BMW M1の後継モデルは実現するのか
BMW M1の開発では、経営に苦しむランボルギーニとパートナーを組んだものの、上手く進まず、ドイツのバウア社と再調整。BMWはM88型と呼ばれる直列6気筒エンジンを設計するが、生産は遅れ、ワンメイクのプロカー・レース開催に留まっている。
【画像】BMWのMモデル 最新のM5 CSとM4、M3 1970年代の名車 3.0 CSLとM1も 全112枚
ヨッヘン・ニアパッシュ氏は1981年にBMWモータースポーツ社を去るが、彼のアイデアにはやり残しがあったようだ。「わたしがBMWを離れた時点で、優先されていたのはF1。M1の存在を忘れたかのようで、間違いだったと考えています」
現在のBMWにも、M1は存在しない。ポルシェ911に対抗できるミドシップのMモデルは、多くの関心を集めるだろう。実際、同社は何度か後継モデルに取り組んではいる。
1993年、BMWモータースポーツ社はBMW M社へ名称が改められる。その後トップに就任したアルバート・ビアマン氏は、2009年にメルセデス・ベンツが発表したSLS AMGに対峙するモデルを切望していた。
「技術的な観点からは、充分なモノを持っています。可能なら取り組みたいですね」。2011年、AUTOCARの取材でビアマン本人も語っている。後任のカルステン・プライス氏も、その可能性を否定はしていない。
M1の復活には、アルピナも取り組んでいた。ドイツ・ブーフローの倉庫には、プラグイン・ハイブリッドだったi8の、アルピナ仕様の部品が残されている。エンジンも3気筒より大きいものが検討されていた。お披露目されることはなかったが。
モータースポーツとMは切り離せない
BMW M社は、50周年の節目に新モデルを発表した。「これまでで最もパワフルなMモデル」で「BMW M1以来となる、記念すべき独立モデル」だと主張された。
「彫刻的な面構成」「華やかなボディライン」「ハイパフォーマンス・セグメントを刷新」といった、意欲的な言葉が並ぶ。スーパーカーのように聞こえるものの、実際は750psを発揮するXM。バッテリーEV(BEV)のSUVだった。
BMW M社の舵取りは、2021年にオランダ出身のフランク・ヴァン・ミール氏へ託されている。技術者として経験を積だ彼は興味深い人物で、クロスオーバーに対して肯定的といえる。恐らく、現実的な考えのうえで。
責任ある自動車メーカーの経営者として、彼はXMを論理的なモデルだと説明する。現在のBMW M社は、多様化してもいる。今後、ラインナップはすべてハイブリッド化される。どこかの時点で、BEVへ切り替わるはずだ。
BEVサルーンのi4 M50は速く、テールスライドも可能。だが、本物のMモデルではない。従来のアグレッシブさや、流れるように軽快な敏捷性は備わっていない。BEVのM3は、どんなモデルになるのだろう。
「2030年代が始まろうとする頃に、ハイブリッドは正しい答えでしょうか。レースを戦えるほど高性能な、BEVパワートレインの登場を期待するのでは?」。とヴァン・ミール氏は答える。
モータースポーツとMは切り離せない。「レースが不必要だと考えるのは、間違いです。高性能モデルを生み出すには、レースでの戦い方を知らなければ難しい。単なるロゴになってしまいます」
往年の3.0 CSLと重なるM4 GTSの姿
彼は、ブランドのピラミッドについても説明する。頂点にレーシングカーが位置し、その下に公道用のMモデル、そしてMパフォーマンスと呼ばれるライトなM。底辺には、一般的な量産モデルが属する、と。
1970年から1980年代は、ピラミッドの上層部は大きい存在だったが、縮小した現在でも考え方としては頂点に据えられている。2.3tの車重を持つX6 Mがレーシングカーの次の層にあると考えるのは不自然だが、多様化した現在、論理的にはそういうことだ。
ニュルブルクリンクを攻めるBMW M4 GT3マシン
2021年、Mモデルは16万台以上が売れている。その大部分が、クロスオーバーだったという。
そんな事実もあって、ニュルブルクリンク24時間レースに向けて準備を整えた、M4 GTSは一層魅力的に映る。今年で50回目の戦いとなるが、これが本来のMらしい姿だ。
2022年は、前年までのM6 GT3から交代する、新しいレーシック・マシンのデビューシーズン。公道用のM4より全幅は150mmも広く、アグレッシブなエアロキットと低い車高で、野性的な勇ましさに溢れている。
往年の3.0 CSL、バットモービルのシルエットとも重なって見える。アウディR8やポルシェ911 GT3、メルセデスAMG GTなどと伍するBMWのMモデルは、やはり特別。タイムレスな興奮がある。
ニュルブルクリンクは、1973年にBMWモータースポーツ社として初勝利を掴んだ場所。夜を向かえると、各チームの熱気は一層高まった。走り疲れたマシンは、ピットインの度に準備が整えられ、送り出される。
サウンドでも特別さを実感できるM5 CS
カラフルなロゴが闇夜に浮かび上がり、ブレーキとガソリンの焼けた匂いが周囲を包む。多気筒の内燃ユニットが放つ轟音で満たされ、スプリッターがアスファルトに削られる。ニュルブルクリンク24時間は、格別だ。
BMWモータースポーツ社の創設に関わった、ニアパッシュにとっても特別。83歳を迎えた彼ですら、昨晩は午前3時までM4 GT3マシンの様子を見ていた。BMWジュニア・チームに属する若者への、アドバイザーを努めている。
ニュルブルクリンクを攻めるBMW M4 GT3マシン
レースでは、M4 GT3の99号車が上位タイムで予選を通過。ところが夜間にリタイア。最終的に完走できたのは、1台だったようだ。新マシンでの初シーズンには、トラブルがつきもの。少なくとも、速かったことは間違いない。
今回、ノルドシュライフェまでの相方に選んだのが、BMW M5 CSだ。アルカンターラで仕立てられたステアリングホイールと、低い位置にセットされたカーボンファイバー製シェルのバケットシートが、筆者を満たしてくれる。
放たれるサウンドによって、特別なクルマの中にいることを目を閉じても実感できる。クリアなターボチャージャーの悲鳴と、リアルなエンジンサウンド。コンポジット素材のボンネットは、多くの音をドライバーに届けてくれる。
世界中から熱心なクルマ好きが集結する、ドイツ北部。Mのトリコロール・ロゴは、多くの人の気持ちを高ぶらせているはず。最初は下り坂のブリュンヘン・コーナーで観戦し、夜には激しいバンクコーナーが待ち構えるカルーセルへ移動した。
この続きは後編にて。
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