「夏休みなのでグランピングに行きましょう!」という編集部・イナガキくんの発案で、カメラマンのヤスイさんと男3人で静岡県御殿場市にある「藤乃煌 富士御殿場」へ出かけることになった。ボルボがエステート艦隊の旗艦「V90」のディーゼルを貸してくれるから、というのが発端で、これほど長距離移動にふさわしいクルマもないから、最初は京都とか十和田湖とかの地名が目的地にあがった。いいですねぇ。
残念ながら諸般の事情で近場に変更となり、藤田観光グループのアウトドアデザイン&ワークスが運営する御殿場のグランピング場に落ち着いた。近頃、巷で流行るグランピングとはなんぞや? これもまたいいテーマではあるまいか。高級大型ワゴンほど、グランピングにお似合いのクルマもなさそうだ。
【主要諸元(D4インスクリプション)】全長×全幅×全高:4935mm×1890mm×1475mm、ホイールベース:2940mm、車両重量:1770kg、乗車定員:5名、エンジン:1968cc直列4気筒DOHCディーゼルターボ(190ps/4250rpm、400Nm/1750~2500rpm)、トランスミッション:8AT、駆動方式:FF、タイヤサイズ:245/45R18、価格:794万円(OP含まず)ラゲッジルーム容量は通常時560リッター、リアシートを格納すると1526リッターに拡大する。とはいえ、東京~御殿場は距離にしておよそ片道80km、都心から1時間半で到着してしまう。せっかくV90ディーゼルがあるのにモッタイナイ。というわけで、河口湖方面に寄り道してから行くことになったのだった。
取材当日の朝、芝公園にあるボルボ・カー・ジャパンまでピックアップに行くと、車寄せに“われわれ”のV90 D4インスクリプションが用意してあった。
V90のディーゼル・エンジン搭載モデルの駆動方式はFWD(前輪駆動)のみ。V90 D4が搭載するエンジンは1968cc直列4気筒DOHCディーゼルターボ(190ps/4250rpm、400Nm/1750~2500rpm)。イナガキ/ヤスイ・チームと待ち合わせた港北インターまで、まぁまぁ高速道路は流れていた。乗り心地は、基本的にフカフカと表現したくなるほど快適で、これがV90の最大の美点だと私は思う。
足まわりは、基本的にEU内の制限速度である130km/hあたりをターゲットにしてチューニングされている感じで、大きなクルマをゆったり走らせる気持ちよさがV90にはある。
メルセデス・ベンツ「Eクラス」やBMW「5シリーズ」等を、ライバルとするわけだけれど、いまやこのセグメントはどれも全長5m、ホイールベース3m弱という大きさに成長している。1979年に登場したSクラス(W126)並みのでっかさである。もちろん、大きいクルマの魅力は、大きいことにある。「大船に乗ったつもりで」というフレーズがあるけれど、まさにあの気分である。
V90 D4のJC08モード燃費は16.2km/L。搭載するトランスミッションは8AT。V90がライバルに対し特徴的なのは、直列4気筒エンジンを横置きする前輪駆動という点だ。おかげで、居住空間は後輪駆動のライバルよりゆったりしている。
そのゆったりした空間にウッドパネルがふんだんに使われている。あるひとには、って私のことですが、これが船を思わせたりもする。北欧基準のシートは大柄で、ナッパレザーのシート表皮はソフトで心地よい。ウッドとレザー、これら自然素材の温かみと、タブレット型PCみたいな液晶画面の冷たさの対比がいかにも現代的心地よさをつくりだしている。
インパネにある大型のインフォテインメント用ディスプレイが目を引くインテリア。インスクリプションのインテリアには、各所にバーチウッドパネルが使われる。試乗車のシート表皮はナパレザー。フロントシートはベンチレーションおよびマッサージ機能付き。チルトアップ機構付き電動パノラマ・ガラス・サンルーフは20万6000円のオプション。外気温は31℃。夏の盛りのことで、室温を26℃に設定しても、エアコンのファンが勢いよくまわる。そのファン・ノイズ、風切り音、あるいはロード・ノイズの類は完璧に遮断されているわけではない。
無響音室的な静かさを持たない点が速度の実感につながって、飛ばさなくても満足感が得られる。と同時に、ある種のユルさのようにも感じられる。ボルボはドライバーに緊張を強いない。そこが美点のひとつだ。
