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現役プロドライバーが指摘! マツダ最新のCX-60を通して考える、マツダの考える「人馬一体の乗り味」の究極の理想とは?

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現役プロドライバーが指摘! マツダ最新のCX-60を通して考える、マツダの考える「人馬一体の乗り味」の究極の理想とは?

 マツダ期待のラージFRモデルである新型SUVのCX-60。マツダ車はロードスターをはじめ、マツダ2、マツダ3、CX-30、CX-5、MX-30などなど、すべてのモデルに通じる「人馬一体」のコンセプトを掲げていることが大きな特徴だ。

マツダの人馬一体は安全・安心から始まる――とは、同社開発本部の松本浩幸副本部長(2016年3月当時の役職)の言葉だが、これはいったいどういうことなのか? 現役プロドライバーのハル中田氏がエンジニアの視点から紐解いてみた。

現役プロドライバーが指摘! マツダ最新のCX-60を通して考える、マツダの考える「人馬一体の乗り味」の究極の理想とは?

文/ハル中田、写真/マツダ、ベストカー編集部、図/ハル中田、マツダ

■『クルマとダイレクトにつながり、普通の運転が心地いい』が今の人馬一体

マツダ車の考えるシートについて人間工学上の理想図。骨盤がしっかり立ち、体圧が適切に分散される支持バランスが重要となる

 マツダ車の魅力はなんといっても「人馬一体」である。しかし、そもそも人馬一体とはなんだろうか? マツダが社運を賭けて送り出してきたCX-60にも受け継がれているのだろうか? 今回はプロドライバーかつ人間工学を重視するエンジニアの目で、少し特殊な観点から掘り下げてみたい。

 世界のあらゆるクルマを見渡してみても、今のマツダ以上に「クルマと一体になれるシンプルな気持ちよさ」を重視している量産メーカーはないと感じる。そこが人馬一体のキモとなる。

 しかし、モノや情報があふれる現代。自動車業界でも加飾デザインやスペックや技術喧伝が盛んななかで、「シンプルな気持ちよさ」は果たして市場に理解され、選んでもらえるのか? そこがCX-60の成功のカギになることだろう。

 ここ最近のマツダ車全般に言えることだが、CX-60においてもまず感心するのは運転席に座った瞬間だ。とにかくシートがいい。骨盤は正しい位置で支えられ、「背筋がスッと伸びた状態」で座れるのである。座面の圧力分布も適切で長時間座っていても疲れない。

 ドライビングポジションも素晴らしい。一般的に、縦置き高出力エンジンはトランスミッションも大型となるため、足元のセンタートンネルが太くなる。しかし、CX-60はなんと、それを避けるために新規に小型8段ATと湿式多板クラッチまで開発したのだ!

マツダが提唱する理想のドライビングポジションはペダルスペースの確保が前提とされている

 これは本当に凄い。コストを考えればマツダくらいの規模の企業が自前で開発するなどありえない。そこまでして「理想のドライビングポジション」を作り上げることにこだわったのだ。

 また、つくづく感心させられるのは視界デザイン。「見せる情報の断捨離」が素晴らしい。メーターとディスプレイ表示はシンプルに白基調でアクセントカラーも最小限。せっかくのハイブリッドならばその作動状況でも入れたくなるところだが、いっさい排除している。

CX-60のインパネ

 例えば、極限状況であるモータースポーツでは、ドライビングに集中するために本当に必要な情報のみドライバーに映し出すようにされている。余計な情報に気を取られようものなら即クラッシュにつながるからだ。

 それは一般道運転でも同様で、複雑な周囲の交通状況や標識にも気を配らないといけない公道では、ノイズを廃したコックピットデザインにするべきだ。マツダはそれを理解し、実践している。

 もちろん走っても素晴らしかった。「すべての入力に対して線形に反応する」ことは特筆ものだ。

 運転は「認知→判断→操作」というフィードバック制御だ。加えて操作の段階においては「このカーブならこれくらいハンドルを切ればいいだろう」というフィードフォワードも入っている。そこからさらに「思ったよりも曲がらなかった。もうちょっと切ろう」というように、フィードフォワードの結果をフィードバックで連続的に修正していくのが運転だ。

