2017年からメルセデスF1チームに移籍し、チームメイトにF1史上最強との呼び声も高いルイス・ハミルトンをもつバルテリ・ボッタス。F1ではこれまで8勝を上げているが、今シーズンは未だ勝利がなく、来季は現ウイリアムズのジョージ・ラッセルとのシート交代も噂されている。
しかし、同郷のフィンランド出身で1998年と1999年に2度のF1世界チャンピオンに輝いたミカ・ハッキネンは、ボッタスはもっと評価されるべきだと語った。
■メルセデス代表、ボッタスの去就に責任感じる?「素晴らしい将来を得られるようにしなければ……」
■ハッキネン:
私は、F1で成功を収めるために欠かせないモノに魅了されている。それがこの選手権を間近で見続けている理由でもある。だからバルテリ・ボッタスについてフェアではないコメントを目にした時、私自身の経験から意見を述べることに価値があると思ったのだ。
その世代で最高のドライバーと対峙する気持ちは良く分かる。私の場合はアイルトン・セナだったが、キャリアを通じて他にも非常に強力なチームメイトと仕事をしてきた。ジョニー・ハーバードからマーティン・ブランドル、マーク・ブランデルからナイジェル・マンセル、もちろんデビッド・クルサードもね。
誰も遅い人はいなかった。みんなとても速く、献身的で有能なF1ドライバーだった。
世界チャンピオンや勝ち続けている人について語ったり、そのチームメイトを批判したりするのはとても簡単なことだ。わかりやすい比較ではあるが、優勝したチームの片割れがどの様なドライバーかという全体像が見えなくなってしまう。私が2度世界チャンピオンになれたのは、DC(編注:クルサードの愛称)という強いチームメイトがいたからでもある。
マクラーレンが、アイルトン・セナのチームメイトとして私をマシンに乗せた時、素晴らしい機会ではあったが、とてつもない挑戦でもあった。突然、私の持つ少ない経験値でアイルトンの経験値に立ち向かうことになった。“経験”とは何かって? それは自ら重ねたラップ数やデータから学ぶ能力、チームの中で起こっていることをどれだけ賢く、賢明に把握できるかということだろうか?
実際には、それら全てとチーム内の原動力が重要だ。それひとつでは重要ではない小さなことでも、つもり積もれば自分が望んでいた場所とはかけ離れた所にいることになる。キャリアを通して、メカニックやエンジニア、データ技師たちはそれぞれ特化した仕事をしていて、F1という緊張感の高い環境では、個人的な小さい変化ですらパフォーマンスに影響を及ぼすと気付かされた。
人の動きを変えることは、マシンのセットアップを変えるのと同じくらい重要なことだ。
マクラーレンでの最初のレースでアイルトンを予選で破ったことをみんな私に聞いてくる。予選でルイスを17回負かしたバルテリにはあまり聞かないのにね。なぜかメルセデスに乗れば簡単だと評価され、私の実績は難しいと評価された。
アイルトンとは3レースしか対峙していないが、多くのことを学ぶことができた。どれだけ学ばなければならないかについてね。マシンから最高の性能を引き出す方法から、チームの仕組みやチームがどのように注力しているかについて理解することができた。
キャリア中に、例えば私のタイヤは機能していなかったのに、チームメイトは突然0.7秒速くなるといったことが数回あった。柔らかいタイヤを履いても、硬いセットで出したタイムと変わらないのだ。それはとても恐ろしいことで、チームメイトが何をしているかを知るために、温度や内圧、マシンセットアップなど全てを調べ始める。
チームメイトのセットアップを自分のマシンに適用させるととても運転し難くなる気持ちは良く分かる。それでラップタイムが0.5秒も速くなれば話は別だけどね!
これも学習の一環だ。ガレージの反対側にいる人(チームメイト)に対して心を開いて、自分勝手にならないようにすることを学ぶことができる。
ドライバー間のチームワークも上位チームにとってはとても重要な点でもある。
メルセデスチームは、ふたりのドライバーが破滅的な姿勢で争い合うと何が起きるかを誰よりも良く知っている。チームに加入してからのバルテリの役目は、ルイスの隣で働き、できる限りハードにプッシュしつつも、コミュニケーションを取り続けることだった。
チーム内にポジティブな雰囲気を作り、同じ方向にチームを引っ張ることは、大切な特色だ。常勝チームに在籍しているなら重要なことだが、タフなライバルがいる時や2022年のように完全に異なるレギュレーションが導入される時は必要不可欠なことだ。レギュレーション変更への対応は、チームの基盤を強固にしようとするドライバーふたりの努力次第だ。
F1世界チャンピオンになれるのは、チームメイトひとりだけだ。そのためには、他の誰よりもレースに勝つ必要があり、その中には同じガレージにいる人を打ち負かすことも含まれている。
同じマシンに乗っていると、バトルはそう易易とはいかない。F1世界チャンピオンになると、自然と自分中心のチームが出来上がり、チームメイトには多くのタスクが任される。
私が現役でレースをしていた頃は、特にマネージャーをしていたケケ・ロズベルグに対していつも不満を漏らしていた。これは世代的なことだと思う。よく「チーム内のこれやあれは正しくない」と私が言うと、ケケは「黙って走れ」と言ってきた。
今は昔とはかなり違う時代にいる。ドライバーやチームが使える分析は無限にある。そしてグランプリの勝利やそのチームメイトをサポートする使命が課されたドライバーたちには大きな敬意が払われている。
バルテリがシルバーストーンでルイスにトウ(スリップストリーム)を与えたように、チームメイトをサポートするために予選のタイミングを合わせたり、チーム戦略を最大限に活かすためにレース中に順位を明け渡したりするのは、簡単なことではない。
メルセデスはとてもフェアなアプローチをとっている。
そして、バルテリは自分の仕事がチームのライバルを打ち負かすことであると分かっている。特に、レッドブルとホンダが大きく躍進した今年はね。
ウイリアムズからメルセデスへ移籍して以来、バルテリが歩みを止めたことは無いし、ドライバーとして学習し成長していることは分かっている。ウイリアムズで9回表彰台に上がって、2年連続のコンストラクターズランキング3位に貢献した。しかし、同時に彼はメルセデスが別次元のレベルにいると気が付いていた。全く異なる挑戦だ。
私がチーム・ロータスからマクラーレンに移った時と、似た体験だ。最適な人と技術が僕のチームには存在していて、自分は正しい場所にいると分かっていた。だから大きな開放感を感じた。しかし、成功する術を知る人たちがいるチームに加わると、学ぶべきことが沢山ある。バルテリも同じアプローチを取っている。
チームメイトでありながら、彼の隣には最も手強いライバル、ルイスがいる。
バルテリが如何に冷静かつ自制的で、決意を持ち続けているか、厳しい状況の中簡単に批判されても、どれほど賢明に仕事に取り組んでいるかを目にして、私は信じられない気持ちを抱いている。彼はただ、週末ごとに全力で取り組み、チームのためにベストを尽くすことだけに集中している。
「一番速いマシンに乗っていれば、グランプリに勝つことは簡単だ」という有名な迷信がある。
私が20勝しようが、バルテリが9勝しようが、F1で勝つことは全くもって簡単ではない。同じガレージで隣に複数回のF1世界チャンピオンがいる時は尚更厳しい。
世界チャンピオンの防衛を狙うチームにとって、ドライバーラインナップの調和と集中は重要なカギとなる。だからこそ、バルテリはもっと評価されるべきだと私は考えるのだ。
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