ボディは4935mm×1890mm×1475mm。最小回転半径は5.7m。スタビリティは高い。そもそも前輪駆動だし、ホイールベースが2940mmもある。直進安定性のもたらす安心感が、「大船に乗った」気分にもつながっている。こんなにでっかいクルマなのに4気筒、というのは現代ではフツーだし、その4気筒に不満がない点もまたフツーである。でも、前輪駆動というのは珍しい。
しかも、V90 D4はディーゼル・エンジンである。デンソーの燃料噴射を備える、1968ccの直列4気筒DOHCのディーゼル・ターボ、D4ユニットは最高出力190ps/4250rpm、最大トルク400Nm/1750~2500rpmを発揮する。
V90はディーゼル・エンジン搭載モデルのほか、2.0リッター直列4気筒ガソリンターボ・エンジン搭載モデルおよびPHV(プラグ・イン・ハイブリッド)モデルが選べる。PHVのパワーユニットは、2.0リッター直列4気筒ガソリンターボ・エンジン+モーター。大小、ふたつのタービンを備えるこれは、トルクコンバーター式8速ATの協力もあって、ターボラグが気にならない。トルキーかつスムーズで、ディーゼルのなかでも屈指のエンジンのひとつだと思う。ボルボは電動モデルにシフトするゆえ、ディーゼルの開発をやめる方針だけれど、いかにもモッタイナイ。
2.0リッターで400Nmという大トルクである。車重は車検証によると1790kg。このサイズにしては妥当とはいえ、軽くはない。アクセルをガバチョと踏み込むと、あるところからトルクがブワッと吹き出し、ふわりと重力が軽くなるような加速を見せる。
全車速追従型のACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)は標準。また、高度なLKA(レーン・キーピング・アシスト)も搭載するゆえ、渋滞時の負担は軽減される。ACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)などといった運転支援系スウィッチはステアリング・スポーク上にある。夏休みの首都圏の高速道路は、平日も渋滞必至である。この日は東名も港北PA付近から混んでいて、中央道へと至る圏央道ときたら、海老名のちょっと先から大渋滞だった。ディーゼルの弱点はアイドリング中にゴロゴロいっていることだけれど、V90も冷静に観察すれば、細かい振動がステアリングに伝わってきたりもする。
それでもイヤな印象を受けないのは、ボルボの“人徳”ならぬ“車徳”であるかもしれない。と書いたけれど、ようするに、そのゴロゴロ音も振動も、気にするレベルではないということである。
メーターパネルはフルデジタル。ナビゲーションマップも表示出来る。中央道に相模湖付近で合流してからもノロノロ運転が続いたのは談合坂付近で道路の工事中だったからだった。けれど、終わりのない渋滞はない。大月ジャンクションから富士吉田線に入ると空いている。やがて富士急ハイランドでジェットコースターを楽しむひとたちから発せられている悲鳴が聞こえてくる。なんて勇敢なひとたちでしょう。
V90は、クロスオーバーモデルの派生車種「V90クロスカントリー」もある。河口湖ICで降りて、ホントのレジャーだったら、富士急ハイランドに行くのもいいし、鳴沢氷穴で涼むのもいいだろう。街道沿いで売られている焼きトウモロコシとかソフトクリームとかを食べたりするのもいい。河口湖の湖畔には少年少女たちが林間合宿かなんかで来ているみたいで、遠くから眺めただけだけれど、夏休み感がビンビン漂っている。
独創的なグランピング河口湖からは富士五湖道路を通って御殿場に至る。知らなかったなぁ、元フェラーリ美術館の跡地がグランピング施設になっていたなんて。
アウトドアデザイン&ワークスの「藤乃煌(ふじのきらめき) 富士御殿場」のオープンは2018年4月だそうである。芝生の敷地のなかに、コンテナモジュールを使ったキャビンが全部で20棟ある。“われわれ”のキャビンはコンテナを2個使ったバージョンで、左がリビングとバス、トイレ、右が寝室になっていた。
