ひとたび本気で走らせようとすると手に負えない挙動に
スポーツカーをドライブする醍醐味にワクワクやドキドキする、ある種の興奮と緊張は欠かせない。日常よりもちょっとだけ心拍数が上がり、うっすら汗をかくぐらいのスポーツドライビングは、じつに心地よい瞬間だ。
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しかし、そのクルマがドライバーのコントロール下にあるうちは楽しいが、予期せぬ挙動やナーバスすぎる特性、スリッピーでどこへ飛んでいくかわからないクルマは、身の危険を感じることから、生理的な現象として手に汗をかく状態に……。いくらハラハラ・ドキドキといった興奮が快感につながるといっても、ヒヤッとしたり、手に汗をかくようなドライビングはノーサンキューだ。
街中を大人しく走っているときは問題なくても、ひとたび鞭を入れると手に負えなくなるタイプのクルマが、ひと昔前にはいくつかあった。その代表的な車種を思い出してみよう。
1)トヨタMR2(SW20 初期型)
手に汗握るクルマといえば、トヨタMR2。2代目MR2のSW20の初期型は、本来ミッドシップが得意とするコーナリングでリヤに落ち着きがなく、スリル満点というよりリスク満点のクルマだった。
FF車のエンジンとギヤボックス(パワートレイン)をそのままリヤに持ってきて、ミッドシップ化するという手法は、決して珍しくはなかった。乗用車のFFは室内を広くとるために、極端にいえばミッションの上にエンジンが載ったようになっていて、それをリヤに持ってくると、非常にエンジン高の高いミッドシップ車が出来上がる。
SW20はまさにコレで、おまけにジオメトリーやリヤサスまわりの剛性もイマイチ……。パワーの割にリヤタイヤのサイズも小さく、あのレーシングドライバーの中谷明彦さんに、「(当時)F3000やグループCカーをドライブしていても手に汗をかかないのに、SW20をドライブすると手に汗をかく」とまで言わしめたほど。
SW20のナーバスな挙動はマイナーチェンジごとに改善され、最終型ではかなりまともになったが、第一印象はかなり手ごわいクルマだった。
2)マツダRX-7(FD3S)
マイナーチェンジで改良されていったといえば、アンフィニRX-7としてデビューしたFD3Sも最初は手に汗握るクルマだった。
パワーウェイトレシオを重視した軽い車体にフロントミッドシップ。そして切れ味のいいハンドリングで勝負することを前面に打ち出したFD3Sの初期型は切れ味が鋭すぎたというか、リヤのトーコントロールの煮詰め方が不十分で、過渡領域でリヤタイヤの接地性変化が大きく、コーナリングスピードのマックスを維持しようとすると、手に汗握る領域に……。
ポテンシャルは素晴らしいクルマだっただけに、第一印象がよければもっと大ヒットしたはずなので、もったいないことをしたと思う。
後期型は、いまでも世界に誇れるピュアスポーツカーだ。
3)三菱ギャランVR-4
当時4気筒では最強のパワーを誇ったインタークーラー付ターボエンジンの4G63と4WDシステム……もっと言えば4VALVE、4WD、4WS、4IS、4ABSの全部載せで作ったクルマがギャランVR-4だ。その動力性能は目を見張るものがあったが、その反面、驚くほどブレーキがプアーだった。
アクセルを踏めばスポーツカー真っ青の加速力を誇り、最高速度も200km/hは軽々と出たが、高速域からフルブレーキをすると一発でフェードしてしまうようなことも……。エンジンパワーに対してブレーキ容量のバランスがとれていなかったという意味で、手に汗を握らされるクルマだった。
4)フェラーリ348
348は1989年、平成元年に登場。国産車でいえばR32GT-Rと同い年だが、その初期型は平成のクルマとは思えないほど、直進安定性が悪かった。フェラーリ製の300馬力を発揮するV8エンジンで遅いわけではないが、ボディ剛性やタイヤの問題もあり、高速道路でもまっすぐ走らなくて怖いという個体が多かった。
それに比べ直接のライバルといわれたホンダNSXの直進安定性は見事。ハンドリング=コーナリングというイメージがあるが、ハイパフォーマンスカーであればあるほど、まずはまっすぐ走ること=直進性がいかに大事かを教えてくれたクルマだった。
他にもマツダのAZ-1やホンダのS2000の初期型など、ちょっと手に汗をかくような手ごわいクルマもあったが、これらはスキルさえあればご愛嬌の範囲。
初期型と後期型でだいぶクルマの印象が変わったクルマもあるため、改めてクルマのセットアップというのは難しく、そして奥深いモノだということを覚えておこう。
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