスタイルは決して美しくも魅力的でもない。さらに価格上の優位が皆無となれば、いささか競争力に欠けると言われても仕方なかろう。もっとも、だからといってこれで結論が見えたと考えるのは早計だ。実はそれだけにはとどまらない実力を、パナメーラは秘めているからある。
それについてここで言及しないのは明らかに公平を逸した行為だが、何しろそれに気づくには数時間程度のドライブでは不十分で、おそらく数百kmも走ってやっと理解できるものなのだからもう少しお待ちいただきたい。ただ、それくらい走って初めてパナメーラの意図は明確になり、納得できるようになる。一見して予想するほどには、このゲームは簡単に決着がつかないのだ。
そのパナメーラは、内側に強さと美しさを秘めたクルマだ。ひとまずそこのところはしっかり認識しておく必要がある。たとえばキャビンだが、これはメルセデスがCLSに用意したそれと比較してもなお魅力的で、効率的にも仕上がっている。
ドライビングポジションはより低くて居心地がよく、ダッシュボードのアーキテクチャもビスポーク感が強い。CLSのダッシュも見栄えは悪くないが、細部は別として基本的にはほかのメルセデスとほとんど見分けがつかないのが弱みだ。
攻撃的な走りのCLS
さらに、パナメーラの室内にはある種の堅牢さが感じられる。これはメルセデスを含むほかのどのクルマでも得られない感覚だ。CLSもその価格に見合うしっかりした標準に沿って造られていると実感できるだけの仕上がりではあるのだが、パナメーラには、ドアを閉めた瞬間から「もし核シェルターの中に入ったらこういう気分なのだろう」と想像してしまうほどの堅牢さがあるのだ。
さて、追いかけっこの時間だ。CLSの走りは攻撃的魅力に満ちている。パナメーラと同様、こちらもサスペンションやスロットル、それにギアシフトの設定をさまざまに調整可能である。パナメーラでは駆動系のマッピングをいちばん過激な設定にしつつ、ソフトなサスペンション設定を選択したくなるだろうが、CLSの場合は常にもっともリラックスした設定にしておくのがベストだ。
CLSのエアサスと金属スプリングのハイブリッドシステムはこの設定のときにもっとも効率よく、独自の流儀で英国のカントリーロードを見事に消化してくれ、そのうえで莫大なトルクが余裕ある走りをもたらしてくれる。
パナメーラのフィールは、表に記載されたエンジンの諸元がほとんど同じであることを考えると、CLSとは驚くほど違っている。こちらのほうが上の回転数を必要とし、本気で走らせようと思ったらCLS以上に頻繁なギアシフトを要するのだ。だが、それさえしっかり行えば、まったく予想もしなかった動きが待っている。このクルマは間違いなくCLSより速い。
駆動方式による違い
公称されている動力性能の数字を見ればそれほど驚くべきことではないのかもしれないが、パナメーラの四輪駆動によるトラクションの違いを忘れていると、数値に表れない差を見過ごしてしまうので注意が必要だ。タイヤに粘着力が確保されている限り、普通に考えればパワフルさで劣らず、しかもより軽量なCLSのほうが速くて当然なのだ。だが、実際にはそうではない。
CLSは中速域のパンチこそ圧倒的だが、最高出力発生回転数に達するはるか手前で出力曲線がフラットになってしまうように感じられる。対するパナメーラにそうした頭打ち感はまったくない。エンジンが最高の仕事をこなしているのを知る唯一の手掛かりは、次のギアにシフトアップされているという事実だけだ。
ただ、この出力特性の違いは、実際にはさほど速さに影響していないのかもしれない。同様に、パナメーラがある一点からもう一点への移動で、それがドライ路面であっても並外れた速さを見せつけるのは間違いなく4WDのトラクションがあればこそだという事実も、人によっては重要には思えないのかもしれない。
忘れてはならないのは、CLSが後輪だけで行うことになる仕事は、購入時に注文してオプション代を払わない限り、リミテッドスリップデフの助けを得られないという事実である。そして、たとえLSDを装着したとしても、そこがドライ路面であっても、出力がトラクションを上回ってしまう事態はいとも簡単に起こり得ることも忘れてはならない。
CLSの方が楽しめる
もっとも、巨大なパナメーラが公道での走りで勝ち取ったごく小さな勝利があれだけの価格差に値すると認められるのかと問われれば、答えは否だ。パナメーラほど速くはなく、コーナーへの進入時も脱出時もグリップやトラクションに劣るとしても、CLSのほうが乗っていて楽しめるのは間違いないからである。
CLSのほうが楽しめるクルマであることに疑問の余地はないが、それはLSDさえあればコーナーの入り口から出口まで鮮やかにドリフトを決められるからというような単純な理由からではない。
このクルマの購買層の中心を占めるであろう中年の紳士にとって、そんな才能が最優先事項となるわけがないのはわれわれも承知している。
肝心なのはパナメーラよりもホイールベースが短く、全長と全幅もひと回り小さいという素性である。さらに決定的なのはステアリングだ。ラインコントロールが容易でコーナーが楽しいだけでなく安心感もある。CLSでの走りは自分が運転している実感に満ちており、クルマに指示を与えるだけのパセンジャーのように思える瞬間はまったくない。
快適性で優るパナメーラ
だが、思慮深い人ならこうも考えるだろう。自分の生活のうち、このような過ごし方、つまりコーナーを旋回してスロットルペダルを踏み込むにあたり、クルマの姿勢やステアリングフィールのニュアンスを頭の中で計算しながら走る時間は、いったいどのくらいあるのだろうか?
