高齢ドライバーの運転ミスが原因とみられる交通事故が盛んに報道されるなか、日産は新たな取り組みとして「#助手席孝行(以下、助手席孝行)」というプロジェクトをはじめました。
自動車メーカーとして、クルマの技術進化以外の方法で高齢ドライバーの交通事故問題に向き合うというものですが、この活動からうかがえる、高齢ドライバー問題で見落とされがちなポイントとはいったいなんでしょうか。
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「#助手席孝行」をおこなう日産社員の親子 今回、日産が始めた助手席孝行という取り組みは、高齢ドライバーの家族が助手席に座って、実際の運転を見守ることで、安全運転について家族で考える機会を設けることを提案するものです。
具体的な方法として、日産は合言葉『みぎあしは』でチェックすることができる5つのポイントを挙げています。
●「み」ミラーちゃんと見てる?
走行中や交差点の進入時に、バックミラーやサイドミラーで周囲を確認できているかチェックします。
●「ぎ」ギアチェンジ迷ってない?
発進時のギア操作に間違いや迷いがなく、「P」レンジから「D」レンジ「R」レンジへの切り替えがスムーズかチェックします。
●「あ」アクセルとブレーキ急じゃない?
アクセル/ブレーキペダル間の足の移動がスムーズか、ペダル操作が急発進や急ブレーキになっていないか、チェックします。
●「し」シャカンキョリ保ててる?
法定速度を守っているか、適切な車間距離を保てているかをチェックします。
●「は」ハンドル遅れてない?
交差点やカーブのときに、ハンドルを切るのが遅れることで、急ハンドルになっていないかをチェックします。
「みぎあしは」の各チェック項目について、日産はNPO法人「高齢者安全運転支援研究会」に監修協力を依頼。だれもが覚えやすく、助手席から確認できるポイント5つをまとめたと、説明しています。
※ ※ ※
助手席孝行のプロジェクトが生まれた背景として、日産の日本マーケティング本部 ブランド&メディア戦略本部の堤雅夫部長は、次のように説明します。
「先進安全技術をクルマに搭載することで、事故を予防していくという方法も当然ありますし、弊社もさまざまな技術を新型車に搭載しています。しかし、それだけで事故を防ぐことができる訳ではないほか、日本中のクルマが事故を防ぐことのできる車両であるわけではありません。
そういったなかで、高齢ドライバーに家族からの声かけをおこなうことによっても、問題解決に貢献できるのではないかと考えました」
一方、堤部長は若年層の関心の低さについても次のように指摘します。
「プロジェクトの企画時に、社員のなかから『親の運転能力について考えたこともなかった』という声も聞かれました。親と子どもが同居している場合でも、親が運転するクルマの助手席や後席に子ども(社員)が座り、その間は運転を気にせずスマホを操作している、といったケースもあったようです」
また、高齢者安全運転支援研究会の事務局長を務める平塚雅之氏は、次のようにコメントします。
「日産が、親の運転を心配する20代から50代の『子世代』を対象に調査をおこなったところ、心配する理由で多かったものとして、『親自身が交通事故の被害者になることが心配だ』と答えた割合(72.6%)よりも、『親が交通事故の加害者になることが心配だ』と答えた割合(87.0%)の方が多い結果となっています。
メディアの報道を見て、『頼むから自分の親には加害者にならないでほしい』と考える人が増加しているのでしょう。極端にいえば、『子世代』側からすると、自身にとっての“保身”が現れているという面もあります。
親のことを思うのであれば、事故が無いのがもっとも良いことなので、そちらに思いがいくと良いですね」
※ ※ ※
すべての『子世代』にあてはまる訳ではありませんが、親の運転能力に関心が低い人が存在するほか、関心はあるものの親の事故によって自分自身が受ける影響にばかり目が向いている場合もあることがわかります。
『子世代』には、近しい立場にいるからこそできる、高齢者目線での配慮が求められています。
ダイハツがおこなう「高齢者目線」の新プロジェクトとは 一方、ダイハツも高齢者のクルマ移動に関して、新たな提案をおこなっています。
2019年7月に発売された新型「タント」では、助手席や後席に乗る高齢者の負担軽減を狙った複数の新装備を設定しましたが、これらの装備は新たな考え方に基づいて開発されたといいます。いったい、どのような着眼点に基づいて作られた装備なのでしょうか。
「タント」の装備開発でおこなわれた高齢者に向けた新たな取り組みとは 新型タントと同時に発売された高齢者向け装備は、シートやピラーに装着され助手席や後席の乗降性を向上させる「ラクスマグリップ」や、助手席側のボディ下部に設置される「ミラクルオートステップ」、ラクスマステップが握りやすい角度まで助手席が回転する「助手席ターンシート」の3つです。
これらの装備が生まれた背景には、ユーザーや営業現場からの声があったとダイハツの担当者は説明します。
「弊社はこれまでも数多くの福祉車両をラインナップしてきましたが、実際の高齢ユーザーからは『福祉車両は自分たちの乗るクルマではないと思う』という声が寄せられていました。
車いすを常時使うわけではない高齢者やその家族にとって、これまでの福祉車両には心理的抵抗があったのではないか、と考えられます。
営業スタッフからも『福祉車両をお客様におすすめするのは気を使います』という意見があり、我々は今後増加する軽介護に該当する人にぴったりのクルマを用意できていないことに気づいたのです」
それを受けダイハツは「標準車と福祉車両の『垣根をなくす』」をコンセプトに商品開発をおこないます。それをによって誕生したのが、前述の3つの装備です。
新開発されたラクスマグリップやミラクルオートステップ、助手席ターンシートは、理学療法士や大学教授、さらに実際のユーザーの意見も取り入れられ、形状や位置、大きさにこだわって開発されたといいます。
ダイハツは、今後も健康な人から介護が必要となる人まで、より多くの高齢者にシームレスな商品を展開していくとしています。
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日本の高齢化はとどまるところを知らず、「国立社会保障・人口問題研究所」によると2025年には65歳以上の人口が30%に達する見込みです。
そんななか、日産が始めたプロジェクトは高齢ドライバー自身の運転を応援するもので、一方ダイハツの新商品は高齢者が助手席や後席に座り移動することを想定したものですが、ふたつに共通している点として、高齢者の立場や意思を尊重する取り組みであることが挙げられるでしょう。
超高齢社会となって久しい日本において、高齢者のクルマ移動について新たな向き合い方が求められています。
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