『モデナの剣』は「フェラーリに乗り続ける幸せ」から生まれた
スーパーカーブームの火付け役であり、スーパーカーの存在を引き上げた立役者でもある『サーキットの狼』は、1979年まで連載された自動車漫画の草分け的存在である。そして、その10年後、『週刊プレイボーイ』で『サーキットの狼II』として復活を遂げた『モデナの剣』は、成人の読者層に向けた新たなスーパーカー漫画として大人気を博することとなる。
池沢早人師が愛したクルマたち『サーキットの狼II』とその後【第3回:フェラーリ348】
本連載では、当時『サーキットの狼II モデナの剣』の担当編集を務めていた清水草一氏と池沢先生の特別対談を前後編でお届けした。そして今回からは『サーキットの狼II モデナの剣』に登場し、実際に池沢先生がオーナーとして所有したクルマを取り上げていく。記念すべき1台目となる今回は、同作品の主人公である“剣・フェラーリ”の愛車として登場したフェラーリ348についてお話をお聞きする。
主人公“剣・フェラーリ”の愛車が348だった理由
1975年から1979年にかけて週刊少年ジャンプで連載した『サーキットの狼』だけど、その内容はスーパーカーの魅力を全面に押し出した内容だった。でも、その10年後に『週刊プレイボーイ』で連載が始まった『サーキットの狼II モデナの剣』は、掲載が成人誌ということもあってスーパーカーだけではなく、それをとりまく「男と女」の関係を題材にしたきわどいストーリーが多かった。
主人公の“剣・フェラーリ”は、元・フェラーリのテストドライバー兼モータージャーナリストという設定で描くことにしたんだ。その愛車にフェラーリ348を選んだのは、“風吹裕矢”がロータス・ヨーロッパに乗っていたのと同じ理由で、当時、自分が乗っていた348を主人公である“剣・フェラーリ”の愛車として描いた。でも、今考えると不遇のクルマを主人公の愛車にしちゃったんだよね・・・。
連載当時のボクは「イタリア=伊達男=女好き」というイメージが頭の中にあったから、女性との熱愛は激しいほどにストーリーに盛り込んだ。友人のイタリア人は本当に出逢う女性を全員口説いていたし、その台詞やしぐさは全て漫画の中で使わせてもらった。もちろんプライベートのお手本にも・・・。
主人公の“剣・フェラーリ”は、ボクが日頃から考えていた「毎日フェラーリに乗れたら幸せだろうなぁ」という欲求と願望で生まれたキャラクター。テストドライバーなら仕事として最新モデルに乗れ、自分がテストを重ねた“跳ね馬”が世界中のファンを喜ばせることができるなんて幸せなことだからね。
そんなストーリーを練っていた1990年に所有し乗っていたのがフェラーリ348。並行輸入で手に入れた鮮やかなイエローのモデルなんだけど、これがじゃじゃ馬と言えば聞こえはいいけど未完成なクルマだった。
サーキットで走っているとボディに剛性感は無いし、最高速では真っすぐ走らない。プロのレーシングドライバーにも試乗してもらったんだけど、コーナーで大スピンしていたからね。特にテスタロッサから乗り換えたこともあり、安定感のなさに辟易としてすぐに手放してしまった。あまりに早く手放しちゃったから、当時の写真は1枚も無いほど。
スタイル的にはフェラーリ328シリーズの後継モデルではありながらも、サイドダクトのフィンなどはテスタロッサを思わせる華やかさがある。まぁ、普通に乗っている分には問題ないんだろうけど、限界の低さはまさに未完成のレベルだった。
気に入っていたのはV8エンジンのレスポンスの良さと、個人的に交換した「キダスペシャル」のマフラー。このマフラーが素晴らしくて、特筆すべきは低・中速での一定速度で尾を引くような快音。甲高くて官能的なエキゾーストノートは最高に気持ち良かった。これはフェラーリ348というよりキダさんのマフラーを褒めていることになっちゃうのかな?
