熟成を重ねてF20Cエンジンベースで1000馬力に到達!
筑波51秒762をマークするトップガン!
「国内主要サーキットを席巻した伝説のS2000」1000馬力の強心臓と専用の空力デバイスで戦い続ける
時は2005年。当時、国内シーンを席巻していた筑波スーパーラップを攻略するべく、ホンダチューニングのオーソリティであるトップフューエルが文字通り全霊を賭けて創出した戦闘機、それが“S2000-RR”である。
以来、時代の変化に合わせてターゲットステージを変えながら成熟度を増し続けているわけだが、その過程で、筑波(51秒762)、富士(1分40秒195)、岡山国際(1分27秒887)、鈴鹿(1分59秒936)の各サーキットでFR最速タイムを樹立。さらに、オートサロン・カスタムカーコンテスト最優秀賞を獲得するなど、数々の伝説を打ち立ててきた。
また、2012年からは、ワールドタイムアタックチャレンジ(WTAC)を主戦場と定めて、世界基準のチューニングを推進、チューンドS2000としては完全にワールドクラスと呼べるレベルに到達した。
パワーソースは2.2L+GT3540タービン仕様からスタートし、2013年に2.35L+GTX3582Rタービン仕様へとアップデート。その後、小変更を繰り返しながら完成度を高め、2016年にドーピングアイテムとしてNOSを投入。そして2018年にタービンをGTX3582R GEN.IIへと風量アップさせ、NOSとの併用で1000psに限りなく近いモンスターユニットへと進化を遂げたのだ。
なお、エンジン本体はバルクヘッドを加工した上で、低重心化および重量配分の最適化を狙って50mmほど車体中心方向にオフセット。そうして確保したストラット前スペースには超大型のインタークーラーが水平でマウントされる。
NOSは200psのエクストラパワーを得られるサイズを打ち込んでいるが、当初はタービンのアシスト役という位置付けだった。しかし、専属ドライバーである谷口信輝選手の要望もあって、徐々に全域で噴射するようになっていく。つまり1000psの常用である。
その負荷にエンジンは耐えられず、2017年以降のアタックでは走るたびにガスケット抜けが発生するという事態に…。
「いろいろ検証した結果、強化スリーブが原因ということが分かりました。 1000馬力の爆発圧力が高すぎて動いてしまうんです。無加工の純正ブロックにしたら症状が治りました」とは、S2000RRの開発をメインで担当するトップフューエル中川メカ。
そもそも、ピストンが摺動するブロック内壁は鉄材の強化スリーブで、それをアルミの鋳物が取り囲むように形成している。この素材の違いによる熱膨張差は避けられない上、超パワーが生み出す爆発圧力は想像を遥かに超えていたというわけだ。
S2000RRはレーシングカーではない、チューニングカーだ
戦いはまだまだ終わらない
1000ps近い超パワーを路面に押え付けるべくエアロエフェクトも徹底され、フロアのフラットボトム化はもちろん、上部もボルテックスの手により専用設計されたタイムアタック用の過激なエアロシステムを装備。
同メーカーは、国内外のタイムアタックシーンに最先端の空力デバイスを投入し続けている名門。フロントセクションの複雑なスプリッターやカナード、サイドのエアダクト形状、リヤの超大型GTウイングなど、全てはマシンの走行性能を引き上げるための武器であり、これらは三重大学での実車風洞テストを経て誕生した“ホンモノ”なのだ。
強大なダウンフォースを支えるためのサスは、筑波アタック時から引き続きジールのスーパーファンクションを使用し、ストロークは規制する方向でセットアップ。現状のバネレートは26kg/mm、32kg/mm。アームはフルでイケヤフォーミュラ製に変更されている。ブレーキは前後にエンドレスのモノブロック製4POTを装備。
デフケースはS2000純正ではとても持たないため、容量が大きくファイナルギヤの選択肢も豊富なFD3S用を使う。ドライブシャフトはS2000用だがシャフト径を太くしたオリジナルだ。ナックルは割れ対策で溶接増しを敢行している。
室内はダッシュボードまでカーボン化。シート後方にはATLの燃料タンクを配置する。ロールケージやガゼット補強などでボディ剛性を高めているため、重量は1140kgと思いのほか軽くない。
助手席側に設置されているタンクはドライサンプ用、その後ろにはNOSボンベが配備される。シフトゲート横に確認できるレバーはスタビライザーの調整用で、状況の応じてドライバーが室内から前後スタビのバネ定数を可変させることができる。
タイヤはアドバンA050で前後とも295/35-18をセレクト。ホイールはアドバンレーシングGTの11J+15を通しで履く。
その他、ギヤ比が最適化されたホリンジャー6速シーケンシャルや295サイズのSタイヤを使い切る前提でセットアップされた足回り、そして剛と柔を高次元でバランスさせた軽量ボディなど、基本コンポーネンツこそS2000のままだが、全方位に渡って“サーキットをコンマ1秒でも速く走る”ための魔改造が施されている。
ただし、このマシンはあくまでチューニングカーである。アームの取り付け位置は変更されていないし、ボディもスポット増しやロールケージによって補強されているが、パイプフレーム化など一切されていない。エアロパーツも大半がFRP製なのだ。
「もともと筑波55秒を目標に作ったマシンですからね。今時のタイムアタック車両に比べたら普通かもしれません。究極を目指すならエンジンはF型ではなくK型にしたいし、ボディももっと軽くしたい。でも、ここから先はレーシングカーの領域になってしまう。チューニングカーでどこまでいけるか、それがトップフューエルの考えです」。
過熱の一途を辿るタイムアタックシーン。最前線のマシンメイクはレーシングカーを超える域にまでエスカレートしており、それらと比べるとS2000RRは旧時代の作品なのかもしれない。それでもトップフューエルはアタックを続けていく。チューニングカーの誇りを胸に。
●取材協力:トップフューエル 三重県松阪市中道町500-1 TEL:0598-56-5880
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