 もし、予測操作に対するクルマの反応がある時は動き過ぎたり、またある時は動かなかったり、とバラバラだったらどうだろうか? 非常に運転しづらいだろう。入力に対して常に同じように反応するという「線形性」が運転においては非常に重要なのだ。

ドライビングの入力と出力の関係性について(図/ハル中田氏)

 CX-60はこれがさまざまな状況において高いレベルで確保されている。綺麗な路面だろうが、荒れた路面だろうが、上り坂だろうが下り坂だろうが、常に同じような感覚で運転できるというのは特筆すべき点だ。

 乗心地のなかにも感じる。小さい入力は小さいショックとして、大きい入力は大きいショックとして、変に隠さず「路面は今こうなってますよ」と過不足なく伝えてくるイメージだ。これぞ、マツダの謳う身体拡張であり、シンクロの持続だろう。

 これはシンプルなようでいて難しい。路面からの入力はタイヤ→ホイール→サス→ボディ→シートと多くの部品と経路を介してドライバーに伝わる。そのなかでどこか一箇所でも局所的な弱さが有ると線形性を保てない。

 実車を眺めてみても素性のよさは垣間見える。例えばフロントのロアアーム。スムーズな作動のためにボディ側二箇所のゴムブッシュを前後軸方向に置く。そのままでは組み付けできないためになんと分割式だ。しかも横方向の入力を受け持つ前側はアルミで高剛性に、NV性能に寄与する後ろ側は比べるとしなやかな特性の鉄製。「そこまでやるか!」と驚嘆する。

 このように「シートに座って、ちょっと運転して、ちょっと見ただけ」でCX-60のこだわりとポテンシャルを強く感じることができる。これはもう素直に感動するしかない。

■「シンプルな気持ちよさ重視」で犠牲にしたもの

ハル中田氏がマツダ3を試乗した際、高速で100km/hを超えると外乱に対する落ち着きが不足していたという

 では、どんな場面でも万能かと言うと、やはりそんなことはないだろう。特徴的な「しなやかによく動くハンドリング」性能はそれこそ駐車場のような極低速からワインディングでの普通の運転領域で発揮されるよう。合わせ込みされている印象だった。

 その背反として高速域にしわ寄せがくる。CX-60では未確認だが、例えばCX-30やマツダ3では時速100kmを超えると外乱に対し、フワフワして落ち着きが不足していた。サーキット走行ではいわゆるスポーティな走り味とは違った。CX-60でも同じ傾向になることが予測され、実際に限界域ではリアの踏ん張りがやや物足りない印象だった。

 メーターディスプレイ表示で触れたような「本当に必要なモノのみ残したシンプルなよさ」は、世間一般の「盛りだくさんのお得感」とは反対を向いている。この点は「玄人好み」とも言えるだろう。

■今のマツダの人馬一体とは「クルマと一体になれるシンプルな気持ちよさ」

ロードスターの乗り味がSUVでも味わえるのがCX-60のドライビングエンタテインメントだという

 クルマの本質的なよさを追求するCX-60は、求道者のような存在だ。その孤高さはもしかしたら多くの人には理解されないかもしれない。しかし、身体拡張コンセプトは自らの身体を研ぎ澄ませたアスリートには響くものがあるだろう。引き算の美学はアーティストやデザイナーの琴線に触れると確信する。

 しかし、何よりも「細かい蘊蓄よりも、人馬一体な運転をシンプルに楽しみたい」というドライビング愛好家には必ずや満足してもらえるだろう。「クルマと一体になって駆け抜ける喜び」を、このクルマは普段の日常の運転で味わえるのだ。

「アフォーダブルなスポーツカー」であるロードスターの乗り味が、より人も荷物も載せられる利便性の高いSUVで味わえるのだ。「ドライビングエンタテインメント」、その謳い文句そのままに。

著者/ハル中田(国内海外の開発事情にも詳しいプロドライバー兼エンジニア。レース経験や人間工学も踏まえたコックピットまわりのデザインと走りの評価に一家言あり。サスペンションやタイヤに詳しく、ドイツのニュルブルクリンクを走るのが三度の飯より好きだという)

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