スバルの新型レガシィ・アウトバックの予約受注開始に先立ち、メディア向けに実車が披露された。間近で見た今尾直樹の感想とは?
商品力を大幅にアップ
スバルのホームページでの予告通り、新型レガシィ・アウトバックが9月2日、日本初公開となり、先行予約の受け付けが始まった。正式発売は10月だけれど、今度のレガシィ・アウトバックは大ヒットしそうである。約7年ぶりのオール・ニューで、商品力を大幅にアップしているからだ。問題は世界的な半導体不足である。生産が計画通りいくとは限らない。新型アウトバックが気になる方は、お早めに申し込まれることをオススメしたい。
さて、6代目のレガシィ・アウトバック、基本的にデザインは先代から大きく変わっていない。それだけ、先代の評価が主力市場の米国で高いのだ。レガシィ・アウトバックは「フォレスター」と並ぶ“スバルの両輪”で、この2トップだけで同社の販売台数のおよそ半分を占めている。
サイズも、先代よりちょっぴり大きくなっただけだ。SGP(スバル・グローバル・プラットフォーム)という、2015年発表の「インプレッサ」から使い始めたスバルのご自慢のプラットフォームに切り替えているのに、2745mmのホイールベースは先代とまったくおなじ。
全長×全幅×全高=4875×1875×1675 mm(Limited EX)/1670 mm(X-BREAK EX)の3サイズは、先代より50mmほど長くて、35mm幅広く、ちょっぴり高くなっているに過ぎない。Limited EXとX-BREAK EX で全高が5mm違うのは、ルーフレールの形状が異なるからだ。
SGPは1989年発表の初代レガシィから改良しながら使い続けてきた従来のプラットフォームよりも高いボディ剛性があり、低重心であることを特徴とする。
これにより、より正確なステアリング・レスポンス、より快適な乗り心地、より静かな居住空間を実現している、とスバルは主張している。いわゆる“走りの質”の向上をマジメに追求しているのが、いつものことともいえるけれど、6代目レガシィ・アウトバックの大きな特徴なのである。
最低地上高は213mm!
スバルといえば、水平対向エンジン。クランクシャフトを中心に、左右対称に配置されたピストンが、ボクサーが互いにストレートを打ち合うように水平に動き、慣性力を打ち消し合うことで、振動の少ないスムーズなエンジン・フィールを生み出すとされる。水平対向だから、直列4気筒より重心を低くできるというメリットもある。
そのボクサー・エンジンを核として左右対称、一直線にレイアウトするのがシンメトリカルAWDで、これにより4輪にバランスよく荷重をかけ、タイヤの接地性を確保することができるという。これぞ、スバルの4WD技術の根幹にして、スバルのアイデンティティである。1970年代初めに発売した「レオーネ4WD エステートバン」以来、来年で50周年を迎える、半世紀も守り続けている基本レイアウト、門外不出のレシピだ。
新型レガシィ・アウトバックは最低地上高が213mmもある。クロスオーバーSUVでグラウンド・クリアランスが200mmを超える車種はそう多くない。たとえばトヨタ「ハリアー」は195mm、もうちょっと4×4っぽい「RAV4」で200mm、本格4×4の新型「ランドクルーザー」で225mmである。異例ともいえるアウトバックの最低地上高は、SUVっぽく見せるためもあるけれど、フラット4+シンメトリカル4WDならではの低重心とグッド・バランスを前提にしているから実現できたことにちがいない、と考えられる。
少々余談ながら、スバルの米国市場における販売台数は、リーマン・ショックのあった2008年も、さほど落ちなかった。
それは、スバル独自の技術を愛する熱烈なスバリストたちがアメリカにもいたからだ。
これに気づいたスバルは、北米中心のマーケティング戦略をとり、その結果、10年という短期間で販売台数を60万台弱から2倍の、およそ110万台にまで飛躍的に高めることに成功した。もっとも、レガシィのボディ・サイズを大型化したのは2009年発表の5代目からだから、開発期間を4年程度と考えれば、少なくともリーマン・ショックの4年前からスバルはそうしたカスタマーの存在に気づいていたわけですけれど、いずれにしても、その代償としてレガシィの国内での存在感が薄くなってしまった。1990年代にあれほど人気を誇ったツーリングワゴンは先代レガシィでは廃止となり、今回は北米では販売されているセダンも国内には登場しない。
ネガを一気に解消
新型レガシィ・アウトバックが日本市場でも売れると予想されるには理由がふたつある。ひとつは、米国市場では2.5リッターと2.4リッター・ターボのエンジンが使われているのに対して、国内向けには1.8リッター・ターボが搭載されている点だ。
排気量1795ccで、最高出力177ps/5200~5600rpm、最大トルク300Nm/1600=3600rpmを発揮するこれは、フォレスターやレヴォーグにも使われているスバルの新世代直噴フラット4、別名ボクサー・エンジンである。先代レガシィは2.5リッター自然吸気で175psだったから、排気量が縮小しているけれど、パワーの面では遜色ない。ターボの力を借りて、トルクはむしろ増えている。
もうひとつは、新型にはスバル独自の運転支援システムの最新版の「アイサイトX」が搭載されていること。「アイサイト」は基本的にステレオカメラだけで前方の情報を得て、衝突を避けるべくブレーキをかけるシステムだけれど、レヴォーグから採用された「アイサイトX」では、視野を広げた新開発のステレオカメラにくわえ、前後4つのレーダーを組み合わせて360度センシングを実現している。交差点の右左折時や、見通しの悪い場所での出会い頭など、これまで対応しきれなかった幅広いシーンで安全連転をサポートしてくれるという。
先代レガシィはこれに対して、アイサイトver.3にとどまっていたことが新車販売の足を引っ張っていたらしい。ver.3でも、それなりの機能を備えているのだから、いいじゃないか。と、筆者なんぞはそう思うけれど、おなじスバルの新車を選ぶ際、やっぱり排気量が2.0リッター以下で自動車税が安くて、最新のアイサイトXを装備しているレヴォーグにしておこう、と考えるのはユーザー心理としてごく当然だろう。
新型レガシィ・アウトバックはまた、スバルのフラッグシップ・クロスオーバーにふさわしいナッパレザーの本革シートのオプションが選べる「Limited EX」と、SUVっぽいデザインと機能を与えられた「X-BREAK EX」の2つのモデルの設定があって、とりわけ後者は、そのタフでラギッドなたたずまいが、昨今のアウトドア・ブームにピッタンコという印象を受ける。
実車に座ってみたところ、前席の視界もよいし、ヘッド・ルームも、後席の居住空間も十分。
荷室は後席の背もたれを倒すだけでフルフラットの空間が生まれる。その分、後席の座面は薄いようだけれど、そこは致し方ない。
多くのクルマが大型化し、レガシィ・ツーリングワゴンの流行も過去のものになりつつある今日この頃、まったく新しいクロスオーバーSUVがあらわれたれたと考えれば、このボディ、ジャスト・サイズのようにも思える。とりわけキャンプ場などでは。
電動化の流れにあらがう、おそらくは最後のピュア内燃機関のスバル・ボクサー・エンジン+シンメトリカル4WDである。
これだけでも見逃せない。
文・今尾直樹 写真・安井宏充(Weekend.)
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しかし、日本で走るには車幅広すぎないか?