中国を、いや世界を代表する電気自動車メーカーであるBYDが、いよいよ日本にやって来る。パイロットモデルとして導入されたSUVの「ATTO 3(アットスリー)」に試乗することができたので、その印象を紹介しておこう。
その車名は10のマイナス18乗分の1秒!という時間単位に由来
BYDについては、以前に当Webモーターマガジンでも紹介しているのでここでは多くを語らないが、中国の深圳に本社を構える、いまや世界最大の新エネルギー車(NEV)メーカーだ。
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そんなBYDが2023年1月に日本での発売を予定しているミドルサイズe-SUV(と、BYDでは呼んでいる)が、ATTO 3だ。その車名は、物理学で測定可能な最短の時間単位「アト秒=100京分の1秒=10のマイナス18乗分の1秒」に由来する。EV(電気自動車)ならではの好レスポンスを予感させてくれるネーミングだ。
BYDではミドルサイズと謳っており、全幅は1.85mを超えてワイドだが、全長は4.5mもないから、Cセグメントに相当する大きさで、日本の街中でも扱いやすい。同じようなSUVでは、レクサス UXやボルボ XC40、メルセデス・ベンツ EQAあたりがサイズ的に近い。
さて、アウディ出身のウォルフガング・エッガー氏がデザインしたというATTO 3は、ヨーロピアンテイストを感じさせてスタイリッシュだ。抑揚のあるボディサイドに、ヘッドランプの間をガーニッシュで繋いでグリルレスのEVらしさを控えめにし、テールランプは最近流行の一文字タイプ、そしてCピラーのガーニッシュがアクセントとなっている。いわゆるクーペSUV風のATTO 3のスタイルは、日本でも好まれるのではないだろうか。
インテリアは2トーンで明るい雰囲気だ。ダッシュボード中央には12.8インチのモニターが備わり、ステアリングホイールのスイッチで90度回転させてタテでも横でも使える。ドライバー正面のメーターパネルは比較的小さく、エアコンの吹き出し口やオーディオのスピーカーと一体のドアオープナー、ドアポケットなどにユニークなデザインも用いられている。それでもシフトレバーは比較的コンベンショナルな形状だし、普通の?クルマから乗り換えてもインターフェースに違和感はない。
クーペSUV風のスタイルだがリアシートはフット&ヘッドスペースとも十分にあり、ラゲッジスペースはリアシート使用時でも440Lあるから、おとな4人の一泊旅行くらいの荷物は問題なく積めそうだ。
なお、今回の試乗車は日本導入前のパイロットモデルのため、オーストラリア仕様を並行輸入したものだ。現在、日本での販売開始に向けて進められているADAS(先進運転支援システム)や急速充電の検証が完了次第、これらの機能についても、あらためて試してみたい。
EVならではの加速感と静かな走りが味わえる
運転席に座り、シートベルトを締めて、ブレーキを踏んでセンターコンソールのスタート/ストップ ボタンを押せば、ATTO 3のシステムは立ち上がる。そのままシフトレバーを手前に引いてDレンジに入れ、アクセルペダルを踏めば静かに発進する。ウインカーレバーは右側に移されているので、初めての輸入車でも違和感は少ないだろう。
センターコンソールのスイッチでドライブモードはノーマル/エコノミー/スポーツに切り換えられる。アクセルペダルをジワッと踏んだ限りでは、あまり違いは感じられないのだが、踏み込み量を大きくすると加速の差は顕著で、とくにスポーツでアクセルをベタ踏みすると、パワフルなEVらしい(0→100km/h加速は7.3秒とアナウンスされている)ダッシュを見せる。逆にエコノミーでも市街地を普通に走っている限りは十分なパフォーマンスを発揮する。
センターコンソールには回生ブレーキの効きをスタンダード/ラージに切り換えられるスイッチもあるが、あまり大きくは変わらない。また、回生時の減速Gは比較的弱めだった。日本の市街地では、もう少し回生が効くモードが欲しくなるところだ。
今回、モーターマガジン誌の撮影取材用に車両を運ぶため、横浜のBYD Auto Japan本社から箱根の山まで、高速道路や急な登坂路(帰りは下り坂)、少しのワインディングロードと、さまざまなシチュエーションで走ることができた。全体的な印象としては、「これ、けっこうイケるんじゃないの!」と感じさせるものだった。
乗り味は比較的ソフトだが、高速道路の継ぎ目などを上手にいなしてくれて、乗り心地はいい。ハンドルは少しスローで、コーナリングなどでは思ったよりもハンドルを切り込むこともあるが、そのぶん操舵感は軽く、ワインディングロードを攻めるような走りをしない限り不満はない。それでも、バッテリーをフロアに敷き詰めたEVならではの低重心のおかげで、けっこうコーナリング速度は速いのだが。
市街地でも高速でも走行中の室内はきわめて静かで、加速時のモーター音が独特だが耳障りではない。前述のようにオーストラリア仕様のためカーナビやラジオは使用できなかったが、スマホをブルートゥースでリンクできたので、カーナビはスマホのアプリで、オーディオも自前の音楽を楽しむことはできた。また、音楽に合わせて車内イルミネーションの色が変化して、ナイトドライブを楽しませてくれる。
往復300km以上のドライブでも充電せずにこなす
今回、借り出し時に表示されたバッテリー残量は96%、走行可能距離は462km。横浜から箱根を往復して約180kmを走行し、返却時のバッテリー残量は43%、走行可能距離は204kmと表示された。取材日は小雨のパラつく天気で、エアコンは入れっぱなし。ドライブモードはエコノミーをメインとしながらも、いろいろと試しながら乗っていた。乗員は、ほとんど一人。
EVの実質走行可能距離はWLTCモードの約7割と言われているから、今回の試乗もほぼそれくらいのデータだった。つまり、ATTO 3はフル充電されていれば、340kmくらいのドライブは充電を必要とせずにこなしてくれる。休日のドライブなどを考えると、やはりこれくらいの航続距離はありがたい。日本仕様ではCHAdeMOの急速充電にも対応するから、より長距離のドライブも安心して楽しむことができるだろう。
BYD Auto Japan では、このATTO 3を皮切りに、コンパクトカーの「DOLPHIN(ドルフィン)」、ハイエンドセダンの「SEAL(シール)」を2023年中に導入する予定だ。ATTO 3の車両価格も2022年11月には発表される。
ATTO 3の出来の良さと性能を考えると、車両価格次第では日本でもヒットする可能性は高い。日本車でも輸入車でも、ライバルとなるEVに与える影響も大きいだろう。いずれにしても、BYDの参入で、2023年は日本のEV市場の大きな転換期になることは間違いなさそうだ。(写真:井上雅行)
■BYD ATTO 3 主要諸元(オーストラリア仕様)
●全長×全幅×全高:4455×1875×1615mm
●ホイールベース:2720mm
●車両重量:1750kg
●モーター:交流同期電動機
●最高出力:150kW
●最大トルク:310Nm
●バッテリー総電力量:58.56kWh
●WLTCモード航続距離:485km
●駆動方式:FWD
●タイヤサイズ:235/50R18
●車両価格(税込):未定
[ アルバム : BYD ATTO 3 はオリジナルサイトでご覧ください ]
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好みは分かれそうだ。