ここではフラッグシップSUVについて考察を行った。本来ならメルセデスはGLSとなるが、堂々たる風格と価格帯、そして国内マーケットでの人気と知名度からGクラスを選出し、2列目にキャプテンシートを備えた豪華絢爛なX7、そしてクーペボディで走りの洗練さに磨きをかけたQ8と比較を行い、各々のスペシャリティを探った。
6発ディーゼルを積みGの魅力はうんと増した
【国内試乗】「BMW X7」最上級のもてなしは、セダンからSUVの時代!?
時代が変わった。いまや街中を最新の7シリーズロングで走っても見向きもされないけれど、X7なら相当に目をひく。横に並んだ内外のSUV乗りが目を向く。対向するBMW乗りが口を開けているのがはっきり分かる。 SUVがスペシャリティではなくフツーの乗用車となって久しい。コンパクトからラージまで、今やパーソナルカーのファーストチョイスだ。ゆえにセダン全盛時代がそうであったように、クーペが生まれ、高性能グレードが望まれる。そして、超高級なトップグレードも誕生する。SUVという名の山の裾野が広がったのだ。
そんな現代のSUV山頂に君臨する3台、すなわちセダン時代と同様に、ドイツのプレミアムブランド御三家の用意した3モデルを比較してみることになった。アウディQ8、BMW X7、そしてメルセデス・ベンツGクラスである。
メルセデス・ベンツの場合、GクラスではなくGLSクラスという手もあったが、モデルチェンジしたばかりであいにく最新モデルが上陸していない。それならばいっそGLSよりも日本では人気のGクラス、しかも待望のディーゼルターボ350dが導入されたばかりで、これをぶつけてみようということになった。このクラスもまたメルセデスが先鞭をつけた得意分野であり、さしずめアウディとBMWは挑戦者と言っていい。 ちなみに、新型GLSクラスはさらに巨大で、まず間違いなく名実ともにSUV界のSクラス級クォリティとなっているだろう。新興勢力に対するGクラスとGLSクラスによる挟撃。メルセデスの戦略に今のところぬかりはない。 では、その隙のないメルセデス・ベンツの人気者、G350dから乗り込もう。スタイリングをはじめ、随所にロングセラーモデルの面影をたっぷりと残した現行Gクラス。辺りに響くロック解除音はそのたびにドキリとするが、オーナーになれば気にならなくなるのだろうか。かなり大きな音だ。
随分とモダンになったインテリアを眺めている限り、その視界の高さとノーズの見切りの良さ以外にGクラスらしいと思うところはもはやない。けれども、ひとたび動き出したなら、話は別だ。
これでも乗り味は随分とモダンになった、とはいうものの、やはり最新の乗用SUVとはひと味もふた味も違っている。クロカン四駆時代の名残が随所にあって独特だ。ひと言でいうと、タッパを感じる。クセがあるのだ。地上高、サスストローク、車高などなど、車体にまつわる全ての高さが、他の最新SUVとは違う。当然、それは物理量なので走りに影響を与える。最新のGクラスは高さによるネガを削ぎ落とす設計や制御としたが、完全ではない。けれどもそこがまたGの魅力で、特に今回、6発ディーゼルを手に入れて、その魅力はうんと増した。メルセデスのこのディーゼルターボは、本当に洗練されており、とろけるような味わいに充ちていた。
走りに一抹の古めかしさを感じるのは低速域のみで、速度にのってくるに従い、そのライドフィールはどんどんモダンになっていく。これはもう劇的というべきで、首都高のカーブを流れにのってクルーズするような場面では、以前のGクラスとは別次元の動的一体感をみせた。なるほど、個性派SUVとしていまだ随一の存在だ。
X7は大きな体躯ながら走りは紛れもないBMW
X7もまた、その巨体に似合わずブランドの個性を体現している。つまり駆けぬける歓びがあった。これには本当に驚かされた。
見た目にはほとんどミニカリナンというべき存在感である。特に巨大なフロントマスクは新時代のBMWラグジャリーを表現するもので、冒頭にも記したように、街中では相当に注目を浴びた。
室内は8シリーズなどと共通するモダンさで、その角張ったスタイリングのままに広々とした空間と相まって、Gクラスとは異質の空気が流れていると言っていい。X5とは違って、非パーソナルな雰囲気さえ漂う。走りをがんがん楽しもうなどという、BMWらしい気分にはなってこない。
