■「110」の本命である6気筒ターボディーゼルMHEVは本当に本命か?
ランドローバー「ディフェンダー」は、現在の日本国内において、もっとも注目されている輸入車のひとつと見て間違いあるまい。
【画像】いま注目の「ディフェンダー90」のディテールを見る(22枚)
2020年リリースされた、4気筒ガソリン版の「110」系については、クロスカントリーカーの本分であるオフロードでの卓越した走破性能に加えて、現代における都市生活者の使用状況に近いカタチ、つまりアスファルト舗装された一般公道や高速道路においても素晴らしいパフォーマンスを発揮することは、すでにVAGUEでも伝えられているとおりである。
そしてこのほど、ファンが待ち望んでいたふたつのバージョン。110系のターボディーゼル版「D300」と、3ドアショートボディ「90」系が日本国内でもデリバリー開始となったことから、あらためてテストドライブを敢行することになった。
●6気筒ターボディーゼル+48Vマイルドハイブリッドがもたらす濃密な高級感
東京都心から千葉県富津市を訪ねた、この日のテストドライブ。まず往路でステアリングを委ねられたのは、正規輸入が始まった当初から日本に導入されていたロングボディ版に、新たにターボディーゼルエンジンを組み合わせた「ディフェンダー110 ディーゼルMHEV D300」、新型ディフェンダーでは「本命」ともいわれているバージョンである。
注目のパワーユニットは、すでに「レンジローバー スポーツ」や「ディスカバリー」でも設定されている、3リッター直列6気筒ディーゼルターボに48Vのベルト駆動型スタータージェネレーターを組み合わせたものだ。
最高出力はガソリン版「P300」と同じく300psながら、最大トルクは250Nmアップに相当する650Nm。この極太トルクを、1500rpmというアイドリング+αの回転域からモリモリと湧き出してくるのだから、速くない理由があるまい。
とくに発進時などでは、スロットルをジワリと踏んだところから18kw(約24.5ps)の電動モーターがアシストするのか、今回試乗した豪華版「X」仕様では2420kgに達する車重をまるで感じさせることなく、グイグイとスピードを乗せてゆく。
しかしD300エンジンの最大の魅力は、数字には表れないフィールにこそある。ターボディーゼルエンジンのトルク感は、同じ出力を発生する4気筒ガソリンターボよりも格段に野太くて、しかもスムーズ。電動アシストのおかげかレスポンスも申し分なく、スロットル操作に過不足なく反応してくれる。
またエキゾーストサウンドは、古き良き時代のガソリン6気筒を連想させる心地よいもので、このフィールと快音ならばディーゼルのままジャガー「Fタイプ」に搭載されてもおかしくはないとさえ感じてしまったほどである。内燃機関の終焉の時代を代表するに相応しい極上の回り方は、このクルマを選択するには充分という以上の動機になり得ると思われる。
そしてこのエンジンの魅力は、元祖「ランドローバー」以来、長らく培われた生活ツールとしての本分を体現したディフェンダー110系に、新たな魅力を加味することになった。
とくに本革インテリアなどの豪華装備が与えられた「X」仕様では、身内である「レンジローバー」にも匹敵しうるような、イギリス高級車特有の濃厚な味わいまで兼ね備えている。
昨今、巷間で話題の新型「ランドクルーザー300系」にも匹敵する、このボディサイズが受け入れられる生活環境にある方ならば、たとえば英国的カントリーライフを目指そうという好事家でなくとも、ファーストカーとして最上級の満足を与えてくれるに違いないと実感したのである。
■使い勝手を考慮して「110」が優勢と思いきや、「90」に見たドライブフィールとは
往路で「110 ディーゼルMHEV D300」を存分に味わったのち、復路で乗ったディフェンダーは、ショートボディ版の「90 P300 S」である。
ようやく日本国内マーケットでも正式デリバリーが開始されたディフェンダー90は、すでに国内の公道で見る機会も多くなってきている110系から、ホイールベース/全長ともに435mm短縮。ホイールベースは110の3020mmに対して、90は2585mm。全長は4945mmに対して、4510mmとなる。
●軽快な走りとともに、ディフェンダーのキャラクターを凝縮した90系
