1991年登場のスバル「アルシオーネSVX」に、小川フミオが約29年ぶりに試乗した。印象はいかに?
キャッチコピーは“500 miles a day”
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今回紹介するスバル「アルシオーネSVX」は、バブル経済まっさかりの1991年に登場し、バブル崩壊後の1996年に生産中止。登場したときはビックリした。
なにしろカッコいい。スタイリングを担当したのはジョルジェット ジュジャーロ率いるイタルデザインだ。そのボディに3318cc水平対向6気筒ガソリンエンジンという、ポルシェの向こうをはるようなエンジンを搭載。駆動方式は、電子制御の可変トルク配分タイプのフルタイム4WDシステムだった。こうなると、ポルシェも「911」でなく、少量生産されパリダカでも活躍した「959」になる。
アルシオーネSVXは、スバルが持てる技術(当時)を注ぎ込んだクルマなのだ。べつの言い方をすると、水平対向エンジン+フルタイム4WDという技術的な優位性を誇る、世界に類のないスペシャルティーカーだった。
競合は……私は、マツダが1990年に発売した、3ローター エンジンにシークエンシャルターボチャージャーを装着した「ユーノス コスモ」を思いつく。これもすごいクルマだった。燃費がリッターあたり4kmぐらい。“速く走る代償だからしかたない……”という時代だった。
今回、試乗したアルシオーネSVXは、登場当時から大好きだったという、岡田貴浩さんが、2019年に手に入れたものである。岡田さんは、SUBARU(当時は富士重工業)で広報部上級担当部長兼 経営企画本部上級担当部長を務める。
久しぶりに乗ったら、トルクがたっぷりあるうえに、よくまわるエンジンと、路面の凹凸をていねいに吸収するサスペンション システムを装着しているのはすぐわかった。東京から千葉の海岸まで走ったかぎり、じつに快適。
私は忘れていたけれど、当時、日本市場では“500 miles a day”というのがアルシオーネSVXの特徴として、テレビ コマーシャルで喧伝されていたという。1日500マイル(約800km)は楽勝で走れる快適なグランツーリスモが開発目標だったそうだ。
岡田さんは、スバリストにはよく知られた岐阜にある中津スバルでこの個体を見つけ、すぐ購入に踏み切ったという。納車後、岐阜から東京までほぼノンストップで走って、まったく疲れなかったという。”ほぼノンストップ”としたのは、給油をしなくてはならなかったから。
そういえばメーカー発表の燃費は、当時の10・15モードでリッターあたり8km。「日常ではリッター7kmいきます」と、岡田さんは教えてくれた。
ノンストップで500マイル走れるというのは、燃費はさておき、疲労に関するたとえだ。まったく不思議でない。シートクッションは厚く。しかも振動の吸収性にすぐれているようだ。見かけは2プラス2のクーペスタイルだけれど、後席におとな2人が乗れるスペースもあり、かつ、乗り心地もよかった。
風切り音も意外なほど少なくて、「ぜいたくなクルマづくりが出来た時代は、エンジニアもしっかりと仕事が出来るんだなぁ」と、思い知らされた。
トップの意向でつくられたアルシオーネSVX
1984年に富士重工業に入社した岡田さんは、じつは、新車でもアルシオーネSVXをかつて購入されたという。でも当時は「若くて(給料もそこまで充分でなく)ガソリン代などの維持費がネックになり、途中であきらめました」と、笑っていた。
「1985年、日本興業銀行出身の田島敏弘が富士重工業の代表取締役社長に就任しました。田島社長は、米国市場をしっかり見据えたクルマづくりの必要性を説いて、テストコースもちゃんとしたものを作り、初代レガシィ(1989年登場)の開発を陣頭指揮したんです」
その流れでSVXも開発されました、と、岡田さんは述べる。
スタイリングも、イタルデザインへの発注こそアルシオーネSVX以前もあったというが、まるごとの発注は初めてだったという。
「世界に通用するクルマを……ということで、外部の力を借りてでも完成度の高いデザインを目指したんですね」
今回、撮影のため海のちかくにクルマを停めた。クルマの向こうは明るい海。キャビンが、まるで透明度の高いグラスハウスのように見える。
ジュジャーロの望みは、ルーフにもガラスをはめこむデザインだったという。それは採用されなかった。とはいえ、4625mmの全長に対し1300mmの全高という低くかまえたボディは、ブラックで塗装されたルーフでも充分にスタイリッシュに見える。
「アルシオーネSVXのような流麗な2ドア クーペがSUBARUから復活しないものか……」
SUBARUは現在、「BRZ」と呼ぶ2ドア クーペを持つ。トヨタと共同開発したモデルだ。ただし、アルシオーネSVXと異なり、スペシャリティ クーペではなくスポーツ クーペ。ロングドライブよりはサーキットが似合うクーペだ。
現行BRZは2012年登場だから、今年で約8年目。次期モデルの噂もちらほら出ている。2021年登場とうわさされる次世代のBRZは、より洗練の度合いが高まったクーペともいわれる。
願わくは、アルシオーネSVXのように、ちょっと無駄? とも思える余裕を、エンジンでもドライブトレインでもスタイリングでも感じられるようなモデルでありますように。
過去のアルシオーネSVXは、そんなふうに未来への期待をつないでくれたのだ。
文・小川フミオ 写真・安井宏充(Weekend.)
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みんなのコメント
いいなぁ
なでだろう夢がある
いずれにせよ、大事に手を加えられた個体であることには間違いない。