ブランドに対する認識を塗り替えた
記念日を祝うことは良いものだ。誕生日以外でも。
【画像】フリーランダーとディスカバリー・スポーツ 最新のディフェンダーとレンジローバーも 全107枚
クルマの場合は、過去のモデルを振り返ることで、これまでの年月にどれだけ変化を遂げたのか確認する機会になる。安全性能や動力性能、環境性能などの向上を、つぶさに感じ取ることができる。
大抵の場合は、古いモデルより新しいモデルの方が良くなっている。客観的に捉えれば。そして、それ以上の発見もある。
ランドローバーとして最も小さなSUV、フリーランダーが発売されたのは25年前。その後の同社にとって、極めて大きな意味を持つ存在だったといえる。近年も成長が止まらない、都会派SUVというカテゴリーに属する新しいモデルだった。
当時既に50年近い歴史を有していた、ランドローバーというブランドに対する認識を新しく塗り替えた。商業的にも技術的にも、その後へ続く布石になる結果を残した。2022年に改めてフリーランダーへ触れてみると、その事実を再確認させられる。
というわけで今回は、ジャガー・ランドローバー(JLR)社のお膝元、ロンドンから140km北のゲイドンにやってきた。初代ランドローバー・フリーランダーに試乗するため。本社にお邪魔したのではなく、英国モーター・ミュージアムの方だけれど。
AUTOCARの読者ならご存知かもしれないが、既にフリーランダーというモデル名は現行のラインナップから消えている。カテゴリーやサイズで辿ると、ディスカバリー・スポーツがその後継に当たる。フリーランダー3と呼んでも良いだろう。
モノコック構造に独立懸架式サスペンション
モデル名が変わった理由は、現在のJLR社がディフェンダーとディスカバリー、レンジローバーという3モデルを軸としたグループ化を進めているため。当時はモデル毎に、別の名前が与えられていた。ディスカバリー+スポーツという組み合わせではなく。
フリーランダーを振り返るうえで、モデル開発を率いたディック・エルシー氏にお話を伺うことができた。このコンパクトSUVは、重要な位置付けにあったという。
「当時、3年先までランドローバーの製品計画を見通した時に、空白と呼べるカテゴリーがあるとわかりました。そこで、レジャー向けの四輪駆動モデルを投入するという、野心的なターゲットを設定したんです」
急成長していた高級SUV市場において、レンジローバーはランドローバーの重要な役割を果たしていた。自社のブランド力を利用した、より身近な価格のモデルが同等の支持を得るであろうことは、明確だったそうだ。
その頃ランドローバーを保有していたブリティッシュ・エアロスペース社も、その計画に賛同。技術的に重要な意味を持つ、実験的なプロトタイプが作られた。
ボディと独立したラダーフレーム・シャシーをやめ、同社として初のモノコック構造を採用したことが最大の特徴。リジッドアスクルではなく独立懸架式のサスペンションとし、エンジンが横向きに搭載されていたことも、新しい1歩といえた。
買収したBMWがプロジェクトを推進
試作車は完成したものの、プロジェクトを量産モデルへ仕上げるに当たり、当時で4億5000万ポンドという開発予算が必要だった。そこで1993年、ブリティッシュ・エアロスペース社はエルシーに、開発パートナーの開拓を命じたという。
彼がアプローチした企業が、マグナ・シュタイア社とカルマン社、そして日本のホンダ。しかし話はまとまらず、フィンランドのバルメット社に持ちかけると、少しの進展を得られた。
ところが1994年2月、ランドローバーを含めるローバー・グループをBMWが買収。計画は一旦棚上げされてしまう。
だが実際は、新しいブランド・オーナーは非常に協力的だった。「BMWは、このプロジェクトに感銘を受けた様子でした。ランドローバーの将来へ大きな影響力を持つ、素晴らしい手段だと認められたんです」
「BMWによる買収は、容赦ない支配とは真逆の、夢のチケットといえるほどポジティブなものでした。より優れたデザインと上質な製造品質、洗練性を得るよう、推進してくれたんです」
晴れて1997年9月、まったく新しいランドローバー・フリーランダーが発表される。構成する部品のすべてが、従来のランドローバー・モデルと共有されていなかった。
スタイリングを手掛けたのは、現在JLR社でクリエイティブ部門を率いるジェリー・マガバーン氏。ターゲットは、トヨタRAV4やホンダCR-Vがしのぎを削る市場に定められた。ランドローバーという、ブランド力を後ろ盾に。
この続きは後編にて。
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