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自動車メーカーになった男──想像力が全ての夢を叶えてくれる。第18回

掲載 更新 13
自動車メーカーになった男──想像力が全ての夢を叶えてくれる。第18回

プロトタイプシャシーが徐々に煮詰まっていくなか、他にもまだ重要な課題が山積していた。なかでもスタイリングと生産が最大の難関だった。一方、プロトタイプシャシーが完成したとき、とある日本のメディアにテストの機会が与えられている。そのことが後に思いも寄らぬ“幸運”をこのプロジェクトにもたらすことになる。

“ナカミ”だけで完成するクルマ

良きGTカーは人を幸せにする(前編)

富田がオリジナルのスポーツカーにこだわった背景には2つの大きな理由があった。ひとつはもちろん、スポーツカーの量産という大メーカーにできない挑戦をすることでトミタ夢工場の総合的な技術力を世間にアピールすること。もうひとつは、当時の主力であった大量生産モデルのチューニングコンプリートカービジネスとは一線を画する商売の柱が欲しかったから、だ。

要するに、大メーカーの思惑に左右される続けるチューニングカービジネスだけでは富田は不安でならなかった。彼の頭のなかにはメルセデスベンツとAMGや、フォードとシェルビーコブラといった世界のビッグコラボレーションが目標としてあった。彼らにしても、その絶頂期にオリジナルカーを生産することは至難であったのだ。

オリジナルカーのプロジェクトは、月曜日毎の役員会に上がってくる報告を聞く限り順調のようだった。ごく初期に寸法取り用に造ったベニア製のモノコックに座ったきり、あとは解良喜久雄の率いるエンジニアチームに任せきりだった。

ある日、解良は「試作車ができあがった。これから乗りに行こう」と富田を誘った。試作の行なわれた亀岡工場には1台の“ハダカのマシン”があった。

ボディカウルのない、シャシーのみの試作車。一見、フォーミュラマシンのようだ。富田の第一印象は「低くて幅の広いなかなか頼もしいやつ」で、実際、亀岡工場の敷地内をドライブしてみれば、それは想像以上に楽しい乗り物であった。

名門自動車メディアがテストに潜入?

車重の軽さを生かしたレスポンスの良さと、全ての操作がダイレクトに身体へ伝わる感覚が、このクルマの魅力の全てだと“ハダカのナカミ”に乗って富田は即座に見極めた。解良もまた、その出来映えに満足していた。彼にしてみればイメージした通りに仕上がっていたのだった。

それまではとかくエンジンをハイパワーにしなければ得られなかったような加速フィールを、馬力はそこそこでも軽さを武器にすることで実現できるということに富田は新鮮な驚きを覚えた。そしてその楽しさを背中いっぱいに受け止めていた。「これは、いける! 」。富田はそう確信した。

数日後。このプロトタイプシャシーは岡山県にあるダンロップのテストコースにいた。実はトミタ夢工場の歴代チューニングカーにはダンロップでテストしたオリジナルのタイヤを履かせていたのだ。大メーカーならいざ知らず、トミタ夢工場のような小規模ブランドにもテストの機会を提供するという、こうしたサプライヤーの存在もまた、決して表には出て来ないけれども心強い味方だったのだ。

当日はR33スカイラインベースの新型M25のテストも兼ねていたが、スタッフの関心は“ハダカのマシン”にこそあった。そして、そこには初めて部外者の顔もあった。

日本を代表する自動車専門メディアである「カーグラフィック」(CG)誌の編集長を含むスタッフが特別な許可を得て取材参加していたのだった。

CGのスタッフはもとより、開発陣も満足のいくテストを行なった。そして、のちにこの事実は思いもよらぬ結果をもたらすことになる。

盗作疑惑を一蹴

これは後の話になる。このプロジェクトが完遂し、その披露をした直後(95年7月以降)に“疑惑の視線”が海の向こうから向けられた。曰く、「また日本が英国の真似をした! 」。実はトミタ夢工場のオリジナルカープロジェクトが正式に発表される1年ほど前に、日本のとある会社がロータスセブンもどきのモデル(ニアセブンと呼ばれるレプリカ)で「日本における十番目の自動車メーカー」というフレコミの大々的なニュースになっていた。あんなのは自動車メーカーとは言わない。英国人のそれは真っ当な反発でもあった。