ところが、だ。いざ走り出してみれば、これがもうちゃんとBMWらしいから驚いてしまったのだ。外から見たときの大きさ感は動き始めた瞬間に消え失せて、ちょうど7シリーズが5シリーズのように走ってくれたように、X7もまたX5のように走り出す。
BMWの6気筒ディーゼルには、力強さとともにレスポンスの良さを楽しむという他のディーゼルターボにはない魅力があった。これが、ハンドリング性能の良さと実に素晴らしいコラボレーションをみせるからファンなのだ。高速コーナリング中の確かな手応えもまた、BMWのSUVらしい。
Q8もまた、アウディらしさがたっぷりとあった。面白いことに、Q8と比べると、X7とGクラスの走りは“同じ側”にある。低速域におけるQ8のドライブフィールがそれだけ異質なのだ。これは、7シリーズやSクラスに比べてA8のライド感がまるで違ったこととよく似ている。
Gクラス、X7と乗りついでからQ8に乗ると、その軽快な足のさばきにむしろ戸惑ってしまった。ボディサイズなりに予想される重厚な感覚がないからだ。ポルシェ・カイエンにはあった“動きのため”がまるでない。その意外性がまた、実にアウディらしい。
それでも首都高のクルージング領域に入ってしばらく経てば、次第にそのドライブフィールにも慣れてくる。四肢を踏ん張らせて、路面をくわえこむようにして走る感覚はアウディ・クワトロの真骨頂で、そう感じるころにはもうボディサイズのことも忘れて“ミズスマシ”のように高速コーナーをクリアするQ8の走りと、クリーンでスムースなエンジンフィールに快感を覚える自分がいた。
さすが独プレミアムブランドのフラッグシップSUVだけあって、その巨大なボディサイズに関わらず、ブランド特有のドライブフィールを実現していた。安心のメルセデス・ベンツに、快感のBMW、そして軽快なアウディ。内外装の見映え質感は甲乙付け難いレベルにあって、これはもう、好き嫌いで選んでもらう他ない。ビッグサイズの頂上SUVであっても、妥協することなくブランドの走りを注入する。その開発姿勢こそがプレミアムブランドの矜持であり、また個々の開発哲学の現れというべきだろう。
【Specification】AUDI Q8 55 TFSI QUATTRO DEBUT PACKAGE S LINE
■全長×全幅×全高=4995×1995×1690mm
■ホイールベース=2995mm
■車両重量=2210kg
■エンジン種類/排気量=V6DOHC24V+ターボ/2994cc
■最高出力=340ps(250kW)/5200-6400rpm
■最大トルク=620Nm(51.0kg-m)/1370-4500rpm
■トランスミッション=8速AT
■サスペンション=前後ウイッシュボーン
■ブレーキ=前後Vディスク
■タイヤサイズ=前275/50R20、後285/40R22
■車両本体価格(税込)=11,220,000円
【Specification】MERCEDES-BENZ G350d
■全長×全幅×全高= 4660×1985×1975mm
■ホイールベース=2890mm
■車両重量=2500kg
■エンジン種類/排気量=直6DOHC24V+ターボ/2924cc
■最高出力=286ps(210kW)/3400-4600rpm
■最大トルク=600Nm(61.2kg-m)/1200-3200rpm
■トランスミッション=9速AT
■サスペンション=前Wウイッシュボーン:後リジットアクスル
■ブレーキ=前後Vディスク
■タイヤサイズ=前後265/60R18
■車両本体価格(税込)=11,920,000円
【Specification】BMW X7 xDrive 35d DESIGN PURE EXCELLENCE
■全長×全幅×全高= 5165×2000×1835mm
■ホイールベース=3105mm
■車両重量=2440kg
■エンジン種類/排気量=直6DOHC24V+ターボ/2992cc
■最高出力=265ps(195kW)/4000rpm
■最大トルク=620Nm(63.2kg-m)/2000-2500rpm
■トランスミッション=8速AT
■サスペンション=前Wウイッシュボーン:後インテグラルアーム
■ブレーキ=前後Vディスク
■タイヤサイズ=前後285/45R21
■車両本体価格(税込)=12,290,000円
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