スーパーカーの屋根は開いた方がイイ
恐らく、これは多くのクルマ好きがうなずける事実ではないだろうか。それ以外の条件や性能が同一なら、スーパーカーの屋根は開いた方がイイ。いかがだろう。
【画像】830psのPHEV フェラーリ296 GTSとGTB 競合するオープントップ・モデルと比較 全157枚
もちろんクーペの方がカッコ良く見えることが多いし、より走りに純粋で、モータースポーツの香りもする。ルーフの開かないスーパーカーが、ナンセンスというわけではない。運転するだけで非日常的なことは間違いない。
最新モデルはエグゾーストノートの音量や音色を変えられたり、シャシーの電子制御を弱めたり、トランスミッションをマニュアルモードで操作できる。それでも、屋根を開いて大空を感じながら走りを味わうことは、遥かにドラマチックなものだと思う。
ただし、ご存知の通り弱点もある。ルーフがなくなることで、シャシーのねじり剛性は大きく低下することが通例。ステアリングの精密さに陰りが生まれ、サスペンションも能力を発揮しにくくなる。
これを改善するために、フロアやドアの開口部に強化が施されるが、重量増を招く。ソフトトップを格納するメカニズムも、軽いとはいえない。フォールディング・ハードトップなら尚のこと重い。
結果として、冴えない走りのカブリオレにもなりがち。アウディA5ならゆったり走るスタイルも似合うが、サーキットを得意とするのフェラーリの場合は、望ましい結果を得にくかった。これまでは。
クーペの動的能力や特徴を可能な限り維持
自然吸気のフェラーリ458 イタリアなきあと、マラネロのスーパーカーは崇高なまでのV8エンジンの音響を失っていた。488やF8トリブートのスパイダーは、それまでと同等の聴覚的な興奮を誘うことができなかったといえる。
マラネロの技術者も、その事実を憂慮していたのだろう。新しい296 GTBに搭載される2.9LツインターボV8エンジンは、実に見事にサウンドが調律されている。高音で胸のすくような響きを奏でる。しかも自然だ。
エンジンルームとコクピットを結んだパイプで、音を共鳴させながらドライバーへ聞かせる仕掛けの効果ではある。だが、人工的なサウンドは一切加えられていない。オープントップなら、喜びを一層得られると考えても不思議ではない。
もちろん、296にもルーフを切り取ることでの弱点が生じる。そこでフェラーリは、圧巻なまでのクーペの動的能力や特徴を極力維持することを、目標に掲げ開発を進めた。
ダブルウイッシュボーン式となる前後のサスペンションの設計や特性、ジオメトリーは296 GTBと296 GTSで同一。電動パワーステアリングの設定も、まったく変わっていないという。
ボディ剛性についてフェラーリは言及していないが、F8 トリブートとF8 スパイダーとの違いと比較して、50%改善したと説明されている。かなりの数字といっていいだろう。
唯一、比較的高い位置で70kg増加した車重を考慮し、ダンパーの減衰力には手が加えられた。動的能力を向上させるためではないそうだ。
システム総合830psのPHEVは不変
ミドシップで後輪駆動となる、プラグイン・ハイブリッド(PHEV)のパワートレインにも違いはない。V6ツインターボ・エンジンは663psを発揮。8速デュアルクラッチATとフライホイールとの間には、166psを発揮する駆動用モーターが組まれる。
最終的には、カタログ上の動力性能はGTBとGTSで一致している。0-100km/h加速は2.9秒、最高速度は330km/hがうたわれる。
高度で複雑な、電子制御シャシー技術も同じ。ステアリングやペダルへの入力と、リミテッドスリップ・デフやセンサー、ジャイロスコープなどからのデータを統合管理し、操縦特性をドライバーが望む通りに調整してくれる。
コーナー出口でオーバーステアを楽しみたい場合は、パワートレインをパフォーマンス・モードに設定。ステアリングホイール上のダイヤルで、eマネッティーノをCTオフにすればOKだ。
サーキットでタイムアタックに挑む場合は、パワートレインをクオリファイ(予選)・モードに。eマネッティーノはレースにすれば準備完了。システム総合で830psという能力を、思う存分発揮できる。
すべてのパワーを解き放つと、言葉を失うほどの能力が顕になる。SF90のように、フロントアクスルにも駆動力が伝わり安定性を高められないと考えると、不安にも思える。恐らく、630psでも不満なく速いはず。
ところが、296 GTSの本領を開放しても危険には感じない。世界トップクラスのトラクション・コントロールとABSがバックアップし、素晴らしいサスペンションが公道の不整を見事に受け止めてくれるのだ。
この続きは後編にて。
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