まるで絵に描いたようなカフェレーサーである。タイヤは、ベースとなったドゥカティ・スクランブラーが前18/後17インチのところ、前後とも17インチに。ハンドルはセパレート化されてグッと低く構える。さらにリアシートにはカバーが装着され、シングルシーター風に見せている。バイクに興味があろうがなかろうが、実車を前にして抱く感想は同じだろう。「うーん、カッコいい!」。
バイク全体に1960年代のスパイスがまぶされ、たとえばブルー基調のボディカラーは、かつてのGPレーサーに由来する。サイドのゼッケンプレートに描かれた「54」は、当時のドゥカティのワークスライダー、ブルーノ・スパッジアーリへのオマージュなのだとか。アルミのセパレートハンドルには、クラシカルにもレーシィに、バーエンド・ミラーが付く。ヘッドランプに飛散防止のテープを模した、クロスした支柱が入るのはご愛嬌。
“羽根”が生えた!ドゥカティの新型スーパースポーツに大注目 ──【第7弾:ドゥカティ編】
ドゥカティのスクランブラー・シリーズには、1079cc、803cc、そして399ccと3種類の空冷L型エンジンが用意され、カフェレーサーが搭載するのは中核となる803cc。73ps/8250rpmの最高出力、6.8kgf-m/5750rpmの最大トルクは、他のモデルと変わりない。
シート高は803mmと少し高くなるが、身長165cm(短足)の自分でも足裏3分の1ほどを接地できるので、街乗りでも不安はない。グリップに手を伸ばすと、腕を肩幅よりぐっと広げるイタリアンなポジションになる。
803ccの2気筒に火を入れて走り始めると、もちろん前傾姿勢にはなるのだが、思ったよりずっとラクだ。これが正調ブリティッシュ・カフェレーサーともなると、もともとの想定身長が高いこともあろうが、背中を伸ばして、頭を下げて、背筋を使ってポジションを維持する。そんな苦労を堪能することになるのだが、スクランブラー・カフェレーサーでは、鼻歌まじりにライディングできる。
「はて?」と思って観察すると、セパレートハンドルはたしかにトップブリッヂの下から生えているのだけれど、取付け部は上方に向かってやわらかなL字を描いていて、ハンドル位置を大いに押し上げている。実質、トップブリッジ上に付けているのと変わらない。「カッコはつけたいけれど、我慢はイヤ」。そんなイタリアンな心意気、ワタシは断然支持します。
一般に、V型2気筒は並列2気筒と比較すると、ボディをスリムに、そしてスタイリッシュにできる反面、前輪への荷重が軽くなりがちとされる。ドゥカティでは、それを嫌ってエンジンを前方に傾けてL字型に吊っているわけだが、カフェレーサー・スタイルにすると、さらにフロントに荷重をかけやすくなる。
スクランブラー・カフェレーサーは、そのライディングポジションゆえ、普通に走っていてもスポーティな感覚が強いけれど、いざ、ムチを入れる段になると、スムーズにバイクを曲げるのは意外と難しい。フロントに120、リアに180という太めのタイヤを履くこともあり、ライダーも心して乗らないと、つまりハンドルに頼らずしっかり荷重移動させないと、二枚目のバイクは思い通りに応えてくれない。ベースとなるスクランブラー・アイコンより、フロントフォークを立ててホイールベースを短くして回頭性を上げているのだが、漫然とシートに跨っていると、その利点を十分に活かせないのだ。
セパレートハンドル化のもうひとつの利点は、エンジンが近くなること。トラクションを稼ぐために敢えて不等間隔で爆発させているLツインの鼓動を、より身近なものにできる。いまや少数派になりつつある空冷ユニットは、頻繁に高回転まで回したり、はたまた渋滞に巻き込まれるとたちまち体温が上昇し、ひとたび交通が流れ出すとすぐに機嫌を直す。まるで生き物のようなエンジンだ。その一方、出力特性に気難しいところはなく、803ccの排気量を活かして、余裕ある駆動力を無理なく供給してくれる。
組み合わされるトランスミッションは6スピード。ことさらハイギアードというわけではないのだが、Lツインをフルスケール使うと、セカンドで早くも100km/hを突破してしまう。トップギアでの100km/h巡航時は4000rpmを少し超えるくらい。エンジンの振動よりも、正面から受ける風がライダーの主敵となる。ブレーキにはブレンボが奢られ、特にラジアルマウントされるフロントは4ピストンの強力なもの。前後ともABS付き。ストッピングパワーに不足はない。
都心の街なかを、テルミニョーニのマフラーからバラバラとL型ツインの排気音を撒き散らしながら走っていると、ひとり可笑しくなる。地味で平凡な自分が、こんなに「look at me!」なバイクに乗っていていいのだろうか、と。
イタリアン・カフェレーサーの“カッコいいパワー”は実に強力で、ライダーは否が応でも影響を受ける。柄にもなく「もうすこしウェアにこだわってみようか」とか、「カフェに停めてテラス席から眺めたい」、「せっかくなので、友達に見せびらかすか」と考え始める。乗っているだけでバイク趣味を超えて生活が広がっていく気がするのが、スクランブラー・カフェレーサーの楽しいところだ。
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