ジャパンモビリティショー2023に次期型GT-Rを思わせるハイパーフォースが出展されたが、実は今のR35とは違った形のGT-R用に2代目ステージアの2.5Lターボが用意されたという噂がある。その真実とは……?
文/斎藤 聡、写真/ベストカー編集部、日産
知る人ぞ知る真実……実は2代目ステージアの2.5LV6ターボ「VQ25DET」は幻の「V35スカイラインGT-R」用エンジンだったってマジ!?
■ジャパンモビリティショーの日産ハイパーフォースを見て
バタフライドアを採用した日産ハイパーフォースはジャパンモビリティショー2023にサプライズ出展されたが……
2023年のジャパンモビリティショーでひときわ人気を集めていたコンセプトカーの1台が日産のハイパーフォースだった。次期GT-Rでは? と思わず想像を掻き立てられるデザインで、パワーユニットはモーター駆動で1000kw≒1360psを発揮するモンスター。
単なるモックアップのGT-R風ショーモデルなのかと思ったら、空力を含めてびっくりするくらいきっちり作り込んであって、近い将来こんなクルマが登場しても不思議じゃないぞ、と思わせるほどの出来だった。
そういえばR35GT-Rがデビューしたのもこのショーの前身となる東京モーターショーだった。2000年にR35GT-Rの先行開発がスタート。2001年の東京モーターショーでGT-Rコンセプトが発表され、2007年の東京モーターショーでデビューとなった。
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■R35GT-RはFMプラットフォームをベースにするはずだった?
R35GT-Rは水野和敏氏(左)が開発責任者として2007年に誕生。開発ドライバーは鈴木利男氏(右)
先行開発の段階では、R35GT-RはFMプラットフォームをベースに検討されていた。しかし、2003年にスタートしたGT-Rの開発プロジェクトになるとスカイラインGT-Rではなく、日産GT-Rとなり、性能的にもそれまでの第2世代GT-R……R32、R33、R34GT-Rとはまったく別モノのスーパーカーになっていた。
1999年6月、COO(最高執行責任者)として日産入りしたカルロス・ゴーン氏は、日産リバイバルプランを掲げて大胆な経営改革に着手。その結果、1998年に約2兆円あった有利子負債を2003年に1年前倒しで全額返済して公約を果たした。
ゴーン氏は、続いて中期計画「日産180」を掲げ、攻めの経営に転じる。そのためのブランドシンボルとなるクルマとしてGT-Rが据えられた。開発もカルロス・ゴーンCEO直轄のプロジェクトとして進められることになった。
■ターニングポイントとなった2000年排ガス規制の頃に1基の2.5Lターボ誕生!
1999年1月に誕生した第2世代最後のR34型スカイラインGT-R
R34スカイラインGT-Rは1999年1月に登場し、2002年12月に生産を終了する。2002年という年は日本のハイパースポーツにとって最悪の年だった。80スープラ、FD型RX-7、S15シルビア、そしてR34スカイラインGT-Rなど、名だたる国産スポーツカーが姿を消すことになったからだ。
これは平成12年(2000年)に施行された平成12年排ガス規制によるものだった。既存の生産車は2年の猶予期間が設けられていたが、これをクリアすることはできず該当年となる2002年に前述した多くのハイパー(ターボ)スポーツカーは生産終了に追い込まれたのだ。
そんな時期に1基の不思議なエンジンが存在した。2001年に登場した2代目ステージアに搭載されていたVQ25DET型エンジンだ。2.5LのV6DOHCターボで最高出力が280ps/6400pm、最大トルクは41.5kgm/3200rpmを発揮。
■R34GT-RのRB26DETTを上回るスペック!