少なくとも、そうしていたいと考えている時間ほどには長くないだろう。この2台をそれよりも退屈な日常生活の仕事の場として考えると、重心は着実にポルシェの側に移っていく。
高速道路を走り続ければ、インターをいくつか通り過ぎる頃にはパナメーラのほうがCLSより静粛であることに気づくに違いない。あるいは都市部のジャングルを走ればすぐに、パナメーラのほうがCLSよりも荒れた舗装のいなしに優れているのがわかるだろう。
居住性にしても、どちらも4人しか乗れないが、後席の快適さではパナメーラが上回る。ニールームの差はわずかだが、ヘッドルームが格段に大きいためだ。そして、パナメーラは同乗者の人数が少なければ後席を倒し、CLSのほぼ2倍の荷物を積み込める。
ポルシェの方がメルセデス的
毎年、休暇にはアルプスに出掛けるというのであれば、目的地までのロングドライブと到着後の雪道にどちらがうまく対処できるかについては乗り比べるまでもない。そのときには100ℓの巨大な燃料タンクも役に立つことだろう。
2台を比べながら走らせているうちに、こうしてあまりにも皮肉な状況に今回の2台があるのがわかってきた。思わず苦笑してしまったのだが、それぞれのモデルから感じた印象が、それぞれのブランドに期待する個性とまったく正反対だ。
ポルシェといえばドライバーズカーのはずで、絶対的な動力性能とグリップもさることながら、何よりも重視されるのは、手のひらがどう感じ、耳にどう響くかという感性の領域だ。
メルセデスはそれとは対照的に、基本的には退屈なクルマであっても造りの完璧さや車内の広さ、快適性、それに静粛性と実用性がどうかが問題となるだろう。だが、今回ばかりは逆だった。ポルシェのほうがよりメルセデス的であり、そして逆もまた真だったのである。
価格差踏まえCLSの勝利
では、ないものねだりの両者の努力は、どちらのほうがいい結果を生んだのか? それはCLSのほうで、その理由もはっきりしている。パナメーラに乗って過ごした1週間の終わり頃には、わたしは期待以上にこのクルマを気に入っていた。時間がたつにつれてルックスはそれほど気にならなくなり、慣れれば慣れるほど扱いやすいクルマだともわかってきた。
しかし、このクルマの最大の美点である乗り心地や洗練度、車内空間などは、価格が半分近くまで安くなる廉価グレードでも手に入る。かといって、一度経験したら絶対に記憶から消えることのないあの強烈な動力性能を抜きにしたら、やはりクルマとしては物足りない。
一方CLSは、同じくらい強烈に速いクルマであり、運転の楽しさとルックスとサウンドで優っている。それなのに、これは不都合な真実だが、パナメーラ・ターボSの価格はCLS63の5割増しに近い。確かにCLSは洗練度と広さで負けてはいるが、絶対的な基準で考えれば決して狭いわけでも乗り心地が荒っぽいわけでもないのだ。
今回の2台はどちらも本当に特筆に値するクルマであった。しかし以上のとおり、傑出しているのは1台だけである。それはCLS63 AMGだ。
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