個人的にはフェラーリ348との相性は良くなかったと思う。1993年からフェラーリ チャレンジというワンメイクレースが始まって、その当時は348をベースにしたカップカー「348チャレンジ」で競われていた。そしてボクは「初代チャンピオンを狙うぞ!」と意気込んでいたんだけど、様々な事情が重なってエントリーできなかった。
1992年にはポルシェ911のカップカーレース「ポルシェ・カップ」でチャンピオンになっていたから「今度はフェラーリで優勝だ!」と夢が膨らんでいたからね。それに当時はフェラーリを題材にした『モデナの剣』の連載中だったから、エントリーすらできなかったのは本当に悔しかった。人生の中で唯一後悔があるとしたら、348チャレンジに出られなかったこと。それくらい悔いの残る出来事だったよ。
その後、1994年頃には『モデナの剣』がVシネマになり、主人公は竹内 力さんが演じたけど、彼の代役で348をドライブしたのは当時ドリフトで名を挙げてきた織戸 学選手だったってことを知ってた? その他にも飯田 章選手など有名レーサーが出ていて、カーシーンの監督はボクがやっていたのも懐かしい思い出だね。
Ferrari 348tb
フェラーリ 348tb
GENROQ Web解説:新時代フェラーリへの過渡期モデル
モータースポーツだけでなく、ロードゴーイングカーの頂点として君臨し続けるフェラーリ。そのラインナップはV型12気筒エンジンモデルとV型8気筒エンジンモデルの2つに分けられている。
ここで紹介するフェラーリ348シリーズはV型8気筒エンジンを搭載し、リトルフェラーリと呼ばれるモデル。リトルフェラーリとして高い人気を博した328シリーズの後継モデルとして1989年のフランクフルトモーターショーでタルガトップの「348ts」とクーペボディの「348tb」を発表。
フェラーリ308、328シリーズの流れを汲みながらボディデザインを一新した348シリーズ。サイドの大型エアインテークにはテスタロッサを彷彿とさせるフィンが与えられ、近代フェラーリの一翼を担う新たなモデルとして大きな注目を集めた。
デザインはピニンファリーナが担当し、新たな時代を感じさせるセンセーショナルな仕上がりが与えられている。リヤエンドのコンビネーションランプは308/328シリーズの丸型2連から異形の角型へと変更され、テールンプを覆うように設えたルーバーが強烈なインパクトを放つ。
348シリーズの最大のトピックはボディ構造を一新し、伝統の鋼管スペースフレームからモノコックへと変更されたことだろう。構造の一部に鋼管部分を残しながらも、一般的なボディへと変更することで生産性を著しく向上させている。しかし、その挑戦は大きな犠牲を支払うこととなり、初期モデルではシャシー剛性の不足を訴える声が数多く上がった。ちなみにボディサイズは全長4230×全幅1894×全高1170mmとなり、車両乾燥重量はクーペモデルの348tbでは1393kgとなる。
搭載されるパワーユニットは伝統の90度V型8気筒DOHC32バルブエンジンを継承し、排気量は3405ccへと拡大。300ps/7200rpmの最高出力と33.0kgm/4200rpmの最大トルクを誇る。エンジンの搭載方法は308/328シリーズの横置式から縦置き式へと変更され重量配分の最適化が図られた。トランスミッションは横置きでトランスアクスルユニットを採用する。
車名の「348」は従来のリトルフェラーリの伝統に沿い、3400ccの排気量と8気筒を搭載していることに由来。続く「t」は横置き式のトランスミッションを意味する「Trasversale」、「b」はクーペモデルを指す「Berllinetta」の頭文字となる。またオープンモデルを示す「S」は「Spider」の頭文字を意味している。
1993年2月には348tb、348tsに加えフルオープンボディの348spiderをラインナップ。そして同年5月にはマイナーチェンジが施され、車名はクーペが348GTBに、タルガトップは348GTSへと変更された。大きな変更点はバンパーのアンダー部分とサイドシルがボディと同色となり、インテリアではセンターコンソールとドアの一部に変更が与えられている。
パワーユニットでは強化バルブスプリングと圧縮率の向上、エキゾーストの取りまわしに変更を加えて高回転型のエンジンへとリファインし、最高出力は20psアップの320ps/7200rpmとなるが最大トルクは据え置かれている。
新たな時代をイメージして登場した348シリーズだが、1989年の登場から6年後の1994年まで生産されその座をF355へと引き継いだ。
TEXT/並木政孝(Masataka NAMIKI)
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