そして、富田たちの造ったアルミ押し出し材のモノコックシャシーを持つライトウェイトスポーツカーというコンセプトもまた、当時発表されたばかり(95年秋のフランクフルトショー)のロータス・エリーゼにそっくりだったのだ。そこで、愛国心の強い英国のカーマニアが訴え出たというわけだった。

このとき富田は95年1月号、つまりは94年12月に発行された日本の老舗メディアにプロトタイプのテスト風景が載っているという事実を堂々と伝えている。ロータス・エリーゼを模倣することなど事実上無理だった。むしろ、その逆があるのではないか。

幸いなことにカーグラフィック誌は海外でも手に入った。思いもよらぬことに、その後、批判はぱったりとやみ、むしろ称賛が巻き起こった。曰く、「日本人の造ったスポーツカーがロータスを駆逐する! 」。なかにはロータス側の模倣を示唆するリポートもあった。日本以上に英国で話題になり、ついにはかのBBCが取材のために来日した。そして彼らはこう漏らしたという。

「日本人は損だね。こんなに凄いクルマを造ってもNHKは全く知らないし、興味ももってくれなかったよ」。BBCは同じ国営放送局としてNHKと提携していた。それゆえ、コンテンツの共同製作を申し出たのだが、NHK側にはまるで話が通じなかったという。

動物的な魅力のあるスタイルを!

プロトタイプシャシーが煮詰まる一方で、富田はさらなる難問を抱えていた。デザインだ。クルマはスタイリングが命。小さい頃から大のクルマ好きで、実践者でもあった富田本人がそのことを最も理解していた。どんなに性能が素晴らしくても格好悪いクルマには誰も振り向いてはくれない。否、ただ格好がいいだけではいけない。特徴があって、人を惹き付ける魅力がないとだめだ。富田はそれを、「ペット的な愛着の湧くスポーツカー」デザインだと考えていた。

当時の雑誌企画で、富田と林(みのる)、本田(博敏)、舘(信秀)という豪華メンバーが集い、「スポーツカーを造ろう」というタイトルで理想のスポーツカー像を描いている。もちろんそれは理想でしかなく、実現するのは難しいデザインだった(とはいえ、後の完成デザインにどこか似通った部分もあった)。

悩んだ挙げ句、富田は林とも相談し、昔から付き合いのあったカーデザイナーの由良拓也にデザインとクレイモデルの製作を依頼する。

由良が描いたスタイリングは黄色いボディカラーで、後の完成モデルとよく似た雰囲気をすでに醸し出している。また、5分の1クレイモデルも出来上がってきた。

後の完成モデルを知る我々がそれを見ると、ある重大な違いに気づくだろう。初期のデザインスケッチやクレイモデルのスポーツカーには、ドアがなかったのだ。

【次回予告】
ドア無しで始まった新オリジナルスポーツカーのデザイン。ドアを付けることになったきっかけはルーフの高さにあった。ドア付きモデルへの変更を含む最終デザインの決定は発表の1年ほど前であり、すでに予定販売価格も決まっていた時点での“大変更”だった。富田の夢は95年7月にとうとうアンベールされる。

文・西川 淳 編集・iconic

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みんなのコメント

13件
  • トミカがEVとなり次は何に。ビジネスは甘くないがチャレンジが次に繋がることを。自分はリタイヤ組なので若い志に期待したい。
  • >BBCは同じ国営放送局としてNHKと提携していた。

    NHKは国営放送じゃなくて、公共放送だけどな。
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