「藤乃煌(ふじのきらめき) 富士御殿場」には宿泊用のキャビン20棟が、並ぶ。いくつかの部屋は、キャビンの前に愛車を置ける。置けない棟も、敷地内に駐車場があるから安心だ。敷地内にある「ビバレッジステーション」では、各種飲み物やレジャーグッズが販売されている。敷地内にあるテントのうち、ひとつは子供用のライブラリースペースだった。ふたつのコンテナのあいだはコンテナ2個分ぐらいの空間があって、ウッドデッキになっている。
ウッドデッキの奥のほうには大きなジェットバスがあって、野天ジェットバスが楽しめる。ウッドデッキのテント布の天井部分はカーテンのように簡単に開閉でき、道路に面した向きにはコンテナの前部にパネルの扉が設けてあって、これを閉めればプライバシーが完全に保たれる。
ダブルベッド仕様のほか、ツインベッド仕様の部屋もある。リビングにはテーブルセットや電気ケトルなどがある。また、施設内では無料Wi-fiも楽しめる。シャワーや洗面台など、みずまわりは綺麗だ。広々したトイレは温水洗浄機能付き。夜の帳に包まれると、私たち以外、誰もいない雰囲気になる。この施設のいちばんの魅力は? と支配人のかたに質問したら、「友人同士でなら、ここで秘密の会議ができます。家族づれだったら、子どもが走りまわることも、焚き火を楽しむこともできる。都心からこんなに近いのに」と、お答えになって、たいへん示唆に富んだことばだと思った。
開放感と自由な感じに包まれたウッドデッキで、夜、アウトドア料理をコースで味わった。オードブルやサラダ、ダッジオーブンで炊き上げた蟹のピラフなど出来上がった料理以外に、メインの肉や魚は自分で焼くハーフ調理スタイルを選択。私たちは、って私はなにもしておりませんが、イナガキくんが野菜やら魚やらアンガス牛やらを焼いてくれた。
ウッドデッキにある専用ガスオーブングリルで、メインの肉や魚を焼く。メインはアンガス牛。なお、シェフが完成させた料理を供するフルサービス・スタイルも選べる。新鮮な魚介の刺身も供する。蟹や貝など、さまざまな海鮮を使ったピラフもメニューに含まれる。お酒は持ち込み可で、私たちは御殿場のアウトレットに立ち寄ってスパークリングと赤ワインを買ってきた。サイコーである。
夜が更けるにつれ、高原の空気は澄んでくる。虫がずーっと鳴いている。カナカナカナッとヒグラシも鳴いている。御殿場が舞台の「エヴァンゲリオン」を思い出すかたもいらっしゃるに違いない。
備え付けのファイヤーピットで、焚き火を楽しめる。また、マシュマロを焼く「スモア」も楽しめる。イナガキ/ヤスイ・チームは別のキャビンに移動し、私はひとりでこのキャビンに泊まることになった。虫の声を聞きながら、野天でジェットバスを楽しんだ。昼間ドライブしたボルボV90の影響からか、「これは船だ!」と、筆者は思った。♪誰もいない海~という出だしの歌謡曲『17才』。浮かぶ歌い手は南沙織と森高千里に分かれるでしょうけれど、アレである。
グランピングと呼ばれるキャンプのいいところは、自然にたっぷり浸りながら、寝袋ではなくて、柔らかいベッドと清潔なシーツがある点である。それってたぶん、ホンモノのクルーザーと同じではあるまいか。
部屋の鍵や栓抜きなどは、木製の専用ボックスに入っている。また、自然に囲まれているせいで、感覚がワイルドに研ぎ澄まされていく。太古の時代へ戻っていくような気さえする。『17才』ではないが、♪私は今 生きている~のだ。
そのあと私は、♪二人の愛をたしかめたくて~とはならず、ひとりで長い夜を過ごしたわけだけれど、安心してください、ピピピピという鳥の声で目覚めた朝はサイコーに爽やかだった。
朝食は、敷地内のどこでも食べられるようバスケットに入っている。なお、バスケットには朝食のほか、ビニールシートなども同封されている。ボルボ V90と「藤乃煌」の組み合わせは最強タッグである。陸上でのクルーザー体験というものがあるとすれば、これだ! と私は思った。ぜひお試しください。
文・今尾直樹 写真・安井宏充(Weekend.)
【藤乃煌 富士御殿場】
〒412-0026 静岡県御殿場市東田中3373-25
予約・問合せ:0550-75-9111
https://www.fu-ji-no.jp/kirameki/index.html
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