その一方で1995mmの全幅、そして「ランドローバー・ディフェンダー」であることを誇示しているかにも感じられる1970mmの全高は変わらず。つまり、全長以外はなかなか雄大なサイズ感となる。
ところが、ランドローバー自ら「コマンダーポジション」を標榜する、高い着座位置から周囲を見渡すことができるせいか、狭い場所での取り回しも、ボディサイズを思えば非常に優れているのもまた事実である。
一方使い勝手に目を向けると、やはり110系との最大の違いは乗員および荷物を積み込むためのスペースにある。もちろん前席は110と共通の仕立てながら、ホイールベースを短縮した分、後席スペースは明らかに狭くなる。
また、先代ディフェンダー90のごとく折り畳み式の対面型でこそないものの、リアシートは絶対的サイズが小さく、さらに座面とフロアとの高低差が小さいため、特に大柄な方にはひざを抱えるような乗車姿勢を強いてしまう。
だから登録上は5名定員とされるものの、リアシートは手荷物を置くため、あるいはエマージェンシー的要素が強く、やはり2名以下の乗車がデフォルトであろう。ファミリー向けというよりは、趣味性の高いファンカーといわざるを得ないのだ。
でも、ユーテリティでは110系にかなわないことと引き換えに、走りの楽しさでは90独自の世界が構築されているようだ。
現時点で日本に正規導入されているディフェンダー90は、「P300」のみ。「Petrol(ガソリン)」の頭文字と「300」の数字が示すように、300psをマークする直列4気筒ガソリンターボエンジンを搭載し、同じグレードの110よりは140kgも軽いとはいえ、依然として2トンを超えるヘビー級の車体を、まるでコンパクトカーのように軽々と加速させる。
また舗装された道路はもちろん、ちょっと荒れた未舗装区間でも軽快なハンドリングを披露することも特筆に値する。もちろん出自がクロスカントリーカーであることから、その走りは泰然としたもの。スポーツカー的なアジリティとは対極にありながらも、なんとも心地よい軽快さが車両全身にみなぎっているかに感じられる。
たとえば、日本国内でも数多く開設されている4WD車専用オフロードコースなどを楽しむ方であれば、あえて90系を選択することもあり得るだろう。
また、以前試乗した110 P300では、長距離ツアラーとしての優れた資質も見せてくれることになったのだが、今回の取材車両ではオプションで選択されているエアサスペンションの効力も相まってであろうか、高速クルージングにおいても110系に劣らないスタビリティを披露することが確認できた。
中年夫婦のふたり暮らしで、後席に人を乗せる機会は数年に一回レベル。しかも、かさばる荷物を積むような機会も少ない筆者にとっては、全長だけならCセグメント・ハッチバック並みにコンパクトな90系のサイズは実に好ましいとともに、切り詰めたスタイリングには独特のエキゾティックな印象も感じられる。
とはいえ、英国車ならではのダンディズムを満たしてくれるという点では、ある意味アストンマーティンにも匹敵するディフェンダーのエッセンスを凝縮したような90系ながら、あくまでセカンドカー的な要素が強く、もしも筆者が今回の2台からどちらかを選ぶのであれば、110 D300の一択になるだろうと予想していた。
●武田公実の結論は、「90 P300 S」推し
ところがこの日復路で半日をともに過ごし、いよいよ返却の刻限が近づいてきたとき、筆者はあることに気がついた。
まるでバーブァー社製のオイルドクロスジャケットや、ツィード生地のスポーツジャケットが、しばらく使用しているうちに体の一部のごとく馴染んでくるかのように、巨大な全高と全幅に圧倒されたはずのディフェンダー90が、予想外の早さで体に馴染んでいたのだ。
長らくクラシックカーの世界に身を置く筆者は、先代ディフェンダーが「ディフェンダー」を名乗る以前、単に「ランドローバー」と呼ばれていた時代のモデルを運転する機会にも恵まれてきたのだが、その時代から受け継がれた独特の乗りやすさやドライブフィールを、今なお明確に体現しているのは90系であるかにも感じられた。
だから2台のディフェンダーから、筆者が個人的に推したいのは「90 P300 S」。それが、今回の乗り比べドライブの結論なのである。
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パジェロ復活しておくれ。