メルセデスAMGのSクラスに新たなラインアップが加わった。米・ロサンゼルスで、GQエディターの岩田桂視がテストした。
LAX
濱田龍臣が、新型レクサスRXに触れた!──連載:CAR OBSESSION
6月某日、メルセデスAMGの新型Sクラスのテストドライブを行うため、アメリカ・ロサンゼルスへ向かった。その日の羽田空港の国際線ターミナルは月曜にも関わらず、多くの搭乗客でごった返していた。ぼくが利用したデルタ航空会社のラウンジはいっぱいで、カウンターに設置された自動サーバーを使ってエビスビールをグラスに注ぐのにも並ぶ。制限区域内のフードコートも長蛇の列だった。ガラガラだった空港がもはや懐かしい。
約10時間の飛行を経て、LAX空港に到着した。こちらの混雑ぶりは羽田の比ではない。ターミナル3の車寄せは飛行機から降りてきた客をピックアップするクルマで溢れる。場所柄、テスラやメルセデス・ベンツEQS、BMW iXなど、BEVが多数を占めるかと思いきや、まだまだランボルギーニのウルスやフォードのピックアップなどの内燃機関を搭載したクルマもある。いずれにせよ、日本で高級車とされるクルマが目立っていた印象だ。
ホテルにチェックインし、翌朝、キーを受け取った。天候はうす曇り。ここ数日は雨も降っておらず、ドライな空気が日本と違って心地よい。宿泊先の「Santa monica Proper Hotel」を出発し、セントラルマリブにあるメルセデスAMGのヴィラを目指す。
AMGの力今回試乗した「メルセデスAMG S63 Eパフォーマンス」は、2022年12月に発表された。4.0リッターV型8気筒ガソリンツインターボエンジンに高性能モーター(140kW)を組み合わせた、プラグイン・ハイブリッドモデルだ。0~100km/hは3.3秒で、最高速度はオプションの「AMG・ドライバーズ・パッケージ」を選ぶと、290km/hにまで達する。
ドライバーシートに座ると視界が広い。走っていたパシフィック・コースト・ハイウェイが横長だから、という理由だけではない。センターコンソールは物理スイッチがほぼなく、フラットな大型タッチパネルなので、視界は全体がなめらかな印象だ。
なめらかといえば、巡航中の乗り心地も非常にスムースである。路面にギャップがあれば、そつなく受け止めるし、荒れた道でも不快さや、スポーツカーのようなソリッドな入力はない。諸元表にある最高速度や総トルク1430Nmなんて話とは縁が遠そうに思える。しかし、ハイウェイを降り、サンタ・モニカ・マウンテンズの山道にさしかかるとメルセデスAMGらしさを発揮した。
このあたりはいわゆる“山の細道”が続き、ヘアピンはもちろん、角度のきついカーブが続く。しかしながら、乱暴にハンドルを切ってもぐいぐい曲がるし、足まわりも粘るようにふんばる。一瞬、自分の運転がうまくなったのかと錯覚するほどだ。エアサスペンション「AMG ・RIDE・CONTROL+・サスペンション」の恩恵なのだろうか。または「AMG・ACTIVE・RIDE・CONTROL・ロール ・スタビライザー」の為せる技なのか。調子づいて3000rpm以上踏み込むと、AMGの咆哮が唸りをあげる。それでもまだ曲がる。
二律背反メルセデスAMGヴィラに着いて、小休止し、もう一度周辺を走る。山道でのテストドライブは刺激の強いジェットコースターのようであった。これまでのラグジュアリーサルーンとしての品の良さは鳴りを潜め、メルセデスAMGらしい力強さは自分のなかの活力を刺激した。
ホテルへの帰路、走り疲れたぼくはパシフィック・コースト・ハイウェイを途中で降り、近くにあるショッピングモール「マリブ・カントリー・マート」に寄った。ここにはガレージハウスのような外観の「RRL」のストアや、「クロムハーツ・マリブ店」がある、いわば“お金持ち”たちのショッピングスポットだ。周囲のパーキングエリアには、BMW i7の姿もあれば、ポルシェ タイカン クロスツーリスモの姿もある。スタイルのないクルマはお断り、といったところか。パーキングに停めたメルセデスAMG S63 Eパフォーマンスは、当然見劣りせず、むしろひときわアンダーステイトメントで上品な存在感を放つ。
ぼくは今回のテストドライブで、ずっとこのクルマは誰のためにあるのだろう、と考えていた。年を重ねたから悪目立ちしたくない、でもスポーティな走行性能を試したい──。中年がこじれると嗜好が二律背反する。いや、こじれたほうが生き方は素敵だ、と思いたい、それは中年でなくても。だから、ある種の二面性を持つ人にフィットするだろう。帰路、再びパシフィック・コースト・ハイウェイを流しながら、そう思った。
編集と文・岩田桂視(GQ) 撮影・岩田桂視(GQ)、メルセデス・ベンツ
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