当時のホンダの発想力&技術力はスゴかった!
国内に現存する実働車はわずか数台
「MTなのに、加速してほしいところで瞬時にキックダウン!?」初代シティに搭載された“ハイパーシフト”!【ManiaxCars】
B型人間てのは、どうしてこうも“アオって”くるんだろうか?ManiaxCars Vol.02が手元にある人はその117ページ、『ジロウさん、出番ですよ~』という連載コラム最後の3行を読んでほしい。
ジロウさんとは元ジェイズティーポ編集長のジョンマン二朗。仕事柄、今やすっかり2輪の人になっちゃってるけど、業界の大先輩である彼が、「シティハイパーシフトの試乗記を読みたいな~」とか変なプレッシャーをかけてくるもんだから、後輩であり同じB型でもある自分としては、もう全力で応えるしかないわけで。
難易度の高そうなミッションだったけど、取材車両はみんカラ経由で割とあっさり見つかった。けど、オーナーとのコンタクトがなかなか取れず、最後はみん友さんまで巻き込んで、ようやく取材の承諾を得ることができた。
ターボIIブルドッグやカブリオレはイベントとかでそれなりに見かけるけど、素のシティそれもフェンダーミラー仕様に遭遇することは、まずない。
しかも、今回の相手は現存する実働車はわずか数台と言われてる、さらに希少なハイパーシフトだ。「そういや、背高なマンハッタンルーフなんてのもあったよね~」なんて思いながら、初めて間近に見るシティRハイパーシフトは、なんか顔つきが違ってる…!? 聞けば、商用グレードのプロ用フロントグリルを装着してるんだとか。というか、「R純正、プロ用、ターボ用を気分によって付け替えて、いろんな表情を楽しんでいるんですよ」とオーナーの井上さん。それ、なんか楽しそう。
にしても、ボディが小さい。どれくらい小さいかっていうと、12インチの純正アルミホイールが小さく見えないくらい(笑)。全長は今どきの軽自動車より短い3380mmで全幅1570mm。全高は高く見えるけど、立体式駐車場になんなく停められる1470mmだ。
搭載されるのは、高密度速炎燃焼原理を採り入れた1.2L直4のER型、通称コンバックスエンジン。ボア径φ66.0、ストローク量90.0mmの超ロングストローク型で、圧縮比は世界初の10.0:1を達成。排ガス浄化性能を高めるため、すでにEXマニ直下型触媒も採用されていた。カタログ燃費は10モードで19.0km/L、60km/h定地で27.5km/Lと、当時の国産小型車でトップの数字を叩き出していた。
それと、今回取材して初めて知ったのが、実はフロントグリルが開閉式だったってこと。エンジンルームをコンパクトに設計したことによる整備性の悪化を避ける策だ。実際、ここが開かないとスパークプラグの点検や交換を行なえない。それと、すでにマニアは気づいているだろうけど、装着されているフロントグリルは商用4ナンバーモデルのシティPRO用だ。
インパネ周りはシンプルなデザインで収納スペースが豊富。ダッシュボード下半分はほとんどが小物入れとなっている。また、助手席側ダッシュボードの上部にはエアコン作動時に冷蔵庫として機能するクールボックスを装備。夏場のクソ暑い時期には重宝すること必至だ。
メーターはスピードメーターとタコメーターの間に水温計と燃料計を配置。Loモード時に点くハイパーシフトインジケーターも確認できる。
車内は1175mmという室内高と広いガラスエリアによって開放感バツグン。アップライトに座らせる運転席はやわらかめのクッションで座り心地も快適だ。運転席の下には引き出し式の大型アンダーポケットも備わる。ドアポケットは「カセットテープなら7本、缶コーラなら2本入る」という記述がカタログにある。
後席は背もたれが低めだけど、大人2人が乗るには十分なスペースを確保。3段階のリクライニング機構を持ち、両側には小物を入れておけるポケットも用意される。ともかく3.4mに満たない全長で大人4人が無理せず乗れる居住性を実現しているのは見事としか言いようがない。ちなみに後席は背もたれを前倒しにするだけでなく、そのまま座面と一緒にダブルフォールディングすることも可能。そうすればフラットな荷室が現れる。5名乗車時のラゲッジ容量はさすがにミニマムだけど、コンパクトなボディサイズを考えると「よくパッケージングされているなぁ」と感心することしきり。
