■驚きのスポーティさ? 全面刷新したカローラが与えた衝撃
2019年9月17日にお台場のメガウェブで開催された発表会で、セダンの新型「カローラ」とワゴンの新型「カローラツーリング」がお披露目されました。スポーティな外装デザインが採用されたことが話題となっていて、さらにすべてのモデルにMT仕様が設定されていることが、スポーティ感を演出しています。
しかしMT仕様が設定された理由には、スポーティさ以外に“本当の理由”があったというのですが、いったい何でしょうか。
カローラシリーズの一員であるハッチバックモデル「カローラスポーツ」は、2018年6月にすでに発売されており、2019年9月の「カローラ」と「カローラツーリング」で新世代のカローラ3兄弟が揃ったこととなります。
そしてカローラスポーツを含め、新型カローラシリーズのMT仕様は、1.2リッターターボエンジンに「iMT」と呼ばれる6速MTが採用されており、まさに“最先端のMT車”といえる内容となっています。
「ハチロク」の相性で親しまれた「カローラレビン(AE86型)」など、これまでの派生車のなかにはスポーツモデルもありましたが、やはりカローラといえば大衆車の代名詞でした。そんなカローラが、新型になってより現代的にそしてよりスポーティになったのは、ある種の衝撃を与えました。
発表会ではチーフエンジニアの上田泰史氏が登壇し、MT仕様を設定した理由について次のように語りました。
「個人的なこだわりというと語弊があるかもしれませんが、(運転に)ひと手間加えて『自分でクルマを操る』というところを感じていただきたいと考え、その思いを伝えたかったので、MT仕様を残しました」
また、同じく発表会に登壇したトヨタ自動車の吉田守孝副社長からも、「お客様にクルマを操る喜びを提供したい」という発言が聞こえました。
これらは疑いようのない事実だとは思いますが、上田氏自身もカローラシリーズにおけるMT比率は「5%から10%」と述べているように、決して多いものではありません。ましてや、トヨタほどの大企業が、いくらチーフエンジニアとはいえ「個人的なこだわり」でMT仕様の設定にGOサインを出すとも思えません。
では、なぜ新型カローラシリーズにMT仕様が設定されることとなったのでしょうか。新型カローラシリーズがMTを設定した理由について、発表会の会場にいた関係者は、次のように語ります。
「初代カローラが登場したのは1966年。いまから50年以上も昔です。現在では国内で販売される新車の98%以上がAT車ですが、AT車比率がMT車を上回ったのは1990年ごろであり、当時はまだMTの方が主流であった時代です。
カローラにはやはりご年配のお客様が多く、『クルマといえばMT』という方も少なくありません。時代の流れをうけてカローラも進化し続けていますが、そうしたお客様の需要の受け皿にならなければならない、という矜持のようなものがあるのでしょう。
同じような性格を持ったクルマとして、同じくトヨタの『クラウン』があります。カローラが大衆車の代名詞なら、クラウンは高級車の代名詞として、フルモデルチェンジするたびに『クラウン』という名前を求めて購入されるお客様が多いクルマです。
ただ、クラウンは『トヨグライド』と呼ばれる2速AT仕様車を初代(トヨペット・クラウン)からラインナップするなど、乗用車でもっとも早くATを採用したモデルのひとつであることから、MT仕様にこだわるということはありません。
国内市場のAT化が進めば進むほど、MT仕様車が設定されるモデルが少なくなります。一方で、わずかなニーズも満たすことでシェアを拡大していくというのがトヨタの基本戦略であることを考えると、2%未満のMT市場をこの新型カローラでとりにいくことは決して悪い選択ではないのかもしれません」
■MT仕様を作らざるを得ない理由とは
国内市場において、カローラはわずかなMT需要を満たす受け皿的なモデルとなっているとのことですが、それに加えて、さらにシビアな理由もそこにはあるようです。前述の関係者は次のようにいいます。
「新型カローラで採用されるiMTはトヨタとアイシン・エーアイ(現アイシン・エイ・ダブリュ)が共同開発し、アイシン側で生産されています。新型カローラと同型のトランスミッションは、海外で販売されているRAV4にも使用されています。
ただ、北米市場を主戦場としているRAV4ですが、北米市場全体のMT比率も2%未満であり、市場規模の大きさを考慮してもアイシンの生産余力の範囲内です。
基本的に、製造業は大量生産することで製品ひとつあたりの単価を下げることができます。カローラのようなモデルであればとくに価格が競争力を大きく左右するので、トランスミッションひとつとってもコストを削減させたいものです。そこで、アイシンの工場稼働率を最適化すべき大量のMTを生産する必要があったと思われます。
そのためには、海外で販売されているカローラやRAV4のMT仕様、そして国内で販売されるカローラのMT仕様すべてを同型のトランスミッションで対応し、大量生産によるコスト低減を図ることで、全体のメリットにつなげたのでしょう。
見方を変えると、『操る喜びを感じてほしい』というだけの理由でカローラにMTを設定したとしたら、ビジネス的には成立するはずがありません。
スポーティなイメージを付けることで顧客層の若返りを図りたいというトヨタ側の思惑もあると思いますが、ロジックとしては『スポーティなイメージをつけたいからMT仕様車を設定した』のではなく『MT仕様車を設定せざるを得なかったから、スポーティなイメージのマーケティングをしている』という方が正しいかもしれません」
※ ※ ※
スポーティなイメージがあるMT仕様車ですが、メーカー側からすれば設定せざるを得ないという事情もあるようです。
とはいえ、MT仕様車の設定が増えることはユーザーにとっても選択肢が増えることでもあるので、そこにはWin-Winの関係が成立しているといえるかもしれません。
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