2代目ステージアに新開発で用意されたV6、2.5LDOHCターボのVQ25DET。最高出力280ps、最大トルクはR34GT-Rを上回る41.5kgmを発揮していた
このパワースペックはR34スカイラインGT-Rが積むRB26DETTのカタログ数値(280ps/40.0kgm)を上回るものだった。巷ではドッカンターボと評されていたが、その分ターボを効かせて迫力の加速性能を見せるタイプのエンジンだった。
不思議なのは平成12年規制が施行され、平成17年(2005年)には当時世界一厳しいと言われた平成17年排ガス規制=新長期規制が控えているのに、なぜこのタイミングでターボエンジンを新開発したのかということだ。
初代ステージアは1996年に登場。翌1997年10月、ステージアにR33GT-Rのパワーユニット及びリアサスペンションを移植したオーテックバージョン「260RS」が登場する。
性能的にGT-Rのワゴンバージョンといった位置づけだったこともあって、高価だったにもかかわらず前期型1000台、後期型700台をあっさり売り切るほど好評を博した。だから自然な流れとして次期ステージアにもGT-R用エンジン搭載モデルが用意されていたとしても違和感はない。
次期スカイラインとなる、V35スカイラインもFMプラットフォームの採用が予定されていたため、RB系の直6エンジンではなく、V6のVQ系エンジンが搭載されることが決まっていた。
■ある時期まではVQ25DETがR35GT-Rの心臓部だった?
本来ならV35スカイラインGT-R用のエンジンとして開発されたV6、2.5Lターボは2代目ステージアに採用されることに
そう、実はVQ25DET型はある時期まで次期(スカイライン)V35GT-R用のエンジンとして開発されていた。
R34スカイラインGT-Rは1999年1月にデビュー。2000年に施行される平成12年排ガス規制を考えれば、既存のターボエンジンでは生き残ることができないから、次期GT-Rに搭載することも視野に入れ、かつ平成12年規制がクリアできる2.5L前後のターボエンジンとして開発されていたのだ。
FMプラットフォームの開発は1995年頃から始まったといわれているから、R34スカイライン(1998年~)の次のモデル(V35スカイライン)にこのプラットフォームが採用されることが考えられており、搭載するエンジンも直6からV6になることもほぼ同時期に決まっていたはず。
1995年当時、バブル崩壊と言われながらまだ実感がなく、バブルの大きな慣性力で世の中が動いていた頃。日産は気づけば2兆円の有利子負債を抱え、経営危機に瀕するところまで追いつめられていた。
■スーパーカーとして登場の現行GT-Rの前に想定されたGT-R用エンジンだった!
スカイラインGT-RとしてGT-Rが設定されることはないまま終わったV35スカイライン
そこから1999年にカルロス・ゴーン氏が日産入り奇跡の立て直しを成功させるまでのほんの数年間。その狭間に280psを継承する次期V35スカイラインGT-Rへの搭載を想定して開発されたのがVQ25DETだったのだ。
事実として、2001年に発表されたGT-RプロトタイプはFMプラットフォームの採用を想定したものだった。
つまり、スーパーカー=日産R35GT-Rとしてプロジェクトが始動するまでの空白の時間に、VQ25DET型エンジンは次期スカイラインV35GT-R用パワーユニットとして企画され、開発されたのだ。
■幻の「V35スカイラインGT-R」のエンジンとして誕生したのだった!
筆者曰く、2代目ステージアのターボエンジンはアクセルを踏み込んだあとに強烈な加速感がくる古典的ターボ特性だったという
VQ25DETというエンジンの記憶を辿ると、2代目ステージアのアクセルを深く踏み込むと後から強烈なターボパワーが追いかけてくるような、古典的なターボ特性を思い出す。当然アンバランスなターボパワーはチューニングによるパワーアップを想定したものだったはず。
実は2001年に2代目ステージアがデビューしてしばらくしてから、日産関係者からこんな話を聞いた。
「もともとステージアの2.5LターボはGT-Rに搭載することを想定して作っていたんですよ。だから、いろいろなところがオーバースペックに作られているんです」
もう一度言おう。VQ25DET型エンジンは、幻の「V35スカイラインGT-R」用エンジンとして開発されたエンジンだったのだ。
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