一方、外装で特徴的なのは、ステーが長いハイマウントタイプ(!?)のフェンダーミラー。広い後方視界を確保してくれる機能性はもちろん、デュアルステーを採用するなどデザインに対するこだわりも感じられる。初代シティはドアミラーよりフェンダーミラーの方がしっくりくると思う。
さて、気になるハイパーシフトの走りを体感するため、さっそく試乗に出かける。言うまでもなくシフト操作は通常の4速MTで、変わったことはなにもない。エンジンはカタログスペックで68ps/10.0kgmと非力に思えるけど、わずか700kgという車重のおかげでゼロ発進から軽快に加速する。
早めに3速までシフトアップして、目の前の微妙な上り坂に差しかかったところでアクセルペダルを踏む右足に力を込めると…間髪入れずに3速Loモードに入ってグイッと加速。インパネ内のインジケーターが点灯して視覚にも訴えてくる。あまりにもスムーズな切り替わりにちょっと拍子抜けする。
フロアから生えるシフトレバーのアップ。シフトパターンをよく見ると、2~4速の右側に黒と緑の四角が確認できる。黒はHi(通常)モード、緑はLoモードを表す。これがハイパーシフト車の証だ。
シチュエーションを変えて2速や4速でも試してみたけど、ハイパーシフトがスゴイのは変速ショックがほぼ皆無なことに加え、「ここで加速してほしい」というタイミングでアクセルを踏み込むと、自分の意識とズレることなくLoモードに切り替わるってことだ。
また、平坦路での高速巡航時など、状況によってはキックダウンが煩わしく思うシチュエーションもあるはず。そんなときはインパネに設けられた『4MT』スイッチをオンにすると、キックダウン機能がキャンセルされ、一般的な4速MTとして走れる。
ま、早い話、ハイパーシフトは2~4速でキックダウンするMTってことだ。4速なのに実質7速として使えるこのメカニズムは、アンダーパワーな小排気量のコンパクトカーでこそ有効だし、アクセルコントロールで自在に操れるのが素晴らしい。それを30年以上も前に実用化して、今でも違和感なく乗れるってことは、それだけ完成度が高かったという証だ。
また、足回りはたっぷりしたストロークでしなやかに動くし、ノンパワステゆえ、タイヤの状況もステアリングを通してダイレクトに伝わってくる。さらに、取材車両はタイヤサイズを標準の165/70R12から145/80R12に落としてることで、ステアリング操作に対する軽快感も増してるように思えた。
80年代に各メーカーが競って実用化を目指した時代先取り的な電子デバイスってのはたくさんある。ところが、それらは得てして“オモチャの延長線上にあるモノ”か、あるいはドライバーの意思を置き去りにした“技術先行型のモノ”か、どちらにしても使いモノにならないのが大半だった。
けど、ハイパーシフトにはそういった思いを一切抱くことがなく、機能的かつ実用的で、純粋に「メカニズムとしてすげぇ!」と感服した。と同時に、これまで自由な発想力と優れた技術力を土台に斬新な機構やデバイスを生み出してきた、ホンダらしさを象徴する最たる例のひとつだとも思った。
■SPECIFICATIONS
車両型式:AA
全長×全幅×全高:3380×1570×1470mm
ホイールベース:2220mm
トレッド(F/R):1370/1370mm
車両重量:700kg
エンジン型式:ER
エンジン形式:直4 SOHC
ボア×ストローク:φ66.0×90.0mm
排気量:1231cc 圧縮比:10.0:1
最高出力:67ps/5500rpm
最大トルク:10.0kgm/3500rpm
トランスミッション:副変速機付き4速MT
サスペンション形式:FRストラット
ブレーキ(F/R):ディスク/ドラム
タイヤサイズ:FR165/70SR12
PHOTO&TEXT:廣嶋健太郎(Kentaro HIROSHIMA)
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